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見習い美容師のリアル。「誰が乾かしても決まる髪になる」サンドロで聞いてみた。【高松市】

原田伸一ガーカガワ編集部(高松市)

「誰が乾かしても決まる髪になる」でおなじみの美容室・サンドロさん。ずっとアシスタントをされていたスタッフさんが晴れてジュニアスタイリストに昇格したと聞き、あらためて見習い美容師の修業時代を振り返ってもらいました。

高松市六条町にあるサンドロ(SANDRO)さん。
香川の女性をもっと美しくしたいという思いで東京の有名店を退職したオーナーが、地元香川で「誰が乾かしても決まる髪になる」という美容室をオープンされました。その後、常に予約でいっぱいな人気店となっていますが、今回はこちらのスタッフさんにお話を聞きにやってきました。

オーナーの櫻井さん(写真右)と、このたびジュニアスタイリストに昇格された eno さん(写真左)です。

社員教育の在り方が時代とともに変わっていく中で、いわゆる技能職(職人さん)の世界では厳しい師弟関係や修行期間などの職場文化が残っているといいます。今回は、ジュニアスタイリストに昇格した eno さんにアシスタント時代を振り返っていただいて、いろんなお話を聞いてみたいと思います。

美容師を極めて憧れの存在になりたい!そして香川の女性をもっと綺麗にしたい!

相変わらずどこかのアトリエか画廊にでも入り込んだかのようなオシャレな店内にお邪魔すると、ちょうどオーナーの櫻井さんがスタッフさんに指導されているところでした。

怒号が飛び交う張り詰めた空気感… なんてことはなく、むしろ楽しそうにも見えます。

指導はまさに手取り足取り。ハラスメントや職場ネグレクトが問題視されている昨今ですが、サンドロさんではお互いの信頼関係がしっかり築かれているようです。

お客様に幸せな気持ちになってもらうにはまず美容師みずから幸せでなければならない…
そんな理想を地で行っているようなお店の雰囲気に、なんだかほのぼのとしてしまいました。

それではあらためまして、このたびアシスタントからジュニアスタイリストへ昇格された eno さんです。

ーーこのたびはジュニアスタイリストに昇格されたとのことで本当におめでとうございます。と言いつつ、イマイチ素人の僕にはその業界の仕組みがよく分かってないのですが、そもそも美容師になるにはどうしたらいいのですか?

enoさん「最初は美容師の専門学校に行って卒業のタイミングで美容師の国家試験を受けます。その後はお店によっても違ってくるのですが、最初はアシスタントとして働きます。」

まず厚生労働大臣または都道府県知事の指定した美容専門学校に入学し、昼間課程2年以上、または通信課程3年以上の課程を修める必要があります。その後受験資格が与えられ国家資格である美容師の試験を合格して晴れて美容師になります。

ただ、この段階ですぐにお客さんに対して髪が切れるかというとそんなに甘いものじゃなく、その後美容室に就職してからはアシスタントとして下積みとなり、それこそお店の掃除からスタートとなるそうです。

ーーちなみにこのアシスタントの期間ってどれくらいなんですか?

enoさん「お店の考え方やその人の技量にもよるのですが、香川県内でいろいろ耳にするのはだいたい4~5年というところでしょうか。その後はお店によってはいきなりすべてを任せるスタイリストになるケースもありますが、サンドロではアシスタント⇒ジュニアスタイリスト⇒スタイリストという流れとなります。」

サンドロさんで実際に使用されている研修テキスト。「匠の技を”仕組み”にする。それがカリキュラム」と大きく書かれたテキストはオーナーの櫻井さん独自のもの。職人の世界である美容業界にあって、きちんと仕組み化してスタッフ教育されるお店は非常にまれなんだとか。

ーーそもそもなぜ美容師になろうと思われたんですか?

enoさん「うちの母が美容師で、父がBarを経営していた関係で朝まで帰ってこない職業でしたので、もの心ついた頃から母の職場で過ごすことが多かったんですね。小さい頃から母の職場の美容師さんたちに可愛がってもらって、特に美容師さんのオフの顔がすごく好きだったんです。そんな中で育ってきたので勝手に将来は美容師になると決めていましたね。学校の勉強は好きではありませんでしたが、自分の好きな事には没頭できるところがあったので、高校も美容師になる前提でモノ作りが学べる学校を選びました。そもそもは母の影響ですね。」

