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「世界最古のワイン造りに挑む」即日完売が続く北海道のワイン生産者 新たな挑戦

山田裕一郎フィルムメーカー

<世界最古のワイン製造法に挑む北海道のワイン農家・近藤良介の挑戦>
東欧ジョージアの「世界最古」といわれるワイン造りに挑む男性が、北海道空知地方にいる。KONDOヴィンヤードの近藤良介さん(46)だ。ぶどう畑を耕すのに馬を使ってみたり、畑の中を雑草でいっぱいにしたり、地中に埋めた大きな甕(かめ)でワインを醸造したり。収穫や仕込みの時期になると、その独特なワイン造りに魅せられた多くのボランティアが北海道からだけではなく、全国からやってくる。多くの人を魅了し続ける近藤さんのワイン造りを追った。

化学肥料や化学薬品を使わないで造る自然派ワイン(ナチュラルワイン)と呼ばれるワインの人気が高まってきている。日本有数のワインの産地となった北海道でも、自然派ワインを作るワイナリーが増えてきている。その中でも、近藤さんの「シンプルな昔のやり方」による、ワイン造りへの取り組みは異色で、ワイン通の中で注目が集まっている。

2013年にワインを販売して以来、発売と同時に売り切れが続いている。2015年には、雑誌「BRUTUS(ブルータス)」のワイン特集で、KONDOヴィンヤードの白ワインが1位となり、高い評価を受けている。しかし、近藤さんは、ワイン用のぶどう畑を自ら始めてから苦難の連続だった。

<KONDOヴィンヤードをはじめて>
近藤さんが、北海道の空知地方に、ワイン用のぶどう畑をはじめたのは2007年のこと。家族経営の小さなKONDOヴィンヤードは、三笠市にある耕作放棄地を、自分で耕すことからはじまった。化学肥料や化学薬品に頼るのではなく、ぶどう自身にとって快適な環境を作ることを目指した。

最初に植えたぶどうの木が、収穫できるまでに少なくとも3年かかるといわれる。しかし、近藤さんのワイン造りは困難を極めた。雨などの天候不良に加え、ウサギや虫などによる被害があり、予定していた収穫量のわずか2割しかぶどうが収穫できない年もあった。ワインができるまでは収入がないため、他の農家の手伝いなどのアルバイトで生活費を稼がなければならない。ようやく販売できるワインができたのは、ぶどうを植えて5年後のことだった。

それと並行して、2011年には、岩見沢市栗沢にも畑を拓き、ぶどうを植えた。その畑は、長年使われていた除草剤や化学肥料の影響で、草がほとんど生えない土地だったという。しかし、近藤さんの手によって、いまでは緑あふれるぶどう畑となっている。

現代の農業が、当たり前のように除草剤で取り除く雑草ですら、近藤さんのぶどう畑にとっては、大切な構成要素なのだ。「周りを全て排除するのではなく、ある程度、多様性がある中で、たくましく生きるのがぶどうの理想の形」と近藤さんは話す。雑草や、その下で暮らす昆虫や微生物の存在が、近藤さんが求めるワイン造りには大切という。

<挑戦を続けるKONDOヴィンヤード>
KONDOヴィンヤードでは、2017年からもう一つの新たな挑戦をはじめた。クヴェヴリ製法と呼ばれる東欧ジョージアの伝統的なワイン製法でのワイン造りだ。

紀元前6,000年(日本では縄文時代)から続く世界最古のワイン製造法で、地中に埋めた大きな甕を使ってワインを熟成させる。ジョージアワインは、その特徴的な琥珀色からアンバーワインやオレンジワインと呼ばれ、2013年には、和食とともにユネスコの無形文化遺産に登録された。日本でクヴェヴリを使ってワイン造りをしているのは、数件しかいない。

KONDOヴィンヤードでは2017年から収穫したぶどうをそれぞれ甕に入れ、クヴェヴリワインを造っている。「現代のような機械や道具がなかった時代の、ワイン造りの根源をのぞいてみたい」と近藤さんは話す。2020年3月には、初めてできた450本のクヴェヴリワインを販売し、即日完売となった。

世界最古のワイン製造法によって造られる、現代の人々にも通じるワインの味を追求する近藤さんと妻・智子さんの挑戦は続く。

フィルムメーカー

北海道出身のフィルムメーカー。ニューヨーク州立大学ビンガムトン校で実験映画を学び、同大学バッファロー校大学院では、ドキュメンタリーとダンス映像の制作を学び、2010年に帰国。2011年に北海道でヤマダアートフィルムを立ち上げる。主に、大学や専門学校、病院などの広報動画を制作しながら、短編ドキュメンタリー映画を制作。2017年には東京都主催Beyond Awardにて、車いすソフトボールを取材した作品が優秀賞と観客賞を受賞。2018年には、札幌国際短編映画祭で「Choreographer/平原慎太郎の創作」がアミノアップ北海道監督賞を受賞した。大学や専門学校で映像制作論の非常勤講師を務める。

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