Yahoo!ニュース

【柏餅のみそ餡を深堀り!】江戸生まれの柏餅、庶民の味から紡がれる約300年の美味しい歴史

柳谷ナオ和菓子ソムリエ・ライター

和菓子ソムリエの柳谷(ヤナギヤ)です。

今年のこどもの日は、どんな節句菓子を召し上がりましたか?粽、季節の練り切り、はたまた洋菓子では鯉のぼりを模したロールケーキなんかも販売されていましたね。

ですが、やはり最も多く召し上がる方も多かったものといえば「柏餅」ではないでしょうか。

どの和菓子屋さんでも、もしくはスーパーやコンビニなどでも柏餅が販売されていたかと思いますが、どんな餡子の柏餅を召し上がりましたか?

粒餡、こし餡、味噌餡と概ねこちらの三種類の餡子のいずれか(もしくは私同様全て)かと思うのですが、今回和菓子ソムリエとしてご紹介したいのが、【味噌餡】の柏餅。

もう過ぎてしまいましたが、ぜひ来年の参考や小話のひとつとして話題にあげていただけたらなと思います。

いずれも似て異なる味噌餡の柏餅のお写真と一緒にどうぞ!

菓匠花見
菓匠花見

さて、「端午の節句にいただく柏餅」が誕生したのは、江戸時代中期といわれています。徳川家将軍でいいますと、9代目~10代目のあたりですね。それ以前、豊臣秀吉の時代から柏餅の原型ともいわれるお菓子はありましたが、こどもの日に食べる柏餅、として定着しはじめたのが江戸時代中期。

時代は武士社会。武家諸法度なんかも制定されるほど、武士、特に男児への期待が大きい時代でした。

柏餅を包んでいる柏の葉も、防腐や殺菌作用という特性があるからという点もありますが、「冬になっても落葉せず、次の葉の新芽が芽吹いてから散る」ということや、葉の形が兜に似ているということから、子孫繁栄を象徴する植物のひとつとされていたほど、子供の健やかな成長への意識が高かったのでしょう。

八丁堀伊勢屋
八丁堀伊勢屋

一般庶民の間でも、季節の節目やお祝い事の風習はひろまりましたが、権力や財力のある武家はともかく、お砂糖を使用した甘い餡子はまだまだ高値の花でした。甘いものといえば蜂蜜、干し柿、水飴…8代目将軍のころから国内でも砂糖の栽培が推進されてきましたが、街に出回るようになり町民が和菓子として口にできるようになったのはもう少し先の事。

それまでは、少ない甘味料でいかに甘味をだすか、という知恵から、柏餅は「味噌餡」の方が多く出回っていたと私は考えています。餡子も小豆ではなく、もう少し安価な白ササゲ豆の白餡だったのではないかと。

日本橋ときわ木
日本橋ときわ木

味噌餡というのには根拠があり、西瓜やトマトに塩をふりかけると、より甘く感じるという現象に心当たりはありませんか?

それと同様に、塩気を加えることにより甘味が引きだされるため、味噌を使用した味噌餡が多かったと推測。

では、どんな味噌が使用されていたのか?

実は江戸には、「江戸味噌」という独自の味噌がありました。

簡単に説明しますと、

●江戸味噌…大豆1(蒸)、米麹1、塩分10%前後、熟成期間2週間程

●白味噌(関西の甘い物)…大豆1(茹で)、米麹2、塩分5%前後、熟成期間1~2週間程

●赤味噌(仙台味噌等)…大豆1(蒸)、米麹0.5前後、塩分13%前後、熟成期間10か月以上

※白味噌には信州味噌という淡色辛口のお味噌もございますが、今回は奈良や京都の甘い白味噌の配合です。

と、江戸味噌は白味噌と赤味噌の良いとこ取りといっても過言ではない存在でした。一説によると、江戸幕府を開いた徳川家康は愛知県岡崎市出身ということもあり、八丁味噌が大好物だったとか。また、八丁味噌だけではなく味噌好きだったということから、江戸でも「白味噌のようでもあり八丁味噌のようでもある味噌は作れないか」と提案したことから、江戸味噌が誕生したとか。