ーーそして、専門学校を卒業されてからサンドロさんに就職されたんですね?

enoさん「実はそうではなくて、私の場合は高校を卒業して別のお店で働きながら通信の専門学校を3年間専攻しました。先ほどお話ししたように、ずっと美容室で育ってきたようなものなのである程度どんな業界か知ったうえで最初のお店に就職したのですが、入って1カ月でなんか思ったのと違うなと感じたんです。お店自体はとても良いお店だったのですが、私の思っていたものと違ったというか…」

最初に就職したサロンは中途採用の美容師さんが多い職場だったそうです。他店で経験した美容師さんはそれぞれに独自のスタイルがあって、それはお店としての個性という点では良いと思いますが、教えられる側としては美容師さんによって教わることが違えば混乱するのは道理です。

また、皆さん本当に良い人たちばかりだったそうですが、自分がやりたい髪形などのスタイルとは少し違ったそうです。

enoさん「自分の弱いところだと思うのですが、ストレスを感じながらも2年半ほど働いていて、本当にいよいよ自分が壊れそうになった時に運よく櫻井さんと知り合いました。いろいろ相談に乗ってもらったり意見をいただいたりするうちに櫻井さんの元で働きたいと思うようになりました。私が県外に出たくて出れなかったこともあって、東京の、しかも母世代には人気絶頂だったサロンで働いていた経験もすごく魅力的でした。最後は母に背中を押されてサンドロで働くことにしました。」

ーーでも、しんどくても2年半最初の店で頑張ってきて、それで転職するのは相当な決断だったと思うのですが、決め手はなんだったんですか?

enoさん「櫻井さんに実際に私の髪を切ってもらったことです(笑)」

なるほど、分かりやすい!

ーーその後実際にサンドロさんに入られていかがでしたか? 最初はやっぱり掃除から?

enoさん「いちおう前のサロンで経験は積んでたんですど、ほんとシャンプーから始めました。ここに来たからにはゼロの状態にして、一から覚え直そうという意気込みでしたね。モデルさんにお願いしてシャンプーやカラーなど、櫻井さんが作ったカリキュラムに基づいて行いました。シャンプーの所作ひとつをとってもお客様に気持ちが伝わるという、一見、当たり前のことを本当に大切にされていて、教わっていちいち納得のいくものでした。心にストンと落ちるというか。」

このやり方で触ったらお客様はどう感じると思うか? 丁寧さだけでなくスピード感も必要だったり、いろんなことをお客様目線で考えさせられながら教えてもらったそう。実際にお客様にシャンプーするようになって「こういうことなのか」とパズルが溶けような感覚だったそうですよ。

実際にいろんなサロンに通われている読者さんならお分かりかと思いますが、シャンプーやカットをされながら「あっ、この人いま別の事を考えてるな…」なんて思う事ってありますよね。そういった、ないがしろにされがちな事だからこそ、しっかり教える櫻井さんの姿勢は本物だと思いました。

ーーなんだかそのカリキュラムにすごく興味が湧いてきたんですが、差し支えない範囲でちょこっとだけ教えてもらえませんか?

enoさん「そうですね… 例えばこれなのですが」

enoさん「例えば『トップポイントから頭の後ろのいちばん出っ張っているバックポイントまで分けて』というように骨格のどのポイントかを明確に指示することで、誰に言っても同じように施術できる…」

ーーこれ、頭が地図みたいになっているんですね?

enoさん「そうなんです。まずこれを覚えることから初めて実際にカラーを入れていく。この時間に何枚といったように手順もしっかり決められています。パーマも何回転で何巻きみたいに。この1.5回転がめちゃくちゃ難しいんですよね(笑)」

ーー傍から見てると簡単そうに見えるけど、いろいろ難しい技術が必要なんですね。ちなみに、一番苦労したところなんかありますか?

