【目黒区】夏休みはホテル雅叙園東京へ。「和のあかり×百段階段2023~極彩色の百鬼夜行~」開催中
毎日災害級の暑さが続いていますね。陽射しが針のように肌を突き刺し、痛いほどです。ついついお出かけが億劫になってしまいますが、これだけは見逃せない!
ホテル雅叙園東京にある東京都指定有形文化財「百段階段」で開催される、「和のあかり×百段階段2023~極彩色の百鬼夜行~」です。2022年の夏は「光と影・百物語」をテーマに、怪談話として有名な「百物語」をモチーフにした内容でおおいに盛り上がりました。
2023年もそのエッセンスを残しつつ現実世界と妖しい異世界との境目があいまいとなるような、ストーリー性のある展示を展開。豪華絢爛な文化財「百段階段」の魅力を存分に活かした世界観で、私たちを楽しませてくれますよ。
実際に足を運んできましたので、その見どころをたっぷりとお届けしましょう。
始まりは音・光・色彩でこの世から異界へと誘う演出
文化財「百段階段」へ続くエントランスホールで出迎えてくれたのは涼やかな風鈴の音色。平安時代に起源をもつ相模鋳物、柏木美術鋳物研究所の「小田原風鈴」です。
形により音色が異なり、一つでも良い音ですが、違う形のものが一緒に鳴るとこれもまた美しく、心に響く音色です。
続いて軽やかな音色を奏でるのが篠原風鈴本舗の「江戸風鈴」。ガラス製の風鈴で、型を使わずに宙吹きで成形して作られています。
風鈴のふちをわざとギザギザに仕上げることで、音の響きがさらに涼やか。鋳物とはまた違った音色で蒸し暑い日本の夏に「涼」をもたらしてくれます。
そして色鮮やかな名古屋提灯が続くプロムナードへ。
和紙を通してこぼれる温かでやわらかな灯りが空間をぼんやりと照らし、異界へと誘っていきます。ごくありふれた日常のようでもあり、妖しさも感じる演出。
99段の階段廊下がつなぐ7つの部屋で、今年はどんなドラマが待ち受けているのか期待が膨らみます。
異界への扉を開け、美しくも幻想的な世界へ。一つ目は「十畝(じっぽ)の間」
文化財「百段階段」、一つ目のお部屋は荒木十畝による四季の花鳥画が描かれ、黒漆の螺鈿細工が随所に見られる重厚な造りの「十畝の間」。
「異界へと続く道」をテーマに、一葉式いけ花・第4代家元の粕谷尚弘さんが創り上げた圧倒的な世界観に魅了されてしまいました。
今回はあえてトロピカルな花材などを組み合わせて非日常感を演出したとのこと。鳥居の奥にある池をイメージした生け花についつい誘われ、後戻りできなくなってしまうような、妖しい雰囲気満点です。
あえて花材を生花にすることで、何度訪れても印象が変わり、常に変化し続ける演出となっています。
そして鳥居の両脇には中野形染工場×ハナブサデザインによる「越谷 籠染灯籠」が、さらに空間をミステリアスに。
「籠染め」とは藍染め技術の一つで、円柱の真鍮型ふたつの間に布を通らせ、生地の裏表に同時に糊付けを行うことによって、表裏で違う柄の生地を作るものなのだそうです(参照元:一般社団法人 越谷市観光協会ホームページより)。
伊勢型紙から丁寧に刷りとられた柄の模様を真鍮板にエッチングした円筒状形と模様が、籠の網目のように見えることからそう呼ばれています。
中野形染工場は日本で唯一の藍染め技術「籠染め」で浴衣生地を生産してきました。しかし、時代と共に作られなくなってしまった「籠染め」の浴衣。
その籠染めの型を、伝統技法保存の観点から灯籠として蘇らせたのがハナブサデザインです。
どの「籠染灯籠」も実際に使用されていたもので、基本的に1点モノ。アップサイクルすることで、伝統技術の継承とSDGsを叶える唯一無二のアート作品となっています。
ペットボトルが奏でる極彩色の世界。紅色に染まる「漁樵(ぎょしょう)の間」は「鬼の住処」に
青い世界「十畝の間」から一転して、紅色に染まる「漁樵の間」へ。中国の漁樵問答の一場面を描いた精巧な彫刻が特徴的で、文化財「百段階段」の中でもひときわ豪華絢爛なつくりで知られています。
部屋の中で真っ先に目に飛び込んでくるのは、ペットボトルアーティストの本間ますみさんが手がけたリアルな水晶のオブジェ。
すべて使用済のペットボトルを使用し、接着剤や塗料を一切使用せずに新たな価値を付加して蘇らせた作品となっています。
