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飼い主のカンは正しいと科学が実証!犬、猫、ウサギについての論文を紹介

いわさきはるかサイエンスライター
PhotoAC

ペットを飼っていて「うちの子、なんかいつもと違う気がする」と感じたときあなたはどうしていますか?

すぐに病院に連れていくという人がいる一方で「気のせいかも」「心配性すぎるかな」と、病院に連れて行くのをためらったり、ネットで調べて自己診断したりしている人も多いかもしれません。

しかし実は飼い主の「いつもと違う」という直感は、科学的に正しいことが証明されているのです。

この記事では、犬、猫、ウサギについて書かれた「飼い主のカン」に関する論文をサイエンスライターの筆者がわかりやすく解説します。

飼い主は犬の痛みを獣医と同じくらい認識

Pixabay よく眠れるかどうかも痛みに関わる指標の1つ
Pixabay よく眠れるかどうかも痛みに関わる指標の1つ

ヘルシンキ大学の研究チームは慢性的な関節炎を持つ犬61頭とその飼い主を対象に調査を行いました。

まず、飼い主にアンケートを実施し、犬の痛みに関連する行動や症状を評価してもらいます。次に、獣医師が犬の痛みの評価を行い、レントゲン検査で関節炎の重症度を判定しました。

これらの飼い主と獣医師による痛みの評価を比較した結果、両者はおおむね一致していました。つまり、飼い主は獣医師とほぼ同じように、愛犬の痛みを適切に評価できていたのです。

飼い主は犬の歩行障害や痛みを訴える仕草だけでなく、活動性、食欲、睡眠パターンなどの変化を日常的に観察することで、痛みがあるかどうかを総合的に判断していました。

例えば、痛みのある犬は通常より活動性が低下し、遊びや散歩に対する興味が減少します。また痛みによって食欲が減退したり、睡眠が浅くなったりすることもあるでしょう。

研究グループはこのような「普段との違い」から得た飼い主による愛犬の痛みに対する評価が、獣医師による評価と同程度に信頼できるだろうと述べています。

参考:Evaluation of methods for assessment of pain associated with chronic osteoarthritis in dogs

猫の飼い主が感じた痛みのサインを鎮静剤で評価

Pixabay 高齢で痛みを抱えた猫は毛づくろいがうまくできないことも
Pixabay 高齢で痛みを抱えた猫は毛づくろいがうまくできないことも

グラスゴー大学の研究チームは、猫の痛みに対する研究を行いました。加齢に伴う筋骨格系の痛みを抱えた高齢の猫を飼っている飼い主に対しアンケートを行い、猫が若いころ(=痛みを感じていなかったころ)と比べてどのような行動が増えたか調査したのです。

その後、猫たちに鎮痛剤を投与すると、飼い主が選んだ行動が減少しました。つまり、猫の行動の変化は痛みによるものであり、飼い主たちがそれらの変化を認識できていたと言えるでしょう。

この調査では、飼い主は猫が鎮痛剤を与えられたことを認識していたため飼い主が「薬を飲んだから痛みが軽くなるはず」と思い込んだ可能性も否めません。しかし、論文では「飼い主は猫が痛みを感じているときの行動変化を認識でき、獣医の適切な指導があれば早期治療につながる可能性もある」と結ばれています。

飼い主に知識がない場合には行動の変化に気づけても「気のせい」と思い、治療に至らないことがあります。飼い主は猫の行動の変化について正しい知識を持っておくことが早期治療に向かう鍵になるようです。

参考:A study of owner observed behavioural and lifestyle changes in cats with musculoskeletal disease before and after analgesic therapy

痛みを隠すウサギも見抜く飼い主の観察力

Pixabay ウサギは丸まって眠っているだけでも不調を示すことがある
Pixabay ウサギは丸まって眠っているだけでも不調を示すことがある

同様の調査はウサギに対しても行われています。ウサギは捕食者に狙われないよう痛みを感じても隠すことで知られていますが、飼い主はそんなウサギの痛みさえも気づくことができるようです。

ブリストル大学の研究チームは345人のウサギ飼い主に対し、8本のウサギの動画を見せました。痛みを感じていない状態の動画を2本と軽度/中度/重度の痛みを感じている動画をそれぞれ2本で、合計8本です。

ほとんどの飼い主はこの中から平均5本の動画に対し痛みを感じていると認識し、その評価は正しいものでした。ただし飼い主の中には、無痛と重度の痛みを区別することができたものの、軽度から中等度の痛みについては認識できなかった人もいました。

飼い主の中にはウサギに関わる仕事をしている人や、ウサギの手術を経験した人がおり、そういった人々は軽度や中度も含むより多くのウサギの痛みのサインを感じ取ることができたといいます。

飼い主の経験や知識によって評価の精度は異なりますが、専門家ではない飼い主がわかりにくいウサギの痛みさえも認識できたことは驚くべきことです。

参考:An investigation into how accurately UK rabbit owners identify pain in their pet rabbits

飼い主のカンは科学的に証明された能力!

ここまで紹介したように犬、猫、ウサギにおいて、飼い主の観察力の高さは科学的に証明されています。

常にペットの様子をしっかり観察している飼い主は、ペットの痛みや体調の変化を、獣医さんと近いレベルで評価できるのです。普段からペットの行動をよく観察したり、病気したときの様子を覚えておくことで、飼い主の直感はさらに磨かれるはずです。

飼い主のカンは動物の健康を守ることができる立派な能力の1つです。「うちの子、いつもと様子が違う」と感じたら、ぜひ自分の直感を信じて病院に連れていってあげてくださいね。

サイエンスライター

保護猫2匹と暮らす理系ライター。猫や犬などペットとして身近な動物の研究をわかりやすく発信します。動物に関する研究は日々進んでいます。最新研究を知っておくと、きっとペットとの生活がより豊かなものになるはず。読めば人も動物もWin-Winになるような記事を書いていきたいと思います。

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