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森閑なる西丹沢の山へ 「畦ヶ丸」トレッキング △マイナー登山道を歩く△(0004)

上町嵩広登山レポーター

神奈川県・西丹沢の奥、山梨県との境界そばにひっそりと佇む山です。靄がかかると厳かな雰囲気に包まれます。

<趣意>
あまりメジャーではないマイナーな登山道。ちょっと気になってはいたもののなかなか行く機会のなかった山道を歩いてみました。

<概要>

山岳名: 畦ヶ丸 (あぜがまる)
所在地: 神奈川県足柄上郡山北町
標 高: 約1293m
丹沢山塊のうち西丹沢に位置する代表的な山岳。
東海自然歩道の一部。

<畦ヶ丸の魅力>

(1)静かな山と森歩き
東京近郊で手軽に登山を楽しむことができる山域として人気の丹沢ですが、西丹沢は丹沢のなかでもどちらかというと深域にありアクセスも利便性に欠けるため訪れる人は少なめです。そのため人の気配が少なく静かな山と森の雰囲気を楽しむことができます。
(2)渓流沿いの渡渉を繰り返す道
大滝橋バス停と西丹沢ビジターセンターどちら側から登り始めても、山腹までの前半は渓流沿いの道を歩くことになります。川のせせらぎを聞きながら沢沿いの道を歩くことが好きな方には魅力的ではないでしょうか。またどちらの渓流沿いの道も渡渉を何度も繰り返します。ほとんどは木橋が架橋されていますが何ヶ所かは川の中に足を踏み入れますのでちょっとアスレチック的な面白さも体験できます。

<登山コース>

「大滝橋」バス停を起点に南側から畦ヶ丸へアプローチし山頂から東側の西丹沢ビジターセンターへ下るルートです。

県道76号線から登山口への分岐
県道76号線から登山口への分岐

畦ヶ丸への登山口(大滝橋バス停側)
畦ヶ丸への登山口(大滝橋バス停側)

渓流沿いの道を歩く(畦ヶ丸への登山道)
渓流沿いの道を歩く(畦ヶ丸への登山道)

「大滝橋」バス停からスタートです。県道76号線のトンネル手前で分岐する左手の道へ入ります。道を進みさらに橋の手前でまた左に分岐する道へ入ると東海自然歩道の案内板があります。ゲートの横を通り抜けて先を進むとしばらくは渓流沿いの道になります。道標もしっかりとあり道もほぼ明瞭です。

最初は渓流沿いの道を進む
最初は渓流沿いの道を進む

東海自然歩道として整備されているため要所に道標があります
東海自然歩道として整備されているため要所に道標があります

稜線に出るまでは何度も渡渉があります。ほぼ木橋が架かっていますが、何ヶ所かは川の中に足を入れて渡ることになります。渡渉した後でその先の進路が分かりにくいところもありますが、正しい道ならばしばらく進むと道標がありますので、もし道標に行き着かなければ元の場所まで戻って別のルートを探してみてください。

トラバース道は幅が狭い部分もあります。
トラバース道は幅が狭い部分もあります。

紅葉の名残
紅葉の名残

「一軒家避難小屋」外観
「一軒家避難小屋」外観

「一軒家避難小屋」内部
「一軒家避難小屋」内部

いったん渓流から外れて高巻きするようにガケを登っていく道に変わります。しかしそこを越えるとふたたび渓流に出ます。渓流を上がっていきますと一軒屋避難小屋にたどりつきます。きれいに管理された小屋の内部でした。小屋の前にある木橋の先が進路です。小屋の裏手に道がありますが東海自然歩道ではありません。ここからは渓流を外れて畦ヶ丸の稜線へ出るために登り詰める道になります。

抹茶トリュフのような苔むした石
抹茶トリュフのような苔むした石

灌木に塞がれて道が分かりにくい
灌木に塞がれて道が分かりにくい

稜線をぐんぐんと登っていきます
稜線をぐんぐんと登っていきます

大滝峠上
大滝峠上

稜線に向かってぐんぐんと上がっていきます。小さな沢を渡った先でルートが分かりにくい箇所があります。灌木が茂っていて先があるのか分かりづらいのですが、そのなかを突き進むと道標が出てきます。そこからさらに登り切ると支尾根に出ます。支尾根を上がりきるとようやく畦ヶ丸への稜線に合流します。地図上では大滝峠上となっています。

