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乗客からの「4人家族なのに、座席を回しちゃいけないの?」の問いへの、グリーンアテンダントの秀逸な応対

樋口智香子マナー・コミュニケーション講師

国内のコロナ感染者数は減少の一途をたどってはいるものの、いつどうなるかわからないというのが現状。各業界は、今なお、様々な感染症対策をとり続けています。
ときには、不便さを感じたお客様から、不満の声があがることもあるでしょう。そんなとき、どうすれば、お客様の気持ちをなるべく害さず、お願い事を受けいれてもらえるでしょうか。
たまたま遭遇した、JR列車内でのグリーンアテンダントの応対に、とても好感が持てたので、ここにご紹介します。

JRのグリーン車内に、4人家族が乗車していました。
お父さん、お母さん、5歳くらいの男の子、赤ちゃん。お母さんが赤ちゃんをひざ抱き、その隣に男の子、お父さんはその前の座席に位置していました。
お母さん一人で、赤ちゃんと男の子をみるがたいへんだったのでしょう、お父さんは座席をくるりと回して、4人家族が向かい合って座れるようにしました。

しかし、感染症対策をとっている最中、JRからは、座席の回転はしないでくださいというお願い事項が出ていました。
乗客の様子を見たグリーンアテンダントが、この家族に、そのことを伝えにきました。赤ちゃんと小さなお子様連れの乗車ということで、父母の苦労を察したのか、申し訳なさそうに、こう言ったのです。

「恐れ入ります。誠に申し訳ございませんが、現在、座席の回転をご遠慮いただいておりますため、シートをお戻しいただけますでしょうか。」

これに対し、お母さんが不満そうにこう言いました。「家族なのに、ダメなんですか?」

何と答えるのだろうと見ていたところ、その対応は、とても丁寧なものでした。

「ご不便をおかけして、申し訳ございません。座席を回してしまいますと、どうしても会話が増えてしまうかと存じます。皆様に、車内での会話をお控えいただいている関係上、どうかご協力いただけますでしょうか。」

グリーンアテンダントの申し訳なさそうな表情と、丁寧な言い方に、家族連れの父母も納得。座席を元の位置に戻そうとしました。
すると今度は、小さな男の子がぐずりだしたのです。
きっと、家族向かい合わせで座っていたかったのでしょう。「ええ~」と不満げな声をあげました。

するとグリーンアテンダントは、申し訳なさそうに、男の子にも優しく声をかけました。

「ごめんなさいね。電車は好き?これ、よかったらどうぞ」

こう言って、電車のシール(おそらく子供向けのノベルティ)を、男の子に渡しました。
男の子はこれに大喜び、ご機嫌も回復。結果、グリーンアテンダントは、とてもスムーズに、乗客にお願い事項を受け入れてもらうことに成功。その後のご家族の雰囲気も良く、はたから見ていても、とても気持ちのよい光景でした。

どんな点が良かったのかをまとめると、以下のようになるでしょう。

・お客様の不便さを察し、申し訳ないという気持ちを、表情・言葉に表す
・クッション言葉(申し訳ございませんが)+依頼形(~していただけますでしょうか)
・低姿勢でありながら、お願い事項の理由をきちんと伝える
・お子様へのフォローで、その場の雰囲気を明るくする

咄嗟の対応で、これらをスムーズにやり遂げたグリーンアテンダント。
その様子を傍らで見て、思わず、心の中で「お見事!」とつぶやいてしまいました。

何かと制約の多いこの時世、サービスをする側の応対ひとつで、お客様の気持ちも変わるものですね。ご参考になれば、幸いです。

アカデミー・なないろスタイル
マナー・コミュニケーション講師 樋口智香子

マナー・コミュニケーション講師

マナー・コミュニケーション研修講師。千葉県出身、元資生堂ビューティコンサルタント。NLP心理学とマナーをかけ合わせた独自のプログラムにより、セミナー・研修を実施。全国250か所から招致され、指導人数は延べ20000人以上。セミナー・研修の他、書籍の出版、コラム執筆、雑誌記事や教材監修など幅広く活動中。

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