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中国でリアルな歌を 1600万円を賭けラップ大会を開く中国人ラッパーの挑戦

関強ドキュメンタリスト

「ご飯を食べれない人を見てきた 
なのに、多くの人は贅沢な料理を食べている
人々は銃を持って互いに嫌い合う
こんなゴミしかない場所で10年も歌ってられない」    
歌:『在路上』

この歌を歌うのはBigDog大狗さん(34歳)。中国・南昌市生まれのラッパーだ。彼は20歳の時にネットでラップの魅力を知り、歌い始めた。当初、アルバイトをしながら、ラップの練習を続けていたBigDogは、2007〜2009年に中国で最も大きいフリースタイルラップ大会「iron mic」に出場し、その才能を開花。3年間連続優勝した。
彼の綴る歌詞のほとんどは中国の貧富の格差や環境汚染などの社会問題。中国の若者たちは彼の歌詞に共感し、ファンは中国全土にまで広がった。彼は一度のライブで150万円を稼ぐほどの有名ラッパーとなったのだ。
しかし、彼は自由に歌うことができなくなっていた。

 2018年1月、中国メディアを管理する広電総局は「入れ墨を入れた芸能人や、ラップなどのヒップホップ文化は、不健全な文化である」として規制を始めた。
 中国では言論、文化、芸術などに対し政府から統制がある。その統制が若者文化であるラップにまで及んだのだ。
中国のラップバトル番組「中国有嘻哈」(日本語訳:中国にはヒップホップがある)は、シーズン1で30億人の視聴者を記録。個性の尊重と社会への反抗精神、リアルな歌詞などが若者たちを魅了していた。しかし、政府の動きを受けて、反体制的なメッセージを歌う曲は消え、快楽主義を重視した歌詞が歌われるようになった。

BigDogさんも「ヒップホップ禁止令」の影響を大きく受け、社会に対する不満など、過激な歌詞が歌えないようになった。出場していたラップ大会の開催も、歌手のプロフィールや、身分証、歌詞の内容などが政府に厳しくチェックされ、続々とラップ大会は中止された。
このまま政府の言いなりになって ラップを絶やしてはいけないと、BigDogさんは自ら主催者となりラップ大会の開催に向けて動き出した。

彼は周囲の人の経験を元に、政府の許可が下りるよう資料を制作。さらに運営資金として自費で1600万円を出し、大会の開催に漕ぎ着けた。大会は毎月、北京、武漢、広州など5箇所で開催。さらに、優勝賞金を用意した。

「優秀なラッパーたちはラップでお金を稼いで、そのお金で生活をしてラップを続けて欲しい」と彼は言う。

自由でリアルなラップを歌うことができるこのステージに、毎月およそ100人の出場希望者が押し寄せる。若者たちが自身の怒りや悲しみ、熱い思いをそのまま叫ぶラップ。政府の規制が強いからこそ、本当の自由求めて 歌い続けている。

ドキュメンタリスト

中国・北京生まれ。2008年、大学卒業後に来日。東京造形大学大学院で諏訪敦彦監督の指導を受ける。2013年、テレビ番組制作会社オルタスジャパンに入社。2014年から「中国の今」をテーマに、フジテレビ『NONFIX』の「ボクが見た中国シリーズ」を制作。これまでに「性」、「金」、「夢」、「愛」、「食」をテーマとした5作を制作した。同シリーズの一つ、「風花雪月−ボクが見た祖国・性の解放」で第32回ATP賞テレビグランプリ優秀新人賞を受賞。この他にもTokyo Docs 2017アジアドラマティックTV賞受賞。

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