ショートフィルム

身長100センチの女性が、2児のママになるまで 流産、検診拒否...それでも出産を諦めなかった理由

吉野和保

テレビ・映像ディレクター

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身長100センチ、体重20キロの「2児のママ」がいる。骨が弱く折れやすいなどの症状がある先天性の難病「骨形成不全症」で、車いすで生活する伊是名夏子さん(37)だ。神奈川県在住でコラムニストとして新聞などで連載記事を書くかたわら、ヘルパーやボランティア、友だちのサポートを受けながら2人の子育てに奮闘している。しかしその道のりは決して平たんではなかった。困難をどう乗り越え、どのように子育てをしているのか。伊是名さんの奮闘に密着した。

家の中のちょっとした不便 工夫凝らす生活

ドアノブや電灯のスイッチに手が届きにくい。ハサミなど危ない物を子どもの届かない場所に置くと自分も届かない。子どもが誤ってコップを割ってしまっても怪我をしないよう抱きかかえて守ってあげることはできない。その分、人一倍神経を使う。
家の中は、ちょっとした不便や危険が少なくない。だから伊是名さんは、開きやすいようにドアノブにS字のフックを掛け、電灯は人感センサーで点ける。ハサミには子どもがすぐ開けられないようにロックのかかる棚に装着。子どものコップはすべてプラスチック製にしている。伊是名さんの家は、そうした工夫であふれている。
骨形成不全症は遺伝子変異などが原因で起きる難病で、骨折や骨の変形を起こす。2万人に1人起きるとされ、成長障害や難聴といった症状が見られることがある。
伊是名さんの場合は背骨が変形しており、歩くことができず、耳も聞こえにくい。右耳は高校の頃受けた手術の後遺症で全く聞こえない。骨は折れやすく、我が子に足を踏まれただけで折れてしまったこともある。
長男あおいさん(6)と長女かほさん(4)、夫との4人暮らし。ただ、夫は残業や出張が多く、両親は地方に住んでいる。遊び盛りの子どもたちの育児には、ヘルパーなど多くの人の手助けが不可欠だ。実際にどうやって子育てをしているのか。伊是名さんは子育てにも多くの工夫を凝らしている。

さまざまな立場の人が手助けする子育て 「障害」を知り、考える場にも

ヘルパーは午前7時から午後9時まで1日約10時間、3人が交代でやってくる。事業所がやることの多いヘルパーのシフトも、子どもや自分の状態で臨機応変に対応できるよう、伊是名さんが自分で調整している。専業のヘルパーは少なく、パティシエや料理研究家、インテリアデザイナー、会社員など、さまざまな仕事を掛け持ちでやっている人たちだ。料理が得意な人には料理の作り置き、片付けが得意な人には片付けをと、それぞれの得意分野を活かした作業を依頼する。
伊是名さんはヘルパーだけでなく、学生ボランティアやママ友などの手も借りる。台所の戸棚や冷蔵庫には「油・調味料・はかり・その他」「オレンジのスポンジが食器用」などメモが貼られ、初めての人でもすぐに使えるようになっている。
他方、伊是名さんの子育てを手助けする経験は、手助けする側が「障害」について考えたり学んだりする場にもなっている。以前伊是名さんが講演した高校の、福祉や看護に興味を持つ生徒たちが昨年10月、ヘルパーを経験したいと家に来た時のことだ。生徒たちがカレー作りを始めると、伊是名さんが野菜を切る大きさや、味付けを教えていく。「コクを出したいからケチャップとソースをまわしながら3回ずつ鍋に入れてみてください。1、2、3って」と身振り手振りを交える。
 食事のあと、生徒の一人が「障害者差別をなくしたい、そのためには、まずは知ることが大事だと思う。そのために教育を変えたいが…まだ子どもの自分たちにできることはあるんでしょうか?」と問いかけると、伊是名さんはこう答えた。「子どもも変えられると思う。子どものああしたい、こうしたいって思いを、聞いてくれる大人が周りにいないだけ。絶対できることはある」。その言葉の裏側には、伊是名さんが持ち続けてきた信念がある。

「周りを巻き込めば変えていける」 100センチママの信念

 幼少期を過ごした沖縄県那覇市に、当時毎日のように通ったショッピングモールがある。施設内には車いす用のトイレがなかった。12歳のころ、レジの横にあった「お客様の声」のアンケートボックスに車いす用トイレを要望する紙を入れた。しかし何も変わらず、さらに家族やクラスメイト、学校の先生にお願いして要望を書いてもらい、10通ほど投函。すると1ヶ月後、トイレができたという。「周りを巻き込むことで、住みよく変えていけると学んだ」。
諦めずに行動すること、周りを巻き込むことで、世の中は変えていける――。この時の体験が、妊娠や出産でも伊是名さんを後押ししてきた。

検診拒否、流産…そして初めての出産「ずっと会いたかった」

結婚前から妊娠・出産のための準備をしてきた伊是名さん。婦人科では、体の大きさから「診察台に座れない」と検診さえ拒否されることもしばしばだった。25歳の時に出会った信頼できる医師に検査してもらい、妊娠・出産が可能だと分かった。
27歳で結婚した翌年の2011年、最初の妊娠が発覚。「子どもはまだ先のつもりなのに」と困惑した。それでも医師に「大丈夫、産むのは10ヶ月後ですから」「あなたの場合、施設が整った病院がいい」と言われ、気持ちを切り替えた。肋骨の骨折や心肺の圧迫による母体や胎児への影響など、あらゆるリスクを調べた。当時、夫の転勤で香川県に住んでおり、以前検診を受けた医師に相談して香川県内の医師を紹介してもらった。しかし、赤ちゃんの心拍が確認できず、流産に。「心にぽっかり穴があいたようでした。無力感に襲われ、ただただ悲しかったです」。
2013年、再び妊娠が分かった。医師と相談して、妊娠27週1000gまではお腹の中で育てる目標を立てた。妊娠中の過ごし方や注意点を調べたが、本やネットには歩ける妊婦向けのものばかり。情報源は同じ障害で妊娠・出産した先輩ママの話だけだが、彼女より体が大きい人ばかりだった。体の負担がないよう、自分で妊婦生活を模索した。ホームセンターで板を買って腹部を圧迫しないよう車いすを改造したり、百円ショップで見つけたローラー付きの板を部屋の中での移動に利用したりした。
経過は順調。当初の予定より遅い29週まで家で過ごし、入院した。臨月の36週まで妊娠も考えたが「母体と赤ちゃんの状態がいいうちに」と35週で出産することになった。
2013年7月30日、全身麻酔の帝王切開であおいさんを出産。まだ呼吸が十分にできず保育器で眠る息子を前に、思いがこみ上げた。「せまいお腹の中でのびのび成長してくれた。感謝の気持ちでいっぱい。ずっと会いたかった」。2年後にはかほさんも産まれ家族4人、にぎやかな毎日を過ごしている。

困難に思えても「人生を諦めないで」

出産でも子育てでも、どんなに困難に思えても諦めず、さまざまな可能性を模索し続けてきた伊是名さん。「車いすで結婚や出産を諦める人は多い。でも私の場合は諦めずに医師を探し続けて、子ども二人も産めた。車いすだから諦める、ではなくて、いろんな生き方がある。たくさんの人と繋がって、助けを求めて、あなたも誰かをたすけてください」。今、講演などで各地を回り、その経験を多くの人に伝えようとしている。自分の置かれた状況を理由に、人生を諦めてしまわないように。

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