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フィクションでたまにある銃弾を撃ち落とすシーンは、実際に再現可能なのか?

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー

いよいよ、明日から7月に入ります。夏はすぐそこ。そして、夏がくれば、熱いアクション作品が見たくなります。来月はバイオハザードやミッション:インポッシブルをはじめ、アクション系の映画の公開も目白押しですね。

というわけで、今回はアクション作品に関する科学考察をします。

ガン・アクションのある漫画、アニメ、映画などではトンデモナイ技術が登場することがありますよね。銃弾を切ったり、弾き返したり、跳弾を利用して狙えない位置にいる敵を倒したり、銃弾で銃弾を撃ち落としたり。
どれも実際に再現するのは難しそうですが、今回は特に難しそうな、銃弾で銃弾を撃ち落とすシーンについて検証してみましょう!

その状況は、仲間が銃で撃たれる直前に駆けつけた主人公が、放たれた敵の銃弾を銃で撃ち落とす場面としましょう。生きるか死ぬかぎりぎりの緊張感が走るスリリングなシーンです。

敵(緑)が、仲間(青)に向けて発砲。主人公(赤)は仲間を助けられるのか?
敵(緑)が、仲間(青)に向けて発砲。主人公(赤)は仲間を助けられるのか?

青色が囚われた仲間。
緑色をした敵が仲間を撃とうとしています。
赤色の主人公が到着しました。
その瞬間、敵が発砲!!
主人公はその銃弾を撃ち落として仲間を助けようとしますが・・・

戦場跡を調べると「行合弾」と言って、銃弾と銃弾が空中でぶつかり合った痕跡のある弾がよく見つかるそうで、狙いを定めなくても何万発も撃ちあえば銃弾と銃弾がぶつかる現象は珍しくないとのこと。当てようと思って狙えばもっと高い確率で銃弾を撃つことが可能でしょう。ただし、一発の弾を一発の弾で撃つとなると、かなり難易度が上がります。

果たして主人公は仲間を救うことができるのか?
計算してみましょう。

まずは条件設定をします

前提として、敵の銃弾は何もしなければ仲間に命中してしまうものとし、主人公が撃った弾が敵の銃弾のどこかにかすりさえすれば仲間を助けられることにします。

敵と仲間との間の距離は50mとし、主人公と仲間との距離は10m、主人公と敵は仲間をはさんで垂直な位置にいるものと仮定します。そして、主人公は敵の撃った弾を、仲間の目の前すれすれの位置で撃ち落とそうとしています。

主人公・仲間・敵の位置関係
主人公・仲間・敵の位置関係

敵はピストルを使っていて、撃つ弾は秒速340mで飛ぶと考えます。ちなみにこの速度は音の速さと同じで、一般的な拳銃の性能だとこれくらいの速度で銃弾が発射されます。

主人公に持たせる銃が同じ性能では主人公の分が悪すぎるので、主人公が使うのは敵の銃の3倍の速度(秒速1020m)の弾を撃てるライフルとしましょう。
また、主人公の射撃技術は凄まじく高く、銃を撃てばその弾は必ず狙い通りの場所に飛んでいくものとします。

主人公に与えられた時間は?

秒速340mの弾が50m飛ぶのにかかる時間は約0.15秒。仲間のすれすれの位置で弾を撃ち落とすとしても、主人公にはこれだけの猶予時間しかありません。
さらに、主人公がいるのは仲間から10mの位置。主人公が撃った弾が、その距離を移動するのにかかる時間は、約0.01秒。この時間は主人公がどう頑張っても短縮できません。
つまり、主人公は0.14秒の間に狙いを定め、銃を撃たなくてはならないことになります。

人間の反応(無意識的な反射ではなく、意識的な動作の場合)の速さは一般人の場合、平均で0.2秒ほどだと言われています。しかし、スポーツ選手やプロゲーマーの人では0.10~0.15秒ほどで反応することができるそうです。

世界レベルの短距離走では合図から0.12秒程度でスタートを切ることが理想的とされているそうです。一方、0.1秒以下で反応することは不可能とされていて、合図から0.1秒以下でスタートを切るとフライングになってしまいます。

ということは、事前に引き金に指をかけて軽く力を入れておくなどすれば、敵の発砲から0.14秒以内に銃を撃つこと自体は不可能ではないでしょう。
(ただし、敵・仲間・主人公の位置関係から音を聞いてからの反応では間に合いません。主人公は敵を見て、敵の指の動きなどで判断する必要があります)

仮に主人公が世界トップレベルのスポーツ選手の限界とされる0.1秒で反応できるとすれば、狙いを定めるのにかけられる時間は約0.04秒。この間に主人公は敵の弾道を予測し、そこに狙いを定めたのでしょう。普通の人間にはまず無理ですが、ここは主人公の超絶的な射撃技術のなせるワザとしておきましょう。

ここまで計算してみて、銃弾で銃弾を撃ち落として仲間を守ることもギリギリできそうな気がしてきました。しかし、最後に一つ、大きな問題が残ります。それは、タイミングです。

銃弾が狙った位置を通る時間は?