さてこの江戸味噌。実はもうひとつ別な配合のものがございまして、それが今回特にご紹介したいお味噌でもあるんです。その名も、【江戸甘味噌】。配合は、

●江戸甘味噌…大豆1(蒸)、米麹2、塩分6%前後、熟成期間2週間程

江戸味噌の約二倍の米麹を使用し、より甘味の強いリッチな味わいとなった江戸甘味噌。

あぶまた味噌・江戸甘味噌
あぶまた味噌・江戸甘味噌

柔らかめの八丁味噌のような容姿
柔らかめの八丁味噌のような容姿

今回は東京都中野区に本社を構える「(株)あぶまた味噌」さんの江戸甘味噌を参考に致しました。

非常に深い赤褐色のお味噌を、このまま小指の爪の半分程ぺろりと。

なるほど、甘い!確かに甘いんです!白味噌のとろりとした丸みを帯びた甘味で、塩気の程度もそのままでもおつまみや箸休めに食べられそうなほど。しかしそれだけでは終わらず、八丁味噌のようなキレと深いコク、仄かな渋みが最後に頭角を現し、ハイブリッド味噌ともいうべき不思議な感覚。

江戸の庶民にとっては高級品だったことは間違いないかと思いますが、もしかしたら端午の節句など、特別な節目の日にはこちらを使用した味噌餡の柏餅を食べていたのではないかと思うのです。多少値が張っても、その日だけということであれば売れ行きは好調だったのかなと。

その江戸甘味噌を使用した珍しい柏餅を、このほど都内にて発見致しました。

新宿中村屋Bonna
新宿中村屋Bonna

クリームパンの元祖ともいわれ、インドカレーやレトルト商品などでも有名な、創業1901年「新宿中村屋」さん本店の地下1階、Bonnaでのみ製造・販売されている「柏餅」の味噌餡に、江戸甘味噌が使用されているとのこと。早速頂きました。

ふっくらとした兜型に整えられた柏餅。なめらかで、どこかしこしことした歯ごたえが印象的な皮が美味しい。

白味噌の淡い黄土色ではなく、江戸甘味噌の赤みを帯びた深い茶褐色の色味が反映されたキャラメルのような色合いの味噌餡は、なかなかお目にかかれない味わいなのにどこか素朴で心落ち着くような…。

赤みを帯びた褐色の味噌餡
赤みを帯びた褐色の味噌餡

白味噌のようなふくよかな甘味と、八丁味噌のような旨味と仄かな渋味、なのに短期熟成で仕上げられるためキレのよい後味は最後に白餡の甘味を残してさっと引いていきます。

昭和初期までは江戸味噌も江戸甘味噌も都内の味噌蔵にて製造されておりましたが、1939年、戦争の足音と共に発令された「米穀配給統制法」により、米麹をふんだんに使用した江戸味噌及び江戸甘味噌は贅沢品とみなされ製造中止に。

しかし終戦後、規制が緩和され徐々に日常生活がもどりはじめ、こんにちその味わいは再び世に出回り、東京都ふるさと認証食品にも認定されております。

1603年からはじまった徳川幕府の時代の中で味噌と和菓子の文化が栄え、震災や戦災を乗り越えて現在の江戸、東京だけではなく全国で愛される和菓子のひとつとなった柏餅とみそ餡。

今年のこどもの日はもう終了してしまいましたが、おやつの時間などの話のタネにしていただければ幸いです。

和菓子は楽しい♪

<新宿中村屋Bonna>

公式サイト(外部リンク)

東京都新宿区新宿3-26-1

新宿中村屋ビル 地下1階

10時30分~19時30分

定休日 元旦

JR「新宿」駅東口より徒歩2分

東京メトロ丸ノ内線「新宿」駅A6出口直結

和菓子ソムリエ・ライター

■年間400種を優に超える和菓子を頂く和菓子ソムリエ&ライター。美味しさだけではなく、職人さんやお店、その土地の魅力をいかに伝えるかに重きを置いて執筆中! ■製菓衛生士免許所持・製造・販売・百貨店勤務経験有 ■和菓子・お取り寄せ・お土産・アンテナショップ・都内物産展&催事・和菓子とお酒&珈琲&ノンアルコールとのペアリングなどの執筆や取材、監修を得意としています。

柳谷ナオの最近の記事