靄がかかり神秘的な雰囲気が漂う
靄がかかり神秘的な雰囲気が漂う

山頂直下の「畦ヶ丸避難小屋」外観
山頂直下の「畦ヶ丸避難小屋」外観

「畦ヶ丸避難小屋」内部 きれいに管理されています
「畦ヶ丸避難小屋」内部 きれいに管理されています

山頂へ最後の登り坂
山頂へ最後の登り坂

畦ヶ丸山頂
畦ヶ丸山頂

大滝峠上から北へ稜線を上がっていきます。このときはここまでは紅葉も残っていましたが、ここから上はすでに落葉が始まり冬枯れの気配になり始めます。またこの日はモヤがかかり幽玄な雰囲気が漂います。モヤがかかる景色も丹沢らしいと言えると思います。稜線を登り詰めていくと畦ヶ丸避難小屋に出ます。こちらの小屋もきれいに管理された小屋でした。またトイレも併設されています。
小屋のある場所からすこし先へ進んだ先に畦ヶ丸の山頂があります。歩いて5分もかかりませんがすこし登ります。山頂にはベンチがいくつかあります。

畦ヶ丸を振り返る
畦ヶ丸を振り返る

善六ノタワの痩せ尾根
善六ノタワの痩せ尾根

涸れ沢を進む
涸れ沢を進む

山頂から東へ下ります。落葉したナラやブナなどと思われる森のなかを下っていきます。善六ノタワを越えると杉などの針葉樹の林になります。渓流に出るとその先は河原道を下っていくことになります。このあたりは道標に乏しいですが、目印にケルンのように積んだ石があるので参考になります。砂防ダムのような堰堤まで下りると左手に道が続きます。

ふたたび沢に出ます
ふたたび沢に出ます

水は透き通っています
水は透き通っています

「下棚」への分岐
「下棚」への分岐

「下棚」の滝
「下棚」の滝

渓流沿いの道に出てそこから何度も渡渉を繰り返します。おおむねこちら側も木橋が架かっていますが、川に足を入れるところもいくつかあります。渡渉するとその先が分かりにくいところもありますが赤テープを参考に先へ進みます。さらに先に西丹沢を代表する本棚と下棚の2つの滝があります。滝へ行くには登山道を外れることになりますのでご留意ください。

渓流沿いの道を進みます
渓流沿いの道を進みます

渡渉点は分かりにくいところもあります。
渡渉点は分かりにくいところもあります。

広河原に出ます
広河原に出ます

下棚の滝へはルートもしっかりとあり比較的難易度は低いですが、川の中を遡上するようにして進まないとたどりつけません。本棚はさらに難易度が高く、滑りやすいポイントも多いため、沢の中に落ちて全身がずぶ濡れになりかねませんので自信のある方以外は止めておく方が安全安心だと思います。
また本棚と下棚の間の徒渉地点で渡渉するルートに迷いそうなポイントがあります。そのときの水量や水の流れでポイントが変わってくるため周辺をよく見回して渡りやすそうな場所を選ぶ必要があります。ご留意ください。

吊橋の先に西丹沢ビジターセンターがあります
吊橋の先に西丹沢ビジターセンターがあります

西丹沢ビジターセンター
西丹沢ビジターセンター

下棚を過ぎると道は次第に緩やかになっていきます。2つの砂防ダムの堰堤の脇を下りて河原沿いの道を進んでいくと吊橋があります。その先にある建物が西丹沢ビジターセンターです。今回はここがゴールです。

[行程表]

※標準的タイムによる目安(休憩含まず)
「大滝橋」バス停→ 一軒家避難小屋(80分)→ 大滝峠上(50分)→ 畦ヶ丸(60分)→ 善六ノタワ(45分)→ 本棚の分岐(45分)※本棚の往復は15分程度→ 下棚の分岐(20分)※下棚の往復は15分程度→ 西丹沢ビジターセンター(35分)
コースタイム/ 5時間40分程度 ※本棚・下棚の立寄りは除きます。
標高差/ 850m程度(大滝橋バス停:450m、畦ヶ丸:1292m、西丹沢ビジターセンター:540m)

[登山コース補足]

道標が全体的に多く設置されており、また赤テープも要所に貼られているので迷うことはあまりないかと思います。進路が分かりにくいところが一部ありますが、正しいルートならば少し進むと道標が出てくるので、見つからなければまた元の場所に戻って別の方向を探してみてください。
ルートの下半分くらいは渓谷沿いの道になります。どちら側も徒渉点が数多くあります。ほとんどの場所は木橋が架かっていますが、いくつかは川の中に足を入れます。
森は広葉樹が多いです。初夏はヤシオツツジがよく咲いています。
●水場やトイレなど
登山道上に水場はありません。
トイレは畦ヶ丸避難小屋と西丹沢ビジターセンターにあります。

[難易度・危険箇所など]
渡渉地点が分かりにくいところが一部あります。渡渉が苦手な方はストックを持参して利用した方がいいかもしれません。
本棚への道は滑りやすいです。
上記以外にはとくに大きな難所や危険箇所はあまりないと思います。

