Yahoo!ニュース

【目黒区】銭湯も霊柩車も遊郭も、極楽浄土への入口!? 建築様式が語る目からウロコの共通点とは?

Chikuwa地域ニュースサイト号外NETライター(東京都目黒区)

アートギャラリーや音楽サロンなど、銭湯以外にもさまざまな活動・イベントを仕掛けている自由が丘銭湯「みどり湯」。2022年11月にロビーとフロントをリニューアルし、新しいコミュニティの場としてチャレンジを続けています。

今回は2023年2月23日(木・祝)に開催されたトークイベント「霊柩車と銭湯の不思議な関係vol.2」に参加してきました。

登壇されたのは、庶民文化研究家であり、銭湯研究家でもある町田忍さん、そして葬儀社エンディングビジネスコンサルタント・増井康高さん。女湯・男湯の脱衣場を会場にするというユニークな仕掛けです。

町田忍さんは、つい先日めぐろ区報(2023年3月1日発行)にも登場。「銭湯を楽しむためのあれやこれや」について紹介しています。

めぐろ区報(2023年3月1日発行)
めぐろ区報(2023年3月1日発行)

しかし、今回の町田さんは霊柩車研究家として登壇。銭湯と霊柩車にはある共通点があるといいます。早速、トークイベントの様子をご紹介していきましょう!

2回目の開催となる「霊柩車と銭湯の不思議な関係」トークイベント

みどり湯&ギャラリーyururiオーナー・清水智子さんのごあいさつ
みどり湯&ギャラリーyururiオーナー・清水智子さんのごあいさつ

実はみどり湯では、以前からさまざまなテーマでワークショップやイベントを開催。今回行われた「霊柩車と銭湯の不思議な関係」は第2回目の開催です。

ちなみに、第1回目は「銭湯と霊柩車の不思議の謎を解く」と題して2018年8月、みどり湯に併設されている「gallary yururi」で、町田忍さんによるトーク&スライドショーを実施。

第2回目となる「霊柩車と銭湯の不思議な関係」前編では町田忍さんによる、霊柩車についてのユニークなお話をお伝えできればと思います。

霊柩車についてもかなり詳しい町田忍さん、本も出版されています

町田忍さんは、庶民文化研究家として数々の本を出版され、テレビなどのメディアにもたびたび登場。今回のトークショーで、霊柩車についてもかなり詳しいということを知りました。

1992年に祥伝社から発売された「The 霊柩車ー日本人の創造力が生んだ傑作(ノン・ライブ)」は、井上章一さん・町田忍さん著者で、日本独自ともいえる宮型霊柩車の数々を写真で紹介しつつ、荘厳、華麗な日本文化、今まで誰も論じなかった独自の美学と死生観を解きあかしています。

つい先日、フジテレビ系列で1992年から放送されてきた山村美沙サスペンス「赤い霊柩車」シリーズが、第39弾でファイナル(2023年3月17日放送)を迎え、大変話題になりました。

今回のトークイベントでこの赤い霊柩車、スライドで紹介されていました。

運用していたのは、富山市にある株式会社セレモニーセンター。1978年ごろに黒塗りの霊柩車を赤く塗り替え、大変注目されたそうです。

朱色は極楽浄土の色、ということなので霊柩車が赤いのもいいのではないか、ということでこの色になったとか。セレモニーセンターの赤い霊柩車は大人気となりましたが、現在はもう残っていません。

霊柩車に興味をもったきっかけは、銭湯の建築意匠に似ていることに気づいたことから

町田忍さん
町田忍さん

町田さんが霊柩車に興味を持つきっかけとなったのは、昔の銭湯の建築意匠が宮型霊柩車によく似ていることに気づいたことからなのだそうです。

かつての銭湯の建物といえば、いわゆる「唐破風(からはふ)」と呼ばれるもので、日本の城郭建築などにみられる造りです。

昔の銭湯は唐破風と呼ばれる建築様式が主流
昔の銭湯は唐破風と呼ばれる建築様式が主流

中央部を凸型にし、両端部を凹型の曲線状にした破風の一種で、唐と付きますが日本特有の建築技法となります。

「江戸東京たてもの園」内にある銭湯「子宝の湯」
「江戸東京たてもの園」内にある銭湯「子宝の湯」

上写真は小金井市にある「江戸東京たてもの園」東ゾーンにある「子宝湯」という銭湯を復元したもの。足立区千住元町にあった銭湯で、建築年代は1929年(昭和4年)。

神社仏閣を思わせる大型の唐破風(からはふ)や、玄関上の七福神の彫刻、脱衣所の折上格子天井など贅(ぜい)をつくした造りとなっています(引用元:江戸東京たてもの園ホームページより)。

「子宝湯」の脱衣所は折上格子天井
「子宝湯」の脱衣所は折上格子天井

実は霊柩車、いわゆる「宮型」と呼ばれるものは、この唐破風が特徴です。また、お棺を納める納棺室にも天井絵や折上天井が施されることが多いとのこと。

こうやって解説していただくと、かなり共通点がありますね。

都内でわずか30台ほどと、現在では希少になっている「宮型霊柩車」

宮型霊柩車
宮型霊柩車

昔の霊柩車といえばこの「宮型霊柩車」が定番。いわゆる神社物閣の建築様式を模した形状です。

もともとは遺体を納めた棺桶を乗せて、人が担いで運ぶ「輿(こし)」がルーツといわれています。そこから、輿を大八車に備え付けた「棺車」を経て、昭和初期頃に「宮型霊柩車」が登場。

