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家族と友人と恋人と、あるいは一人でも見たい、クリスマスの夜を彩る名作『ポーラー・エクスプレス』の魅力

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー

いよいよクリスマス!

ということで、クリスマスにオススメしたい名作映画を紹介&解説します。
今回の作品はタイトルにもある通り『ポーラー・エクスプレス』です。旧作なので見たことのある方もいると思いますが、未視聴でしたらこの機会にチェックしてみてはいかがでしょうか?

ポーラー・エクスプレス

2004年の公開。原作は『ジュマンジ』でも知られる児童文学作家クリス・ヴァン・オールズバーグの絵本で、本の邦題はタイトルを和訳した『急行「北極号」』でした。映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズや、『フォレスト・ガンプ/一期一会』で知られるロバート・ゼメキス監督が監督・脚本を務め、トム・ハンクスが製作総指揮と主演を担当しています。また、本作は全編に渡って3DCG映像で作られています。

フルCG映画としての本作の魅力は、キャラクタたちが3DCGにありがちな冷たい存在ではなく、一人ひとりが温かみのある活き活きとした人物として描かれていることです。

どうしてそんな映像が作れるのかというと、本作のキャラクタたちの動きはパフォーマンス・キャプチャーによって作られており、俳優たちの演技が反映されているからだそうです。

パフォーマンス・キャプチャーとは
センサやカメラによって動作を読み取り、CGの動きに反映させる技術。モーション・キャプチャーと呼ばれることもあるが、パフォーマンス・キャプチャーという場合は身体の動きだけでなく表情の変化も取り込む手法を指すことが多い。

モーション・キャプチャー(または、パフォーマンス・キャプチャー)は、現在でこそ一般的に使われている技術ですが、20年前はコンピュータやセンサが今ほど発達していなかったので実用するのはかなり大変な作業でした。また、映画で使われる技術としてはモーション・キャプチャーが主流で、表情まで読み取るパフォーマンス・キャプチャーは困難なものだったようです。そんななか、本作では、200台ものカメラを用いることで俳優の表情まで細かく読み取る、高度なパフォーマンス・キャプチャーが採用されています。

筆者の家にあった汽車のフィギュア(模型)
筆者の家にあった汽車のフィギュア(模型)

※サムネイルにも使った汽車模型。別角度の写真をX(旧Twitter)でも公開しているので、模型の作りなどが気になる方は見てみてください。

本作の主役は、主人公のヒーロー・ボーイを中心とした子どもたちです。ちなみに主人公のヒーロー・ボーイは8歳の少年です。

クリスマス前夜の11時55分、サンタクロースを信じられなくなって夢を失いかけた少年(ヒーロー・ボーイ)のもとに、ポーラー・エクスプレスという汽車が迎えに来ます。その汽車はサンタクロースがいる北極点に向かう魔法の汽車でした。乗るかどうかはキミ次第だと告げられた少年は、勇気を出してその汽車に乗ります。汽車の中には少年の他にも子どもたちがいて……。クリスマス前夜の大冒険が始まります。

実写映画では子どもの役は同じ年代の子役がするしかありませんが、多彩な演技や表現力を持つ子役は滅多にいません。10年にも満たない人生経験の子どもたちに、深みのある演技を要求する方が無理がありますよね。そのため、撮影や演出などで子役の演技力を補う必要があります。

一方、本作では主要な子どもの役は実績のある大人の俳優が演じています。ヒーロー・ボーイ(演:トム・ハンクス)、ヒーロー・ガール(演:ノーナ・ゲイ)、ロンリー・ボーイ(演:ピーター・スコラリ)など。

演技力のある俳優たちがCG技術によって子どもの姿に戻って演技しているため、子役では表現しきれないほど豊かな動作や表情が可能で、本作の子どもたちはとても活き活きとしたキャラクターになっています。
なお、全ての役を大人が担当してしまうのではなく、ちゃんと子役の演技も使われているため、全体を通した子どもたちの雰囲気も自然です。

ここまでは映像的な魅力を書いてきましたが、本作の魅力を語るうえでは夢の詰まったストーリーも外せません。「サンタクロースなんていない!」と言い出した子どもから、ファンタジーや夢の世界にワクワク出来なくなってしまった大人まで、忘れかけていた何かを思い出させてくれる作品です。
心温まるシーンもあれば、手に汗握るような動きの激しいシーンもあり、大人から子どもまで、みんなで一緒に楽しめます。

映画の序盤で、ポーラー・エクスプレスの車掌さんが少年に「大切なのは行き先じゃない。“乗ろう”と決めることだ」と言います。子ども心にも何か熱いものを感じるセリフでしたが、大人になってから聞くと深い言葉ですね。

また、子どもたちの名前がはっきりと出てこない辺りも、物語の主人公は君たち自身だと言われているようでいいですね。
本来は登場人物の名前が曖昧だとキャラクター作りに失敗することが多く、若い作手がやりがちなマズい演出とされることもあります。しかし、この作品の場合は名前がないことが良さになっていました。

セリフ、映像、構成、そして結末。本作は観る人たちに「夢」や「希望」を抱かせることへ、とても強いこだわりを感じる映画でした。
出来るだけネタバレをしないため細かなストーリーは書きませんでしたが、色褪せない物語は、今見ても楽しく温かな気持ちにさせてくれます。
クリスマスの夜にほっこりと楽しまれてみては?

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

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