[アクセス]

●往路
小田急小田原線「新松田」駅またはJR御殿場線「松田」駅から路線バス(富士急湘南バス)で「大滝橋」バス停までおよそ60分弱。
●帰路
「西丹沢ビジターセンター」バス停から路線バス(富士急湘南バス)で「新松田」駅または「松田」駅までおよそ70分。
※JR御殿場線「谷峨」駅または「山北」駅にもバス停留所があります。

<こんな方にオススメ>

(1)沢や渓流沿いの道を歩くのが好き
(2)静かな森のなかの登山を楽しみたい
(3)東海自然歩道の踏破を目指している

<補足情報>

[売店等]

登山道上には売店等はありません。
「新松田」駅・「松田」駅そばにコンビニエンスストアがあります。
西丹沢ビジターセンターのそばにあるキャンプ場には自動販売機があります。

[お食事処]

「新松田」駅・「松田」駅周辺には複数の飲食店があります。

[日帰り温泉など]

中川温泉ぶなの湯
湯花楽 秦野店
弘法の里湯 (鶴巻温泉)
健楽の湯 (松田)
さくらの湯 (山北)

[山小屋などの宿泊施設]

丹沢湖と西丹沢ビジターセンターの間にある中川温泉には複数の旅館があります。
西丹沢ビジターセンターの周辺には複数のキャンプ場があります。

[付近の山]

丹沢主脈
丹沢主稜
加入道山
菰釣山
東海自然歩道

[その他の補足]

●西丹沢ビジターセンター
檜洞丸や畦ヶ丸などに代表される西丹沢登山の情報拠点。周辺の自然情報や登山道情報の提供あり。トイレ・更衣室の併設あり。
水道はないが、ソフトドリンクやアイスクリームの販売あり。

<私的な雑感>

畦ヶ丸は静かな山と森歩きを楽しむことができる山という印象です。
塔ノ岳や鍋割山などの大人気の山と比較すると西丹沢はマイナーで訪れる人もぐっと減ります。塔ノ岳などは登山道とはいえほぼ整備されていますが、それに対して西丹沢では表丹沢にはない山の本来の雰囲気を感じることができるように思えます。

そんなわけで表丹沢とひと味ちがった山の妙味を味わうことができるのではないでしょうか。道に少々わかりにくいところもありちょっと迷ったりすることもあるかもしれません。そのときこそ地図を広げて自分の登山のスキルを確かめることができる絶好のチャンスだとも言えるかと思います。まあ、そうはいっても東海自然歩道の一部ですので整備はそれなりにされていますのでご安心を。

畦ヶ丸の欠点は、これは西丹沢全般の問題といってよいですが、アクセスが不便です。バスの本数も少なめですので帰りのバスの出発時刻を気にする必要があります。とはいえ、塔ノ岳などの表丹沢と比較すればの話ですので、路線バスでアクセスできるだけでも有難いといえるかもしれません。畦ヶ丸などは山梨県との境界そばにあり奥丹沢といってもよい領域でしょうか。

個人的に感じるのは、畦ヶ丸は西丹沢の最大の特徴である「森閑」という雰囲気がぴったりな山だなーと思います。初夏の人気のシーズンを外すと登山者も少なめですので、すこし寂しい空気も漂いますが、それもまた良さといえるのではないかと感じます。けして山深いとか人が足を踏み入れぬ森ということではないのですが、本来は山と森は人の領域ではないのですよということを肌で感じられるような印象があります。あまりひと気のないひっそりとした山で静かに山登りを楽しみたいときには最適な山と言えるのではないでしょうか。

畦ヶ丸は丹沢の奥深さと多面的な魅力を楽しむことができる山だと思います。表丹沢の人気の山歩きも楽しいですが、そんなポピュラーな山にちょっと飽きたら趣向を変えて行ってみるのも面白いのではないでしょうか。

(2023/12/16 上町嵩広)

登山レポーター

登山やトレッキングに関する極私的な観点からの感想や記録のレポートがメインです。登山道の情報だけでなくお食事処や立寄り湯などの関連情報もお伝えしていきたいと思います。皆様の今後の山行のお役に立ち、またこれから登山を始めたいと考えていらっしゃる方のためになれば幸いです。登山歴は15年ほど。普段は奥多摩や丹沢周辺に出没し、八ヶ岳や北アルプスにも出張ります。雪山やテント泊もやっています。ブログ「note」内でマガジン『登山の魅力』や『歴史に連なる山登り』なども掲載しております。よかったら併せてご覧ください。好きな山は「編笠山」(八ヶ岳)。山の抱負は「ちょっとだけ背伸びした山を登ってみる」

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