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「俺とイチロー、どっちが好きなの?」 26年思い続けた女性イチローファンが目指す『自立』

山崎エマドキュメンタリーフィルムメーカー

2019年3月21日。イチローさんが引退した夜、私には運命の出会いがあった。5万近くある東京ドームの座席の中で、私の目の前に座っていた寺島晶さん。あの夜、悲しみの波に溺れながらも覚えているのは、彼女の背中からヒシヒシと感じるイチローさんへの思いだった。

試合も終盤に差し掛かったところ、私は勇気を出して寺島さんに声をかけた。お互いにとって歴史的な日を共に過ごし、共に涙することになった彼女は、その日の出会いをきっかけに、数々の熱烈なイチローファンを私に紹介してくれた。その結果「イチローファン物語」が出来上がっていった。寺島さんはこのシリーズの裏の立役者でもあるのだ。

寺島さんのイチローファン歴は26年。中学生の頃から、自身の人生の半分以上もイチローさんを思い続けている。最初の頃は下敷きにイチローさんの写真を挟んで使うなど、アイドルに近い感覚。だが、自分が歳を重ねていく中でイチローさんの見方は変わっていったと言う。

「大学受験も失敗したし、就職活動も思ったところには行けなかった。どう考えても、人より努力や準備が足りなかった。そういう経験をしたからこそ、イチローさんの凄さが理解できるようになった」。

バブル崩壊後の就職氷河期最後の世代だった寺島さんは、第一希望の職にはつけなかったが、それでも大手の会社に就職。上司も同僚も「仕事ができる!」と口を揃える。資料の作成などには尋常ではないこだわりがあるといい、美しい表を目指す部分や、何事にも真面目に取り組み、努力を惜しまぬ姿はイチローの影響と皆感じている。

「イチローが好きすぎて、男の人の見る目が厳しすぎると言うことはないのですか?」。同僚からの質問に寺島さんからは想像を超える答えが……。
「私が付き合った男性は、全員イチローが嫌い。『俺とイチローどっちが好きなの?』と聞かれ、それでダメになったことも…」

今年9月にシアトルであった「イチロー・セレブレーション・ウィークエンド」に向けて、準備を進める寺島さん。「本人にはいい状態で会わないと!」と美容室へ。寺島さんは「イチローさんが引退したら…あれだけ好きなことをやめると死んじゃうんじゃないか」と勝手に心配したこともあると笑う。寺島さん自身も、今年は人生の新たな意味を見つけようと少なからず考えてきたに違いない。その何かのきっかけを求めに、シアトルに向かったように見えた。

イチロー・セレブレーション・ウィークエンド。イチローさんが英語で行ったスピーチの様子はニュースでも取り上げられたが、実はその前日、イチローさんの過去の映像とともに花火を鑑賞するイベントもあった。輝かしいイチローさんの映像を見ながら涙を流す寺島さんの心中には、自身の「ポスト・イチロー」の第二章に向けての決意もあると感じた。

「生きている世界は全く違う。超スーパースターと会社員。でもイチローさんの背中を追って頑張ってきたのを、イチローさんがいなくても自分を高いところに持って行けるようになりたい。『イチローさんがそうだから』ではなく、自立をしないといけないと最近思います」。

イチローさんの情報、姿、言葉を受け取ることが減った今だからこそ、寺島さんの言葉が心に胸に突き刺さった。今年一番悲しかった日に生まれた運命の出会いから半年間。イチローファンの先輩として、そして人生の先輩として寺島さんに多くのことを学んだ。共通のヒーローがくれた宝物に心から感謝したい。

ここまで人間形成してくれたイチローさんに、今後は頼り過ぎず、「自立」してより羽ばたいていく寺島さんの姿。イチローさんに届け!

イチローファン物語、次回に続きます。

受賞歴

監督・編集 山崎エマ
プロデューサー エリック・ニアリ

制作 シネリック・クリエイティブ

クレジット

監督・編集 山崎エマ
プロデューサー エリック・ニアリ

制作 シネリック・クリエイティブ

ドキュメンタリーフィルムメーカー

山崎エマ(Ema Ryan Yamazaki) 日本人の母とイギリス人の父を持つ。19才で渡米しニューヨーク大学卒業後、編集者としてキャリアを開始。長編初監督作品『モンキービジネス:おさるのジョージ著者の大冒険』ではクラウドファンディングで2000万円を集め、2017年に世界配給。夏の甲子園100回大会を迎えた高校野球を社会の縮図として捉えた『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』は、2020年米スポーツチャンネルESPNで放送し、日本でも劇場公開。最新作では都内のある小学校の一年に密着。日本人の心を持ちながら外国人の視点が理解できる立場を活かし、ニューヨークと日本を行き来しながら活動中。

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