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酒場対談/渋谷区観光大使・小宮山雄飛が「ネオ居酒屋」を渋谷に作った理由

秋吉健太編集者/コンテンツプロデューサー

昨今、レトロでおしゃれな雰囲気の新感覚な酒場として”ネオ居酒屋”が増えている。これまで酒場本を上梓し、自身のSNSでも酒場について発信するホフディラン・小宮山雄飛さんが渋谷区・東急プラザ渋谷6階にある「もしも食堂」にてネオ居酒屋「酒場食堂」をプロデュース。

渋谷区の観光大使でもある小宮山さんが、「渋谷の先輩でもあり、酒場の先輩でもある」という東急株式会社の東浦亮典さんと一緒に「酒場食堂」を訪れ、渋谷の街と二人が通う酒場について語っていただきました。

小宮山雄飛さん(以下:小宮山さん)「東浦さんは酒場の先輩であり、渋谷の街の先輩なのですが、Facebookで東浦さんと友達になって行かれている酒場や隣に写っている人を見て完全に『この人は同じ香りの人だ』と思ったんですよ」

東浦亮典さん(以下:東浦さん)「店の選択が似てますよね(笑)」

小宮山さん「これは渋谷区の観光大使と東急の偉い人という関係ではないなと。もっと、『釣りバカ日誌』の関係でいいんじゃないかと思って私からお近づきさせていただきました」

東浦さん「よく雄飛さんが飲んでるお店の投稿を見て『誘ってくださいよ』と連絡すると、『そっちこそ誘ってくださいよ』というやり取りをしてましたね」

渋谷区観光大使・小宮山雄飛さん(左)と東急株式会社 常務執行役員・東浦亮典さん(右)。今回の対談はまずは乾杯からスタート
渋谷区観光大使・小宮山雄飛さん(左)と東急株式会社 常務執行役員・東浦亮典さん(右)。今回の対談はまずは乾杯からスタート

対談が始まってすぐ、次回一緒に飲みに行く場所について話し始める二人。

小宮山さん「武蔵小山とか西小山とかどうですか」

東浦さん「新丸子の『三ちゃん食堂』でもいいし」

小宮山さん「あ、今回プロデュースさせていただいたこの『酒場食堂』は『三ちゃん食堂』も参考にしてるんですよ」

東浦さん「でしょうね。何か、匂いを感じます。『三ちゃん食堂』、予約しないと入れないですよ。僕が仕事であっちの方に行く時に、昼食を食べにお店に行くと、周りにいるお客さんの8割くらいが昼間っからお酒飲んで食堂飲みをしてるんですよ」

小宮山さん「僕は“こんな食堂があったら”というコンセプトで『もしも食堂』に携わらせていただいているんですが、今回は『酒場食堂』という名前で“ネオ居酒屋”をプロデュースさせていただきました」

話題のネオ居酒屋ということで、オープン日には多くの取材陣が訪れていた
話題のネオ居酒屋ということで、オープン日には多くの取材陣が訪れていた

大人から子どもまで楽しめるデパートの食堂をイメージ

「今回は“デパートの食堂”をイメージしました」と小宮山さん。

小宮山さん「『食堂飲み』という言葉があるように、昼からもおつまみを楽しみながら飲めますし、飲まずに定食だけを食べたいという人にも定食メニューも用意しています。子ども向けに甘いモノもあるし、飲まない人にはノンアルコール、外国人向けてお肉が入っていないメニューも用意しています。来た人全員が楽しめるような、デパートの食堂のコンセプトにしたんです」

「酒場食堂」は東急プラザ渋谷6階フロアにあり、大きな暖簾が目標
「酒場食堂」は東急プラザ渋谷6階フロアにあり、大きな暖簾が目標

小宮山さん「そのことを東浦さんにご相談したら、東急が渋谷で始めたのが『東横食堂』という話を教えていただいて」

東浦さん「『東横食堂』は東横線渋谷駅の2階にありました。東京では初の私鉄直営食堂としてオープンしたんです。当時、大阪の阪急が地元で直営の食堂をやっていたんですけど、そのことを聞いて社員たちをすぐ大阪に視察に行かせて、東急がそれを東京で始めたのが最初です」

レモンを絞るとブルーからピンクに色が変わる名物バタフライピーポテトサラダ(770円)
レモンを絞るとブルーからピンクに色が変わる名物バタフライピーポテトサラダ(770円)

