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音楽家・広瀬香美が語る『ロマンスの神様』秘話と“歌姫発掘プロジェクト”

秋吉健太編集者/コンテンツプロデューサー

【広瀬香美さんインタビュー&『ロマンスの神様』映像】

春になり、新学期や入社など新たなスタートを迎えるこの時期。新しいチャレンジへと挑戦する人は多いのではないでしょうか。

いまから30年前の1993年に『ロマンスの神様』が大ヒット、他にも『ゲレンデがとけるほど恋したい』『DEAR...again』など数々の名曲を世に送り出し、“冬の女王”と言われる音楽家の広瀬香美さん。

毎年冬になると日本中で流れるヒット曲を持つ広瀬さんだが、活動は多岐に渡り、コロナ禍で始めたYouTubeや最近ではTikTokやメタバースなど、次々に新しいことにチャレンジしている。「いまは『ロマンスの神様』を立て直している時期」という広瀬さんに、2023年のチャレンジについて話を聞くことができました。

ひろせこうみ/1992年デビュー。『ロマンスの神様』『DEAR…again』などがヒット。冬の楽曲がCMを通して広がったことで、 “冬の女王” と呼ばれ、YouTubeやTikTokなどでも活躍中
ひろせこうみ/1992年デビュー。『ロマンスの神様』『DEAR…again』などがヒット。冬の楽曲がCMを通して広がったことで、 “冬の女王” と呼ばれ、YouTubeやTikTokなどでも活躍中

すごい新人たちは他の惑星から飛んでくる

このインタビューをさせていただいたのが春だったということもあり、まずはご自身が音楽家として新人だった頃について教えていただいた。

広瀬香美さん(以下:広瀬さん)「この世界でずっと音楽家として活動していると、センセーショナルにデビューしていく後輩たちは、後ろから迫ってくるというよりも、『あ、他の惑星から急に飛んできて、私の目の前にドン!って生まれ落ちてくる、別の生物みたいな形で登場するんだな』ということを、何度も目の当たりにしたんです。私もきっとその当時の先輩たちからしてみたら、私がデビューした時のことについてもそれと同じ感覚だったんじゃないかなっていう風に思うんです。30年前の新人の頃、こちらは『何かやってやろう』とか意識があるわけじゃなく、でも自信満々でデビューしましたね。若気のいたりです(笑)」

コンサートやテレビなどで目にする広瀬さんは明るくポジティブな印象だが、デビュー当初はどちらかというと正反対だったのだそう。

広瀬さん「この仕事をする前までは私は引きこもりでずっと家にいて、本当に人が苦手で。あまり誰ともしゃべらなくて一人で家にいて黙々と作品を書くタイプで、でも変に自信があって。『私の曲って絶対世の中にウケる』なんて思ってるけど、そのことは誰にも言わずに自分の作品を黙々と書くような子だったんです。でもデビューして、それから世の中に認められるようになった時に、これは私の曲が認められるっていうのは私だけの力じゃないんだって気づいたんですね」

デビューした当時の90年代は、ヒットチャートを占めるのはタイアップ曲が多かった。

広瀬さん「その頃はタイアップの時代だったので、事務所やレコード会社の皆さんがタイアップを取りに行ってくれたり、テレビ局を回ってくれたり、必死にやってくださっている姿を見た時に、すごいことで広瀬香美っていうのが成り立ってるんだなって分かった時に、『私、やっぱり人と関わっていかないと駄目なんだな』と思っちゃったんです」

インタビューは4月上旬にさせていただいた
インタビューは4月上旬にさせていただいた

広瀬さん「そこからスタッフのみんなに『ありがとね』と感謝するようになり、そうするとその先に見えるのがファンの皆さんで。当時、私はあまりコンサートをやってなかったのでファンの皆さんを見てなかったんですよね。やっぱり音楽家だから、自分の作品ができたら『これは売れる』『これはすごい作品』と一人で完結してたんですけど、スタッフみんながちゃんとお膳立てして売ってくれて、なんとなくそれが世の中の歯車に合い、奇跡的に売れて、そしたら、その先にファンの皆さんが沢山いらして、これはファンの皆さんにありがとうって言っていかないといけないっていうことで、本当にデビューしてから生き方を学んだというか」

ファンに直接感謝の言葉を伝えたくなった広瀬さんは、そこからブログやTwitterなどで発信を始めた。

広瀬さん「例えばTwitterをやり始めると、そこからお友達が増えるから、『人生って仲間とか友達とかこうやって増やすの?』ってぐるぐるって周り始めて、やめられなくなりました」