enoさん「ブローは泣きながらしました(笑)」

enoさん「これ、ブローで作ります。聖子ちゃんみたいな感じなんですけど、ブローで根元を立ち上げて毛先の方向性を作るんですけど… 今はやる方はいないです。櫻井さんのお母さん世代が若い頃にしていたブローですが、流行は巡るのでいつかは戻ってくるというのが櫻井さんの持論なんです。今の人がやらない髪形なので想像できなくて、うまくできずに泣いてました(笑)」

櫻井さん「泣いてるところを見せましょうか?(笑)」

enoさん「泣きながらやって、できあがったら『もうやりたくない~!』ってさらに泣きました(笑)」

他にもいろいろ苦労話をお聞きしましたが、よくもまあ今のこの時代にここまで大変な修行をするなぁ~と思ったのが正直な感想です。

ーーそこまで頑張れる原動力ってなんなんですか? 将来的に目指すものがあるとか?

enoさん「正直、こうなりたいなと思い始めたのは最近の事で、それまでは無我夢中で先の事まで想像できませんでした。人として美容師として櫻井さんのようになりたいとは思いますが、さらに女性として自分としてのスタイルを確立したいです。こう思えるまでに続けられたのは櫻井さんと両親のおかげです。」

ここに至るまで何度も辞めたいと思ったそうです。でも美容師から逃げた先には何があるのかを考える方がもっと嫌だったといいます。周りからは「逃げてもいいよ」なんてことも言われたりしたそうですが、「そういうことじゃない」と思える強さも持ち合わせていたんでしょうね。

好きなことを仕事にするためには当然努力もしなければならないし、嫌なことだってやらなくてはならない。みんな好きな仕事をしている「今」を見て「好きなことを仕事にできていいなぁ」なんて言うのですが、みなさん知らないところでちゃんと努力しているんですよね。

ーーそして苦労が実ってジュニアスタイリストになりました。まだまだその先を見据えていると思いますが、ジュニアスタイリストになって意識は変わりましたか?

enoさん「やっぱり変わりましたね。いちおうジュニアスタイリストですが、自分の中ではスタイリストと思っているので(ジュニアを言い訳にしたくない)、お客様にもいろいろ提案していきたいですね。」

ーー今後、どのようになっていきたいですか? ビジョン的なものがあれば

enoさん「美容師を極めていくのはもちろんなのですが、地元香川で名前が通る人になりたいです。あの人が身につけているから自分も身につけたいとか、あの人のファッションをまねしたいとか『(女性から)憧れの存在』になれればいいなと思います。インフルエンサー的な感じとは少し違うのですが、いろんなことを広めたいですね。櫻井さんとも言ってるんですよ『香川の女性たちをもっと綺麗にしたい!』って。それが目標ですね。」

ーー最後に、eno さんが思うサンドロさんの魅力を伝えてください!

enoさん「ひと言でいうと『自信になるお店』です。お客様にとことん合わせた髪形やメイクなどを提案するので極端な話し、(お客様に合ってなくて)できないこともあります。そう自信を持って提案できるお店ですし、通ってくださるお客様がだんだんご自身にも自信がでてくる姿を本当によく見ます。年齢に関係なく、その人らしく綺麗になれるお店だと思います!」

と… いつもの記事より長くなってしまいましたが、お話を聞いていて eno さん自身がすごく自信に満ちている印象を受けました。その自信の源は当然これまで苦労し、時には泣きながら頑張ってきた努力なんだと思います。

どうせ髪を切ってもらうならこんな人に切ってもらいたいな… なんて思いました。僕のようなおっさんでも10歳ぐらい若返るかな?(笑)

オーナーの櫻井さんはじめ、すごく親しみやすいスタッフさんがそろっています。今よりもっと綺麗になりたいと思ったらぜひサンドロさんへどうぞ!

サンドロ(SANDRO)
香川県高松市六条町599-2
TEL 087-880-9870
9:30~21:00(月曜日、第四火曜日定休)

ガーカガワ編集部(高松市)

香川のあれこれweb「ガーカガワ」編集長。カメラ片手に香川県内を飛び回るフォト&ライター。グルメや観光などの定番記事のほか、地元の人やモデルなどを積極的に活用する人肌感のある記事が得意です。明太子は心の友。

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