小宮山さん「昔の書物、僕も読みましたけど、東京で私鉄が経営している飲食店はその『東横食堂』しかなかったんですよね」

東浦さん「当時すごく流行っていたみたいですね。当時、東横線の1日の売上が650円だったときに、『東横食堂』は開店初日の売上が108円50銭もあったんです」

小宮山さん「いまの感覚で聞くとすごいのかどうかわからないですけど、すごいってことですよね」

東浦さん「億単位で考えるといいんじゃないですかね」

小宮山さん「電車の売り上げが1日600億として、100億くらいのインパクトがあったんですね。その時の東横線は、渋谷〜横浜間ですか?」

東浦さん「順次延長していましたから、この時は繋がっていましたね」

小宮山さん「これから渋谷の駅で食堂をやろうというタイミングで歴史的な背景を色々と調べていたら、元々渋谷の商業がまさにこの渋谷にある東急の2階にあった『東横食堂』という一軒の食堂から始まったということが面白いなと」

「(東横食堂は)その後全国のデパートの高層階にできた食堂の原型みたいなもんですね」(東浦さん)
「(東横食堂は)その後全国のデパートの高層階にできた食堂の原型みたいなもんですね」(東浦さん)

東浦さん「当時の食堂のイメージは、もっとハイエンドで『今日はデパートの食堂に行くからちゃんとした格好をしよう』という風にみんな正装して食事を楽しみに訪れる場所だったんでしょうね」

小宮山さん「ちなみに、ここ東急プラザ渋谷は『デパート』と呼ばないですよね?」

東浦さん「このビルは複合ビルですね」

小宮山さん「先ほど、昔大阪に視察に行かれたという話をされてましたけど、いま大阪はデパートの地下で飲むのが流行ってるんですよ」

東浦さん「大阪はデパートが残ってるんですか?」

小宮山さん「パルコとか商業施設を含めてですけど。大阪だと地下街があって、地下街が駅に繋がっているのでみんなは『商業施設で飲んでいる』という気持ちはないのですが、デパ地下飲みがすごく流行ってるんですね」

小宮山さん「僕は、デパートに気の利いた飲食店があればいいなと思っていて。例えば夫婦で来て、パートナーが買い物をしている間に自分はちょっと一杯飲むとか、子どもがスイーツ食べてるとか、“デパート飲み”的なものが流行ったらいいなと」

東浦さんがこの日のために着てきたTシャツは「キンミヤ」のロゴがプリントされたホフディランのオリジナルアイテム
東浦さんがこの日のために着てきたTシャツは「キンミヤ」のロゴがプリントされたホフディランのオリジナルアイテム

小宮山さん「東浦さんはいろんな酒場を回ってらっしゃるじゃないですか。食堂も行きますか?」

東浦さん「行きますね。食堂っていうか、こういう感じの店で飲むのは好きですね」

小宮山さん「目黒不動の『太田屋』は行かれますか?」

東浦さん「行きますよ。あそこ、メニュー表がものすごく多いですよね。何回行けば全メニュー制覇できるんだろうって思ってしまいますね」

小宮山さん「そうなんです、ここも『太田屋』をすごく参考にしてるんです。ここのシェフにも実際にお店に行っていただいて、どういうものをやりたいかを把握していただいたんです」

「酒場食堂」は壁にぐるりとメニューが沢山貼られていて見るだけで楽しい
「酒場食堂」は壁にぐるりとメニューが沢山貼られていて見るだけで楽しい

酒場ではその店の儀礼を理解して楽しむ

小宮山さんが「酒場の先輩」と言う東浦さんに酒場の楽しみ方について教えていただいた。

東浦さん「私、結構初めてのお店でも一人飲みが大丈夫なタイプなので、地方に行っても自分の嗅覚で探したお店に一人で”ガラガラ”ってドアを開けて入っていくんですね」

酒場について語り出すと話が止まらない東浦さん
酒場について語り出すと話が止まらない東浦さん

東浦さん「まずは周りの常連さんの言葉に耳を傾けて、まずその酒場のプロトコル(儀礼)を理解してから、徐々に『話しかけていいのかな』とか、(お店の大将の)『手元を見始めてもいいのかな』とか、そういう感覚を掴みながら酒場を楽しみますね」

小宮山さん「最初の段階からお店の方が調理されている手元とかじーっと見れないですもんね」

東浦さん「そうですね。手元が見れる一番いい位置は常連さんが確保されていたりするので。あと、『写真は撮っていいのかな』とかね」

小宮山さん「古い食堂や居酒屋だと、オーダーを頼むタイミングも難しいですよね。『いまじゃないの』と言われたりね」

小宮山さん「東急目黒線・武蔵小山のあそこは行くんですか?」

東浦さん「『牛太郎』、行きますよ」

小宮山さん「『牛太郎』なんてメニュー頼めないですよね」

東浦さん「あそこは難しい。誰か常連さんと一緒に行かないと、上手く頼めないですね」

しっかり食事したい方向けには定食メニューも「エビフライ+メンチカツ定食」(1540円)
しっかり食事したい方向けには定食メニューも「エビフライ+メンチカツ定食」(1540円)

東浦さん「あとは、東急沿線にある酒場でいうと、僕の住んでいる地元だと中延にあるもつ焼き『忠弥(ちゅうや)』。行ったことありますか?

