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梅雨明けまであと少し。ジメッとした気分は映画を見て乗り切ろう!

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー

雨が降ったり、曇りが続いたりして気分までどんよりとしてしまう梅雨の時期。沖縄は6月25日に梅雨明けしたとのことですが、それ以外の地域では今日明日辺り、また雨が降りそうな様子です。
洗濯物は乾かないし、お出かけにも不便。そろそろうんざりしている人も多いはずです。そんな方のために、今回は梅雨が少しでも好きになれそうな、雨をポジティブに感じられる作品をご紹介します。

1952年の作品ながら、今見ても素晴らしい名作

『雨に唄えば(Singin' in the Rain)』

物語の舞台は、サイレント映画(無声映画)からトーキー映画(発声映画)へと移行する時期のハリウッドです。俳優のドン・ロックウッドと大女優のリナ・ラモントは、無声映画で人気の大スターでしたが、ハリウッドにトーキー映画の波が押し寄せたことにより波乱が起こります。また、リナに思いを寄せられているにもかかわらず、ドンは新人女優のキャシーと恋に落ちてしまい、そちらでも一波乱。いろいろな問題が起きつつも、ドンたちは初めてのトーキー映画作りに挑みます。トーキー映画は成功するのか、ドンとリナとキャシーの仲はどうなるのか。その辺りを主軸にストーリーは展開します。

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雨というテーマで選ぶときには外せない一作が、この『雨に唄えば』でしょう。有名な作品ですから見たことがあるという人も多いかと思いますが、雨の中でタップダンスを踊るシーンは、見ているだけで楽しくなりますね。「また雨だ」とか「ぬれるのが嫌」とか「ジメジメする」だなんて文句を言っているのがもったいなく感じてしまうほど、雨が魅力的に感じられます。

もちろん、タップダンスのシーン以外もとてもいい作品です。
ただし、古い映画のためか演出の仕方が今とは違っていて、展開の早い現代の作品に慣れていると、スピード感に欠けた印象を持つかもしれません。特にミュージカルの歌のシーンが長めにとられているので、本作を見るときには、物語を追うだけでなく歌やダンスそのものも楽しむ気持ちでいましょう。

キャラクターたちのチャーミングさや、歌やダンスパフォーマンスの楽しさも本作の魅力ですが、セリフや演技の作り方にもぜひ注目してもらいたいところ。
特に印象的なのはラストシーン。ドン、キャシー、リナの間に大きな亀裂が走り、キャシーはドンに不信感を持ちます。その後、キャシーはドンの気持ちに気付き……。
これから見る人のためにこれ以上は書きませんが、物語の締めくくりとしてとてもいいシーンです。わずか数分のシーンで三人の心は大きく動き、状況もすっかり変化してしまいます。そんな大切なシーンにもかかわらず、この一連のシーンにはセリフはほとんどありません。感情や思いは「You Are My Lucky Star」という曲だけで表現されています。
説明はなくてもシーンの意味がしっかりと伝わり、無駄なセリフがないぶん、より胸にぐっと迫ってきます。雨の中のダンスシーンもいいのですが、本作を見る際にはぜひこのシーンにも注目してください。

また、本作は映画を作る物語なので、CGや合成技術のない昔の映画作りの現場を垣間見れるという楽しさもあります。1952年当時では普通だった感覚が、今見ると逆に新鮮で、新しい発見があるかもしれません。たとえば私の場合、作中でドンの友人のコズモが、現代で言う異世界転生のような発想を口にしてるのを見て、「いつの時代も転生への願望や浪漫が存在していたのだなぁ」と気づかされました。

なお、本作の吹き替え版は歌(英語)に字幕がない場合があるので、配信の場合は字幕版で見るのがオススメです。

見終わったら、きっと、しとしと雨の中を歩きたくなる

『ミッドナイト・イン・パリ (Midnight in Paris)』

ウディ・アレン監督による2011年の映画。
物語の舞台は2010年のパリ。ギルは婚約者のイネスとともにパリを訪れている。彼はハリウッド映画の脚本家だが、脚本の仕事はつまらないと、小説を書こうとしている。ギルはパリに住み、小説を書きたい。しかし、イネスはパリを嫌い、ギルが小説を書くこともあまりよく思っていない。ある夜中、ギルは何故か1920年代のパリにタイムスリップする。1920年代はギルにとってもっとも憧れた黄金時代。ギルはそこでヘミングウェイ(実在の作家)と出会い、自分の小説を読んで欲しいと頼む。また、ギルはアドリアナという女性と出会い一目ぼれする。ギルは現代と過去とを行き来するようになり、イネスは夜中にときどき姿を消すギルを怪しむようになって……。

本作には、全編を通して、ウディ・アレン監督の作品らしいオシャレな雰囲気がただよっています。
街並み、音楽、衣装。映像を眺めているだけでも楽しめそうな本作ですが、ストーリーもよくできていて、アカデミー賞やゴールデングローブ賞などで脚本賞を受賞しています。

キャラクターたちのセリフも、一つ一つがとても活き活きと躍動して感じられます。「ヘミングウェイの力強さや人間臭さ」、「イネスの友人・ポールの嫌味な感じ」、「登場時間は短いものの異様な存在感を放つダリの個性」などがセリフで的確に表現されています。ギルと出会ったヘミングウェイが、ギルの書いた小説に向けて放つ言葉はとくに秀逸なセリフだと思います。

肝心の雨のシーンは、物語ラストに出てきます。
ギルの心の中を映したような雨は、少し冷たく、でも清々しく、雨なのに晴れやかな感じに描かれています。映画を見終わった後には、しとしとと降る雨の中を散歩してみたいような気分になっているはず。雨が続いて鬱陶しいな、と思うときにこの映画を見れば、きっと雨音が心地良く聞こえてくるに違いありません。

ウディ・アレン監督作には他にも、『レイニーデイ・イン・ニューヨーク(A Rainy Day in New York)』という雨の印象的な映画がありますが、雨をポジティブにとらえるというテーマには、『ミッドナイト・イン・パリ』のほうがふさわしいでしょう。

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雨にまつわる作品は他にもまだまだ・・・

今回は雨をポジティブに感じられる作品と言うことで、『雨に唄えば』と『ミッドナイト・イン・パリ』の2作品を紹介しましたが、雨が印象的な作品は他にも沢山あります。
『シェイプ・オブ・ウォーター』とか『ノア 約束の舟』も雨や水が関連する作品ですし、アニメ作品なら新海誠監督のアニメ映画『天気の子』も雨が印象的ですね。TVアニメ『銀魂』の111話には梅雨の話があり、なかなか爽やかな余韻が得られます。

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撮影で雨を降らせるのにはとてもお金がかかるということで、最近の邦画やドラマでは雨のシーンが少なくなっている傾向ですが、一昔前のドラマでは失恋シーンや挫折シーンでよく雨が降っていました。

雨の多くて鬱陶しい梅雨の時期ですが、この際、開き直って新たな雨作品を探してみるのもいいかもしれません。梅雨ももう折り返し、エンタメの力で楽しく乗り切りましょう!

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

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