いくら主人公の狙いが完璧でも、敵の弾がその位置を通り過ぎていたり、逆にまだその位置に届いていなかったりすれば、主人公の弾は敵の弾に当たりません。映画『ウォンテッド』のように撃った弾の軌道が、相手の弾をめがけて曲がってくれれば話は別ですが……。

つまり、主人公は弾道を予測して敵の弾を撃ち落とす地点を正確に狙ったうえで、敵の弾がその位置に到達するのと同じタイミングで、自分の弾がそこに到達するように銃を撃たなければなりません。

銃弾イメージ
銃弾イメージ

拳銃の弾の長さは長い物でも4cmほど。映画やドラマでは演出のため、弾全体が飛んでいく映像が描かれることもありますが、実際に飛んでいくのは薬莢の部分を除いた弾頭の部分だけ。その長さはおよそ1cmくらいでしょう。
1cmの物体が秒速340mで移動しているわけですから、狙った位置に弾がいる時間はわずか0.00002秒ほど。このタイミングをとらえて銃を撃つのはまず不可能でしょう。とにかく撃って、タイミングが合うことを祈るような状態になると思います。
仮に主人公が±0.05秒の誤差範囲で銃を撃ったとして、タイミングがぴったり合う確率は0.02%ほどになります。いくら狙いが完璧でも、こんな確率でしか敵の弾を撃ち落とせません。

ちゃんと当たる場所に撃ったとしても成功率0.02%。危険すぎる賭けです。

敵の弾を撃ち落とす確率を上げるには?

百発百中は無理でも、せめて2~3割くらいの確率で成功しなければ技術とは言えないでしょう。そこで少しでも確率を上げる方法を考えてみました。

まずは、主人公の撃つ銃弾に広がりを持たせてはどうでしょうか。
主人公にライフルではなくショットガンを装備させてみます。ショットガンは散弾銃とも呼ばれ、細かく分かれた弾が同心円状に広がって飛び散るのが特徴です。ライフルよりは射程や精度が劣りますが、敵の銃弾を面でとらえることが出来ます。

ショットガン(散弾銃)の弾は同心円状に広がる
ショットガン(散弾銃)の弾は同心円状に広がる

弾の隙間を銃弾が通過してしまう可能性もありますが、散弾が直径約1mに広がり、その範囲内に敵の銃弾があれば撃ち落とせると仮定した場合、撃ち落とせる確率は2~3%くらいまで向上します。

さらに飛躍的に撃ち落とせるようにするには、迎撃ミサイルのように、なるべく正面から撃つと良いでしょう。これならば、相手の弾の位置が多少前後しても大丈夫ですから、かなり高確率で敵の弾を撃ち落とせるはずです。

正面からなら高確率で撃ち落とせる
正面からなら高確率で撃ち落とせる

ただし、これには一つ問題が・・・。
そう、主人公と敵の間には、助けるべき仲間がいるはずなのです。上記の方法なら敵の弾は撃ち落とせるかもしれませんが、間にいる仲間は、主人公と敵とによって前後から撃たれてしまいます。これでは、仲間を救うことはできません。

また、一つ前の図のように横から撃った場合でも、ショットガンの弾は広がるので、流れ弾が仲間に当たってしまう危険が伴います。

不可能だからこそ熱い!!

ここまで計算してみましたが、銃弾で銃弾を撃ち落とすことは理論上、再現できそうです。ただし、仲間を助けるためとか、身を守るためだとか、狙ってできることではありません。実際に再現するには、銃を何発も連射して、弾と弾とがたまたまぶつかるのを待つ感じになるでしょう。

イメージ
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映画『ジョン・ウィック』シリーズのようなガンフーや、『ルパン三世』シリーズの次元のようなテクニック、五ェ門のように銃弾を切り払う技。いずれもマネできる気がしませんが、そんな超絶技術をサラリと披露する主人公たちの活躍は見ていてスカッとしますよね。
再現が難しいと分かったからこそ、アクション作品を見るときには、主人公たちの華麗な技によりいっそう酔いしれましょう!!

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

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