その後、車の後部に唐破風屋根や豪華絢爛な装飾が施された納棺室が設えられた「宮型霊柩車」が作られるようになりました。

最近ではこの「宮型霊柩車」、ほとんど見かけなくなり、都内で製造・配車をしているのは東礼自動車株式会社だけとなっているそうです。

宮型霊柩車はメンテナンスに大変手間がかかるため、所有している会社は年々少なくなっていく一方。今後作られることはなく、現存しているのは都内に30台ほどとなっています。

日本の伝統工芸品、アート作品として後世に残したい「宮型霊柩車」

町田忍さんが所有する霊柩車の写真をスライドで紹介してくれましたが、どの意匠もため息がでるほど美しいものばかり。職人さんが技術を駆使してつくりあげた、まさに日本独自の美術工芸品といっても過言ではありません。

日本で初めての霊柩車といわれているのは「ビム号(1910年代)」で、大阪にある葬儀社が初めて運行。納棺室の重量が重く、国産車では支えきれないということで、外国車をベースに改造されたそうです。

日本の場合は輿と車を合体させて作りましたが、欧米では馬車と棺桶を合体させて作ったのが始まり。このため、洋型霊柩車と呼ばれるものには馬車の幌に使うばねを意匠としてデザインしているそうです。

元々は欅で作ってきた宮型の納棺室ですが、重量を軽くするため、桐でつくられるように。関西や東海、北陸、関東とそれぞれ地域により違った意匠や造りで個性が感じられます。

特に千葉の海辺の方は漁師さんが多いということで派手好みの傾向。金箔をふんだんに使った金色の霊柩車などもあるそうで・・・。

最盛期に宮型霊柩車製造のシェア7割を誇った金沢の米津工房が作る霊柩車は、屋根の形状が独特といわれていました。

また、金沢の霊柩車で地元の伝統工芸技術を凝縮した豪華な造りのものも!

ひつぎを納める「宮」には極楽浄土を思わせるような精密な彫刻が施され、まさに日本の伝統工芸品ともいうべき、職人の技術が光ります。亡くなった方の魂を運ぶ「アート作品」だったのが宮型霊柩車といえるでしょう。

遊郭との共通点も多い霊柩車の建築様式

霊柩車と銭湯、それぞれの建築意匠が「唐破風」という共通点がありました。御神輿にも共通する意匠であり、かつての歌舞伎座や大阪にある老舗料亭「鯛よし百番」も「唐破風」で作られています。

旧・歌舞伎座の写真
旧・歌舞伎座の写真

「鯛よし百番」は、大正時代に建てられた遊郭「妓楼建築」で作られた建物をそのまま活用し、現在は料亭として営業しています。

「鯛よし百番」
「鯛よし百番」

「鯛よし百番」は木造2階建てて、国の登録有形文化財。茶室風の部屋が13室並び、桃山時代の文化を意識した豪華絢爛な内装を誇ります。

東海道の島田の宿(弥次喜多の部屋、船)や由良の間(忠臣蔵)、祇園茶屋など、物語性豊かな部屋づくりで、美術館としても魅力ある建物。

この遊郭もまた、唐破風や豪華絢爛な天井絵、折上格子天井と霊柩車・銭湯に通じる造りとなっています。

町田さんいわく「銭湯も遊郭も霊柩車もまさに<極楽浄土への入口>、この世からあの世へと旅立つ際に夢見心地にしてくれる場所」なのではないか。確かに神社仏閣も極楽浄土へ導いてくれる場所で、その周辺には必ず遊郭が作られてきました。

今後「唐破風」建築に関する専門書を出版予定だという町田忍さん、霊柩車の歴史や深い考察、ありがとうございました。

次回、後編では葬儀社エンディングビジネスコンサルタント・増井康高さんによる、これからの供養の形、お墓の相続問題などを新しい視点で紐解いていきます。

銭湯&サウナ好きの皆さん、ぜひ渋谷PARCOで開催中のイベントへ!

(画像提供:町田忍さん)
(画像提供:町田忍さん)

今回のトークショーに登壇された町田忍さんが参加している、銭湯ミュージアム「SUPER SENTO パルコ湯」が渋谷PARCOで2023年4月2日(日)まで開催中です。

町田忍さんは、1953年頃、町田さんがお住まいだった目黒区原町2丁目の当時の家を写真見て再現した銭湯ジオラマ模型を出展。

この他、「SUPER SENTO パルコ湯」では、先日みどり湯でポップアップイベントを開催されたMarco Tokyo銭湯さん、銭湯大使ステファニー・コロインさんも参加しています。

また、西蒲田の「改良湯」さんは特別コラボ企画を開催中。

銭湯ミュージアム「SUPER SENTO パルコ湯」では、「銭湯文化を永遠に!」というビジョンのもと、さまざまな銭湯・サウナグッズなどを展示していますので、ぜひ足をお運びくださいね。

「SUPER SENTO パルコ湯」開催概要
【開催期間】~2023年4月2日(日) 11時~21時(入場は閉場の30分前まで)
※最終日は18時閉場
【開催場所】渋谷PARCO4階「PARCO MUSEUM TOKYO」
【入場料】500円(オリジナルステッカー付)
※小学生以下無料

■取材協力
みどり湯町田忍さん

地域ニュースサイト号外NETライター(東京都目黒区)

コピーライターからWebライターへ転身。アロマセラピスト・整体師としても時々活動しています。趣味はカンフー(八卦掌・長拳)と古代史。目黒区の魅力やおもしろいところを発信していきます。取り上げて欲しい目黒の穴場や情報もぜひお寄せください!

Chikuwaの最近の記事