コロナ禍でYouTubeをスタート

広瀬さんはコロナ禍にYouTubeで公式チャンネルをスタート、Official髭男dismの『Pretender』や米津玄師『Lemon』などの楽曲を自らの新解釈で歌い上げる“歌ってみたシリーズ”はそれぞれ再生回数が数百万回を超える人気コンテンツとなっている。

広瀬さん「当時、家にいなければいけない時間というのをどう過ごすかということで、皆さんも大変な思いをしてらっしゃると思い、私がYouTubeで歌ったり笑うことによって、ホッとしていただけるのかな、なんて思いながら始めたら、本当にたくさんの皆さんに見ていただき、ありがたかったですね」

YouTubeの“歌ってみたシリーズ”はSNSでも多数シェアされる人気コンテンツとなっているが、本人は『好きな曲を歌っていると自分が癒される』のだそう。

広瀬さん「YouTubeで『歌ってみた』をやったことでたくさんの友人たちと知り合い、音楽家と繋がれたことは私の財産ですし、本来なら知る由もない方と巡り合えたり。喋ってたら、どんどんお友達ができていくっていうのはなかなかいいもんだなって。YouTubeもTikTokも、止められないです。Twitterを始めて以来ずっとそうですね」

YouTube『歌ってみた』を撮影しているスタジオにて
YouTube『歌ってみた』を撮影しているスタジオにて

YouTubeやTikTokでファン層が変化

デビューから30年が経つ広瀬さんだが、YouTubeやTikTokを始めたことである変化があったのだそう。

広瀬さん「YouTubeを始めたあたりからファン層ががらっと変わりました。もちろん今までずっとデビューの頃から応援してくださっているファンの皆様もおられるんですが、それにプラスして、私の『歌ってみた』でいろんなミュージシャンの曲のカバーを聴いて『面白い音楽家だな』って思ってくださって。初めて私のことを知ったという方々がファンになってくださったり、最近はTikTokで10代の方々が私の『ロマンスの神様』を歌ってくださったりして、街を歩いていて声を掛けられる層が違うというか」

筆者は毎年冬になると広瀬香美さんのコンサートへと足を運んでいるが、ここ数年は観客席に高校生など若者の姿を見かけるようになったことについて訊ねてみた。

広瀬さん「『ロマンスの神様』はもう約30年前の曲なんですが、その曲をTikTokで知ったいまの子供たちが、歌ってくれたり、踊ってくれたりして、それを家に持って帰って、パパとママに『この曲さ、いま流行ってるんだよ。知ってる?』って聞いたらお父さんとお母さんが『もちろん知ってるわよ』という風に親子で楽しんでくださったりしているっていう話を聞くと本当に嬉しいですね」

YouTubeやTikTokを始めてから街を歩いていて若い人たちに声をかけられるようになったのだそう
YouTubeやTikTokを始めてから街を歩いていて若い人たちに声をかけられるようになったのだそう

春は『ロマンスの神様』を立て直す時期

インタビュー中、「毎年この時期は『ロマンスの神様』を立て直す時期なんです」と広瀬さん。発表以来30年もの間、幅広い層に知られる名曲について聞いてみた。

広瀬さん「秋冬のコンサートでは、(当時の)オリジナルと変わらないように歌おうと心掛けているんですが、冬の間『ロマンスの神様』をずっと歌っていると、それまでちゃんと準備して整えて秋冬のコンサートに挑んでいるんですけど、冬の終わり頃になると緩むんですね」

「緩む」とはどういうことなのだろうか。

広瀬さん「いま調整しているところなんですけれど、緩むというのは歌い方とか音程とか息の量とか、精神とかがズレてしまうんですね。私はいまでも当時のオリジナルを超える様にずっと歌い続けようと思っているんですが、必ず冬の後半ぐらいになるとSNSとかで『(歌い方の)クセつよー』って意見が出てきて。わかるんですよね、ファンの皆さんは」

「秋冬のツアーが終わった後、春の期間がとても大事」と広瀬さん
「秋冬のツアーが終わった後、春の期間がとても大事」と広瀬さん

広瀬さん「確かにテレビとかのオンエアを見直してみると、『あ、確かにクセが強いって思う時があるんです』(笑)。『あ、いけないいけない』と思うんだけど、その頃はもう修正が効かないんですよ。休みもないし、そんな状態で修正を入れるとゴルフのフォームとかと一緒で全部がガタガタと崩れていってしまうので、クセが出たらもうこのままシーズンが終わるまで行くしかないんですね」

