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なぜ校長先生の話は記憶に残らないのか。心に響く話にある2つの要素とは?

畠山仁美所作講師

「校長先生の話」と言えば、「長い、つまらない…」という印象を持たれる方も多いかと思います。

小中学校のときに聞いた校長先生の話を今でも覚えている、という方はかなり少ないのではないでしょうか。

本当につまらない?

私の住む自治会で月に一度回ってくる回覧板には、この地域の小中学校の「学校だより」が挟まっています。表紙には校長先生のことばが載っており、せっかくなのでいつも拝読しているのですが、これがとても「いい話で大切なこと」が書かれているんです。

大人になってみれば、校長先生の話は決してつまらなくないし、「非常に大事なことを言っている」とよく分かります。だとしたら、なぜ校長先生の話は記憶に残らなかったのでしょうか。

「ネタ本」の存在

数年前、NHKの番組「チコちゃんに叱られる!」で「なぜ校長先生の話は長いのか」という回がありました。

その際、教育評論家の尾木直樹氏が、「『校長講話集』という“ネタ本”があり、全国の約7~8割の校長先生が使っているのでは」とおっしゃっていました。

もちろんネタ本を使わず、ご自身で内容を考えている校長先生もたくさんいらっしゃると思います。

でも、もし多くの校長先生が「ネタ本」から選んで話をしているとするならば、ここに「記憶に残らない話」となる理由がありそうです。

30年以上たった今でもはっきり覚えている話

私が通っていた中学の「地理の先生」は、どちらかというと内気な印象で、授業はボソボソと小さな声で話すし、教科書から脱線することもなく、生徒を惹きつけるような面白い話をするタイプの先生ではありませんでした。

しかしある日の授業中、その先生がなぜか突然、松下幸之助さんの若かりし頃の苦労話を始めました。

授業の半分以上の時間を使い、黒板も駆使し、教訓めいたことを言うわけでもなく、ただただエピソードをイキイキと語り続けるのです。

そのときの話は、30年以上経った今でもはっきりと覚えています。
もちろん松下幸之助さんのエピソードそのものが興味深かったこともあると思いますが、なによりも、あの時の先生には「人の心に残る話し方」の秘訣がありました。

長く心に残った二つの理由

なぜ30年以上経っても長く記憶に残り続けているのか。
それは、その時の先生の話に「熱」と「意外性」があったから、です。

先生が松下幸之助さんのことを語っていたとき、その言葉には間違いなく「感情」が宿っていました。

教科書をなぞって教えている時とはまったく違い、自分のなかにある話を、自分のフィルターを通して伝えているのがひしひしと感じられました。

さらに、余談など一度もしたことのない先生が、急に松下幸之助さんのエピソードを熱く語り出したものですから、生徒全員が「え、どうした??」と一瞬戸惑いました。

まさかこの先生が…?という意外性があったことも、みんなが前のめりで真剣に耳を傾けた一つの要因となりました。

SUCCESs(サクセス)の法則

人々の記憶に残り、相手に影響を与えるようなメッセージに共通する要素をまとめたものに、「SUCCESsの法則」があります。

Simple:シンプルであること
Unexpected:意外性があること
Concrete:具体的であること
Credible:信頼性があること
Emotion:感情に訴えること
Stories:物語性があること

あの時の地理の先生の話には、少なくとも「Emotion:感情」と「Unexpected:意外性」がありました。さらに松下幸之助さんのエピソードには「Stories:物語性」もありました。人の記憶に残るのは当然だったと言えるでしょう。

ネタ本に載っている話はどれも本当に素晴らしい内容ばかりです。でも「借りてきた言葉」はどうしても心に響きません。

「自分の言葉に感情を乗せて語ること」の大切さを、地理の先生には身をもって教えて頂きました。

所作講師

日常の振る舞いを見直すことで、心・体・生活を整えるお手伝いをする所作講師。立つ・座る・歩く・物を扱う・挨拶する、といった日常あたりまえに行っている所作を通して、振る舞いだけでなく自分の内面も見つめ直すレッスンが好評。2011年の開講以来マンツーマンレッスンにこだわり、一人一人と向き合ってきた。ブログ【所作美人のヒント】では、バタバタと忙しい日々の中で、所作を通して自分を磨く考え方を発信。著書「一日一分からはじめる『おだやかな人になる所作の習慣』」

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