紅色に染まった部屋の片隅にたたずむ鬼に気がつくと、もう後戻りはできない異界へと足を踏み入れてしまったことを感じさせます
「漁樵の間」を飾る彫刻や日本画の人物たちもまるで登場人物の1人のように、今にも動き出しそうな妖しさと生々しさにあふれていました。
美しいものは怖いもの、異世界の四季が待ち受ける「草丘(そうきゅう)の間」
礒部草丘が手がけた四季草花絵が印象的な「草丘の間」。こちらでは異界の四季というテーマで、歌舞伎やオペラなどの衣裳を手掛ける松竹衣裳と大道具を扱う歌舞伎座舞台がプロデュースしています。
そしてお部屋の片隅で圧倒的な存在感を放つ、造形作家・人形師であるよねやまりゅうさんの作品も。
闇にうごめく異形の者たちの叫びが聞こえてくるようですね。
部屋中央に飾られているのは、岡山県倉敷市出身の櫻井駿さんの作品で「七夕飾り」。伝統的な意匠に再解釈を加え、独自の造形と融合させた作品となっています。
その「七夕飾り」をぐるりと取り囲むように展開するのは「歌舞伎に観る四季」。実際の舞台とは異なり、衣裳が主役を務めます。
まずは春。「助六由縁江戸桜」「籠釣瓶花街酔醒」などに登場する「吉原の桜」です。
続いて夏は女形が踊る人気舞踏「藤娘」。
秋は「紅葉狩り」。鬼気迫る表情で平維茂(たいらのこれもち)に迫る、鬼女の正体を現した更科姫です。
そして、私が最も心惹かれたのが冬の展示「鷲姫」。「柳雛諸鳥囀(やなぎにひなしょうちょうのさえずり)」という四季変化舞踏の中の一曲です。
雪の中にたたずむ白鷺の精に託して娘心の妄執を描いた作品。舞台では白無垢・綿帽子の嫁入り衣裳から、引き抜いて友禅衣裳の町娘へ転じ、はなやかに恋模様を踊ります。
やがて暮色が迫ると、娘は恋を引き裂かれた鷲の精となり、火炎衣裳にぶり返り、地獄の呵責に苦しむ姿をみせるという名作です。
美しいものは本当は怖いもの、自然が持つ大きな力にあらがえず、静かに取り込まれていくような感覚を思い起こさせる展示となっています。
白狐の孤独に冷たく凍り付いてしまいそうな「静水(せいすい)の間」
小山大月の金箔押地秋草が欄間四方に描かれた奥の間、橋本静水等の画伯が次の間の天井及び欄間を手掛けている「静水の間」。これまでの極彩色の世界からは一転、冷たく凍てつくような白い世界が広がっています。
こちらで描かれている「白き狐」は、源平合戦の世界を題材にした歌舞伎演目「義経千本桜」のワンシーンをテーマに松竹衣裳×歌舞伎座舞台が手がけたもの。親と死別した子狐の孤独とやるせない思いを表現しています。
「白い狐の世界」の脇にひっそりと飾られていたのは「藍染花」。徳島のフラワーデザイナー・米川慶子さんの作品です。
数種類の布を特殊な技法を使って染め上げ、生花のようなリアルな花に仕上がっています。深い藍色が白狐の癒えない孤独を現しているよう。
そして「白き狐」の舞台で使われている月灯りとは打って変わって、温かみのある優しい光を放つ高山しげこさんの照明。こちらのライト、竹ひごや針金などは使用せずに紙を漉いて成型して作られたものなのだそうです。
空間をやわらかく灯すライトが、「白き狐」の世界の哀しさをより一層際立たせているように感じました。
最後にご紹介するのは、笠間にある「つばめ窯」で茨城の民話をモチーフにした作品を作り続ける陶芸家・髙橋協子さんの作品。
静かな「白き狐の世界」とは真逆に、いまにもさんざめきが聞こえてきそうな躍動感にあふれた作品です。縄文土器と同じ手法で、粘土の輪積みで作りあげた狐や天狗、妖怪たち。
どこか人間臭く、愛嬌のあるしぐさに親しみを覚えてしまいました。
光りが届かぬ水の底へ引きずり込まれていく「星光(せいこう)の間」
板倉星光の四季草花が描かれている「星光の間」。「静水の間」から続く渡り廊下にも素敵な演出が待ち受けていました。
一つ目は第一印刷所が手がける越後・長岡花火をモチーフとした切り絵加工の「かみはなび」。そして天井を泳ぐ新作の「にしきごい」です。
ゆらゆらと水のない天井を泳ぐ「にしきごい」は、「星光の間」のテーマである「水が紡ぐ詩」へと誘ってくれるよう。
「星光の間」では「津軽びいどろ」や「江戸切子」、「琉球ガラス」などさまざまなガラス作品が展示されていました。
透き通るガラスを使い、色や模様、造形で動きのある水の中の世界を鮮やかに表現。