自身のやっていることはスポーツ選手に似ていると広瀬さん。

広瀬さん「例えばプロゴルファーの方はオンシーズンずっとプレイをし続けて、そのうち疲労がたまっていってケガをしたり、ショットが乱れたりっていう話を聞きますよね。だけどシーズン中は立て直せなかった。『なんで立て直せないんだ、土日の休みで立て直しては?』と私達は思うかもしれないけど、そんな簡単なものではなくて。シーズンが終わったオフシーズンじゃないとゆっくり精神も整えられないし、どう狂ったのかっていう研究は自分しか分からないので、結構長いオフのシーズンの期間がないと立ち直れないんですね。だから私は秋冬のツアーが終わった毎春の時期を毎年非常に大事にしています。日々、『ロマンスの神様』を一生懸命毎日毎日練習して立て直しているところです。それをやらないと今度秋冬のオンシーズンに入っていけないんですね。もう本当にスポーツ選手のオンオフと全然変わらないですってことなんですね」

2023年のチャレンジは『歌姫』を発掘&プロデュース

そして、広瀬さんの新しいチャレンジとして先日発表されたのは、日本テレビとHuluの共同で開催される『新時代の歌姫』発掘プロジェクト。広くオーディションで集めた歌手の卵たちを広瀬さんが審査し、合格者のメジャーデビューをプロデュースするというものだ。その様子はHuluにて配信される。

広瀬さん「ちょうどデビュー30周年を終えまして、次は広瀬香美は音楽家としてプロデュース業とか、誰かを育てたりとか、お相手のために楽曲を書いたりとか、そういうこともちゃんとやっていこう。そう思っていた矢先にこの話をいただいて。『ベンチマークはJ.Y. Parkさんね』とスタッフに言っています(笑)」

こちらの『新時代の歌姫』発掘プロジェクト、参加資格は16歳以上であれば年齢制限はない。その理由について訊ねてみた。



広瀬さん「年齢制限がないようにしたのは、私もこれからチャレンジしたいと思ったらチャレンジできるっていう可能性が欲しかったし、いつだって誰だって『チャレンジしたい』と思った時がその人のタイミングなので、それを年齢で区切るっていうのはもったいないなと思って、どんな方でもチャンスがあるようにさせていただきました」

「歌は、その人の考え方が表れます」(広瀬さん)
「歌は、その人の考え方が表れます」(広瀬さん)

「私はいまから15年ぐらい前にオーディション番組に出られた時のスーザン・ボイルさんの歌声を聴いて本当に心を打たれました」と広瀬さん。

2009年、当時47歳で「プロの歌手になりたい」とイギリスのオーディション番組に参加したスーザン・ボイルは、ミュージカル『レ・ミゼラブル』の劇中歌『夢やぶれて』を審査員の前で披露。彼女の歌声が多くの人々の心を動かし、一躍スター歌手となった彼女のシンデレラストーリーを覚えている人もいるのではないだろうか。

広瀬さん「歌はその方の考え方が歌声となって表れます。スーザン・ボイルさんの歌には彼女の生き様、歌で救われて生きて、歌のおかげで彼女の毎日が成り立っていたんだなっていうことが、彼女の歌声をとおして私の胸を打ったんですね。彼女は自分のためだけじゃなく、人々のために歌っていた。彼女の歌声がたくさんの方の心を打ち、そのストーリーにも感銘を受けました。今回のオーディションでもそういう方が現れたらいいなっていう期待もあります」

オーディションへの参加方法はスマホがあればOK

この『新時代の歌姫』プロジェクトへの応募方法だが、YouTubeやTikTokといった新しいサービスを積極的に活用する広瀬さんならではのアイデアが盛り込まれている。

広瀬さん「皆さんお忙しいと思うので、できる限り簡単に応募できるようにと心掛けておりまして。皆さんスマートフォンはお持ちだと思いますから、課題曲を歌っていただきそれをスマホで1分間録画したものを送っていただくという風にしました」