小宮山さん「ええ、あります」

東浦さん「いまは二代目の主人ですけど、先代の頃は注文は入店して席に座って、食べたいものを紙に書いてお店の人に渡してたんですが、注文できるのはその一回限り。追加オーダーは親父の焼きのタイミングを乱すので怒られるんです」

東浦さん「焼きのタイミングを乱したり、騒がしかったりすると、『お前、お代はいいから出ろ』と叩き出すんですよ。ほんとに客を叩き出すお店なんてあるのかな?と思って何回も通ってたら僕も目の前で叩き出される客を見ましたね。すごいな、完全にここのルールは親父が支配しているんだなって」

小宮山さん「僕も女将さんに『飲み過ぎじゃない?』って言われて、あの時はもう帰った方がいいよってことだったんでしょうね」

東浦さん「カクテルを飲みすぎたんですね。何杯飲んだんですか?」

小宮山さん「何杯飲んだか覚えてないんですけど、、」

東浦さん「あれ、レモンの数でカウントしてるんですよね。おかわりすると段々とレモンが増えていって、5枚くらいになると『あんた飲み過ぎじゃない?』ってなるんですよね。あそこは長居は無用なので、1時間くらい楽しんだあとは次の人のために席を空けるっていう不文律があるんですね」

特選・米沢牛煮込み(770円)
特選・米沢牛煮込み(770円)

昔の渋谷は働く場所ではなかった

渋谷区観光大使である小宮山さんと、渋谷に縁のある東急株式会社で働く東浦さん。昔の渋谷といまの渋谷はどれくらい違うか聞いてみた。

小宮山さん「僕は渋谷の隣の原宿で生まれ育ったんですが、小学校の頃はひと駅隣なのに渋谷には怖くて行けなかったんですよ。渋谷には当時ゲームセンターがあって、そこに行きたかったんですけど『渋谷には行っちゃダメ』という雰囲気があって」

東浦さん「私が学生時代は『ここから先は行ったらいけない』というような、空気感でわかる場所がまだありましたね」

高校生になり、渋谷の街を散策するようになった東浦さん
高校生になり、渋谷の街を散策するようになった東浦さん

東浦さん「中学くらいから親と一緒に渋谷のデパートにやってきて、高校くらいになってから自分でお小遣いの範囲で渋谷で食事をするようになりました。当時、『万葉会館』というのがあって。そこには大変お世話になりましたね」

小宮山さん「『万葉会館』ってどこにあったんですか?」

東浦さん「センター街を入って右手、いまIKEAがあるビルの下に『万葉会館』という名の食堂があったんですよ。当時でいうと最先端で、一番美味しいものが食べられる場所でしたね。70年代後半〜80年代前半ですね。渋谷に行く度にお世話になってましたね」

カレーのレシピ本をこれまで数冊出している小宮山さん考案のカレーも用意「最強!渋谷ブラックカレー」(1100円)
カレーのレシピ本をこれまで数冊出している小宮山さん考案のカレーも用意「最強!渋谷ブラックカレー」(1100円)

東浦さん「当時の渋谷は輸入レコード屋さんが沢山あったので、週末渋谷にやってきては3〜4軒回って、それから『万葉会館』で食事をしながら買ったレコードを眺めたりしてましたね」

小宮山さん「僕もレコードは渋谷で買ってましたね」

東浦さん「私が東急に入社した頃は渋谷で働くなんてことは全くなくて。当時、渋谷にはしっかりしたフロアを持つオフィスビルなんてなかったからですね。なので昔からある大企業なんてないわけですよ。私も社会人になったころ、自分の会社が渋谷にあることを言うと『渋谷って働く所だっけ?』ってよく言われてました」

小宮山さん「確かに昔の渋谷と言えば、繁華街やアパレル、小さな事務所があるようなイメージですよね」

東浦さん「サイバーエージェントやDeNAといった、いまでは大きくなった会社の人たちがまだ若かりし頃、『遊びも仕事も渋谷でやる』という時代があったんですね。それを生み出したのは渋谷にたくさんあった雑居ビルだったんです。当時家賃も安いからお金がないスタートアップベンチャーがそこに入って。そんな人たちがお互い刺激し合って、明日はビックになるみたいな話をしていたらインターネット時代になって会社がどんどん大きくなった」