中でも目を引いたのは「廣田硝子」や「ミツワ硝子工芸」が手がけた真っ黒なグラスです。
光を通すガラス素材の場合、どうしても仕上がりが茄子紺色のようになってしまうのが通常でした。漆黒に見えるガラス生地自体を作ることも、それに文様のカットを入れることも難しく、大変高い技術が求められるそうです。
そして米軍基地から廃材として出される瓶を再利用し、ランプのホヤや薬瓶など必需品と日用品を製作してきた琉球ガラス。
しまんちゅ工房が扱う「海蛍」シリーズは、ガラス部分に光を蓄える鉱石を砕いた蓄光材をしこみ、暗闇の中で光るようにしたグラスです。
明るい陽射しの元では鮮やかなグラス、暗闇の中では海の泡のように輝くという神秘的な一品となっています。
もがきながら浮上すると、そこに見えるのは懐かしい現世。「清方(きよかた)の間」
美人画の大家・鏑木清隆が手がけた茶室風のお部屋が「清方(きよかた)の間」です。
水の世界へと飲みこまれた「星光の間」から逃れ、「清方の間」で辛くも水面に顔を出すことができると、懐かしい現世の灯りが見えてきたという瞬間を描いています。
不思議な呪文が書かれた照明は弦間康仁さん(Feel Lab)の作品。このライトには百鬼夜行から逃れることができる「呪文」が刻まれていました。
そして大ヒットアニメ「鬼滅の刃」ファンなら見逃せないのが、青い彼岸花をモチーフにした簪(かんざし)。かんざし作家の榮さんの作品です。
作中では見つけることができませんでしたが、こんなところで妖しく美しく、そしてひっそりと咲いていました。
この他にも、倉敷切子灯籠をモチーフ造られている倉敷光作所「希莉光(きりこ)あかり」。倉敷切子灯籠をモチーフに、灯籠とは異なる和の灯りとして発展させた作品です。
有田焼の名窯「真右ェ門窯」の作品や、組子建具の山川英夫さんが手がけた組子細工作品(法隆寺・夢殿をモチーフにしたライト)、和傘工房「朱夏(和傘あんどん)」なども展示されていますので、ぜひお見逃しなく。
現世へ帰る前に立ち寄った神々の世界、「頂上の間」へ。
いつもなら現世へと戻り、明るい陽射しの下で展示が終わる「和のあかり×百段階段」ですが、2023年は少し違いました。
すべて外光を遮断し、大島エレク総業が手がけた、植物や花をモチーフにした極彩色のライティングデコレーションが出迎えてくれるという演出です。
そして、壁一面に掲示された「神々の面」と金色の龍が待っていました。
「神々の面」は木工加工のエキスパートである栃木ダボ製作所が、間伐材を再活用して作り上げたもので、116種類にも及ぶ作品があるそうです。
黄金色に輝く龍は、水引工芸作家・山冨繁子さんの作品。古くから贈り物や、日本髪の結び紐として重用されてきた水引を、結んだり立体的に編むことでさまざまな形を作り上げる作家さんです。
色が白く、鼻がやや高い上品で優しい顔立ちが特徴の「越谷だるま」。この端整なフォルムを活かし、和紙や英字新聞など張り込んだモダンでおしゃれな「だるまアート」に仕上げたのは「越谷 籠染灯籠」同様、ハナブサデザインです。
だるまとは仏教の教えを意味し、苦しみの中で気づきと喜びを得るのを手助けしてくれるものとされています。
「神々の園」は異世界から逃れ、現世に戻る途中に現れた光の曼陀羅。不安と恐怖にこわばった心を優しく解きほぐし、いつもの世界へと還るのを手助けしてくれる、そんなひと時を感じさせる展示でした。
作品世界をより深く、美しく、妖しく彩るサウンドはヨダタケシさんのオリジナルサウンド
2021年からホテル雅叙園の文化財「百段階段」の展示会で、各部屋ごとのテーマに合わせたオリジナル楽曲を手掛けているヨダタケシさん。女神の唄声とも称される独特の音色を持つテルミンを駆使し、展示会の世界観をサウンドから支えてくれています。
実はヨダタケシさんのオリジナルサウンドが大好きで、帰りにミュージアムショップでしっかりゲットして帰りました。
ゲストボーカリストとして「極彩色の百鬼夜行」を透明感のある声で色付けしてくれているのは、舞台俳優・ダンサー・歌手である片山千穂さん。展示会の世界に重層的な美しさを与えてくれていました。
毎回訪れる度に新しい発見と驚きをもたらしてくれるホテル雅叙園東京の展示会。皆さんもぜひお見逃しなく!
■取材協力
ホテル雅叙園東京