課題曲を歌う姿を1分間録画して送信、それだけでオーディションに参加OKとのことだが、音楽家・広瀬香美はどんなところをその動画でチェックするのだろうか。

広瀬さん「この30年歌を歌っていて、やはり心持ち、気持ちが最も大事だと思うんですね。その方にとっての歌は何なのか。歌をどういう道具として使っているのか、というところが大事だなって私は思うんです。歌を武器として使う人もいるし、歌を使って『俺すごいだろう』っていう人もいるし、歌を通して何を思っているのかというところが私の中では一番大事で。というのは、それは変えられないから」

YouTube『歌ってみた』で演奏しているスタインウェイ&サンズのグランドピアノ
YouTube『歌ってみた』で演奏しているスタインウェイ&サンズのグランドピアノ

広瀬さん「音楽を通して、お金を儲けようとしているのか、有名になろうとしているのか。自分を癒そうとしているのか。人気者になりたいのか有名になりたいとか、そういうことっていうのはもう歌声を聴けばわかるので、歌を何だと捉えているのかっていうところは変えられないんですね。歌を何と捉えて歌っているのかっていうのは、私の中では一番大事なことだと思っているから、そこは見たいし聴きたいなって思っています」

「歌は下手でもいいんです」と広瀬さん。それよりも大事なものがあるのだそう。

広瀬さん「もう一つはやっぱり素の声。いま、やっぱり世界に通じる歌声って、やはり素の声、しゃべり声がとてもいいんですよね。しゃべり声も歌声も本当に素晴らしい。技術じゃないんですよね。下手でもいい。そういう意味で技術がなくても、歌声が良ければ、磨けば何とかなる。歌を何と捉えているかっていうところと素の声の部分、そこが大事だと考えています」

ちなみに広瀬さんは歌をどんなふうに捉えているのだろうか。

広瀬さん「私、歌っててすごく気持ちがいいんです。高音を出していると、自分へのマッサージなの。インナーマッサージみたいなものなんでしょうね。歌っていて『ああ、気持ちいい』っていうのが溢れてきて。歌いながら『みんなも気持ち良かったらありがたいです』っていうぐらいの感じで、『健康になっていくわー』ってことを考えながら歌ってます(笑)」

「是非、応募していただくみなさんに心を撃ち抜いていただきたいと思っています」(広瀬さん)
「是非、応募していただくみなさんに心を撃ち抜いていただきたいと思っています」(広瀬さん)

歌は自分なりの解釈が大事

今回のオーディション参加者への課題曲に広瀬さんが選んだのは『ロマンスの神様』と『DEAR...again』。理由を聞いてみた。

広瀬さん「もう本当に難しい曲達で、有名になりすぎた曲だし、崩すんだったら面白おかしく崩せます。私のオリジナルの歌声がこびりついている歌ですが、みなさんがそれをどう解釈するのか。本当に真剣に捉えようとしたらすごく難しい捉え方もできるし、モノマネもできるし。自分の声の良さを生かした歌い方をしてくれたら、別にオリジナルキーじゃなくてもいいし。どれだけかけ離れてというか、全然違う作品になってくるのかなっていうのは楽しみしてます」

オーディションを経て合格した人はメジャーデビューも予定されている。

広瀬さん「合格する方は素晴らしい方々でしょうからね。曲を作らせていただいたり、その方が作曲できるような方だったら共作でもいいだろうし、何かその人に一番合った作品を持ってデビューしてもらいたいなって思います」

特別映像/『ロマンスの神様』を歌っていただきました

80歳で『ロマンスの神様』を歌いたい

最後に大きな目標について訊ねてみると「80歳で『ロマンスの神様』が元気に歌えるように。そこに私は挑戦しています」と広瀬さん。

インタビューした日もピアノを前に『ロマンスの神様』を2〜3時間歌ってトレーニングしていたのだそう。日々のトレーニングはもちろん、TwitterやYouTube、TikTokなどの新しいサービスを抵抗なく使いこなし、ファン層を広げていく。

彼女は音楽家・広瀬香美として変わらないために、日々新しいチャレンジを楽しんでいる。

『新時代の歌姫オーディション』
https://www.ntv.co.jp/hirose/

※応募は4/16(日)23:59まで

編集者/コンテンツプロデューサー

編集者としてのキャリアは出版、web合わせて約30年。雑誌「東京ウォーカー」「九州ウォーカー」、webメディア「Yahoo!ライフマガジン」など雑誌・webメディアの編集長を歴任。街ネタやおすすめの新スポットなどユーザーニーズを意識した情報を、それらの合わせ持つストーリーと共にお届けします。

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