東浦さんの話に真剣な表情で耳を傾ける小宮山さん
東浦さんの話に真剣な表情で耳を傾ける小宮山さん

東浦さん「それから会社が大きくなって、今度は雑居ビルのスペースでは足りないんですね。それで東急が渋谷の街を再開発して提供しているんですね」

小宮山さん「ビルを建てて上にはオフィス、足元は楽しい空間にしていこうというわけですね」

東浦さん「昔、ここが『東急プラザ』と言われていた時代は地下には魚屋があったり、紀伊國屋があったり、面白いビルだったんですよ。私も本を探しにやって来てそのまま魚を買って帰ったり。今回の『酒場食堂』ような場所ができるとまたこのビルに来やすいんじゃないかなと思います」

タコの形も懐かしい「ウィンナー炒め」(660円)
タコの形も懐かしい「ウィンナー炒め」(660円)

東浦さん「三井、三菱、ヒューリックなどいろんな企業が渋谷に来ているので、我々も全部を東急の開発にしようとは思っていないんです。ウチがやらないところはよそのデベロッパーさんにやってもらって、東急でない表現力を出してもらう方が渋谷としては面白くなると考えています。トータルコンセプトとしては、“エンタテイメントシティ渋谷”としてもっと盛り上げていきたい。だからビルの上にはオフィスフロアにして、足下のところは雄飛さんがプロデュースされた『酒場食堂』のように楽しい空間にしていこうと思います」

小宮山さん「ここの場所は僕がただ酒場で飲みたいとやっただけなんですが、そうなれるように頑張ります」

食堂の定番ナポリタンももちろん用意「哀愁のナポリタン」(1100円)
食堂の定番ナポリタンももちろん用意「哀愁のナポリタン」(1100円)

大人も行ける“ネオ居酒屋”を目指した

今回、「酒場食堂」のコンセプトである“ネオ居酒屋”について教えていただいた。

小宮山さん「ネオ居酒屋というのは、ものすごく簡単に言うと、『ネオンがある居酒屋』です」

東浦さん「そういうざっくりした説明でいいの?(笑)」

小宮山さん「いわゆる新しい居酒屋です。昔の居酒屋を現代的に現代的に解釈して出している居酒屋なんですが、たいてい店内にネオンがあるんですね」

店内にはネオンと沢山のメニュー、ここを訪れた人たちの色紙が飾られている
店内にはネオンと沢山のメニュー、ここを訪れた人たちの色紙が飾られている

小宮山さん「いま大阪はネオ居酒屋だらけで、渋谷をはじめ東京でも今はすごくネオ居酒屋がたくさんあって。でも僕ですらお店に入って『自分が一番ここで年上だな』って感じなんですね。隣の席の人がお酒飲まないでパフェとか食べてるんですよ。ほんとに若者が沢山いて、自由な楽しみ方をしている。ただ若者だらけで入りづらいと思う人は多いんです」

「『ネオ居酒屋』みたいな渋谷はものすごく増えてますけど、そこはある程度の年齢の人はそこに行けないんです」小宮山さん
「『ネオ居酒屋』みたいな渋谷はものすごく増えてますけど、そこはある程度の年齢の人はそこに行けないんです」小宮山さん

東浦さん「入りづらいと言えば、渋谷の『のんべい横丁』は極めて敷居が高いですよね。お店をやっている人たちが敷居を高くしているわけではないけど、店舗が狭いし、常連連率が高いので新参者はとても入りにくい。そのすぐ真横の宮下パークにネオ居酒屋ができて、そこに若い人や外国人が行くようになってすごく人気になっていますよね。のんべい横丁、宮下パーク、両方成立してるんですよ」

小宮山さん「我々はほんとの酒場に行ってるじゃないですか。いま流行っているネオ居酒屋に入ろうとしてもなかなか入れませんでしたが、ここ『酒場食堂』で最近人気のネオ居酒屋を楽しんでいただければと思っています

「東急プラザ渋谷」の6階にあるシェアキッチンプロジェクト「もしも食堂」。2022年1月のオープン以来、さまざまなプロジェクトを展開しており、「酒場食堂」もそのプロジェクトとなる
「東急プラザ渋谷」の6階にあるシェアキッチンプロジェクト「もしも食堂」。2022年1月のオープン以来、さまざまなプロジェクトを展開しており、「酒場食堂」もそのプロジェクトとなる

<スポットデータ>
もしも食堂『酒場食堂』
住所/東京都渋谷区道玄坂1丁目2−3 東急プラザ 6F
電話番号/ 03-6455-1215
営業時間/11:00~23:00(L.O22:00)
開催期間/〜2024年1月末(予定)

編集者/コンテンツプロデューサー

編集者としてのキャリアは出版、web合わせて約30年。雑誌「東京ウォーカー」「九州ウォーカー」、webメディア「Yahoo!ライフマガジン」など雑誌・webメディアの編集長を歴任。街ネタやおすすめの新スポットなどユーザーニーズを意識した情報を、それらの合わせ持つストーリーと共にお届けします。

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