ショートフィルム

国家を分かつ断絶 いまだ祖国に帰れぬロヒンギャのために立ち上がったミャンマー人の挑戦

久保田徹

ドキュメンタリー映像作家

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2017年の「ロヒンギャ危機」で難民となりバングラディシュに逃れた人々の状況が悪化の一途をたどる中、ミャンマー人とロヒンギャの相互不信、断絶を乗り越えようと活動する男性がいる。

テトツウィン(テト)はミャンマーの多数を占めるビルマ族仏教徒でありながら、ロヒンギャのために活動する数少ない人権活動家だ。テトが危険を顧みず、バングラディシュ側の難民キャンプに向かう旅を撮影した。両者の対話が実現するのか、映像を通じて確認して欲しい。

2017年8月に起きた「ロヒンギャ危機」以降、仏教徒が多数派のミャンマーでは、ロヒンギャおよびイスラム教徒に対する不信感が増幅していった。事の発端はラカイン州北部にて起きたロヒンギャの武装組織「アラカンロヒンギャ救世軍(ARSA)」による警察襲撃事件だった。

ミャンマー国軍はASRAをテロリストとして認定し、掃討作戦を実施。しかし、軍による攻撃の結果、実際に犠牲になったのはロヒンギャの一般市民だった。8月以降、70万人以上のロヒンギャが難民としてバングラデシュへと逃れ、その多くが軍による虐殺・レイプ・拷問を受けたことを証言した。

海外メディアが、ミャンマー軍に迫害されたロヒンギャの窮状を伝えていくのとは正反対に、
国内メディアはむしろ、ロヒンギャによるテロリズムの危険を繰り返し報じていた。それは”ベンガル人イスラム教徒”が、自らをロヒンギャと名乗り、ミャンマーへの侵略を企てているという内容だった。

国内メディアはロヒンギャという言葉を使うことを避け、代わりに彼らを”ベンガル人”と呼ぶ。これは彼らがミャンマー人ではなく、バングラデシュに属することを強調するためだ。1982年の国籍法の制定以降、ロヒンギャは国民に含まれず、「不法移民」という認識をされてきた。

テトは、多くの紛争地域にて民族・宗教間の和解を推し進める活動を行ってきた。タトゥーで覆われた大柄の身体と、背中まで伸ばした長髪は、彼の不屈の精神を物語っていた。

「政府によるプロパガンダにより、多くのミャンマー人はロヒンギャがテロリストの不法移民だと信じている。人権活動家でさえ、誰もロヒンギャのために立ち上がらない。だから俺は立ち上がると決めた」テトはバングラデシュの難民キャンプへ渡航し、ロヒンギャ支援の輪を広げる計画を話した。ロヒンギャが置かれた実際の状況を国内で伝えることで、民間の活動家たちのネットワークを広げる考えだ。

ちょうどその頃、ロヒンギャの取材をしていたミャンマー人のロイター通信社の記者2人が国家機密法違反の疑いでミャンマー当局に逮捕された。ミャンマー人がロヒンギャの問題に関わることは、当局により投獄・暗殺される危険が伴うこととして、その報道は世界中に知れ渡った。

「危険が伴うことは百も承知だ。それでも俺は人々に問いかけたい。なぜ我々は分断されなくはならないのか」

テトはバングラデシュへの渡航プロジェクトを「エンパシー・トリップ」と名付けた。このような状況を理解するには、まず被害者へ寄り添い、エンパシー(共感)を示すことが必要だからだと彼は語った。

「エンパシー・トリップ」、それは分断を乗り越えるための旅だった。

そして、このロヒンギャ問題は日本も無関係な話ではない。日本は歴史的にロヒンギャ問題の根底に深く関わっている。第二次世界大戦中、大日本帝国陸軍はラカイン州北部で仏教徒を武装化した一方で、英軍はイスラム教徒による軍隊を組織し、互いに利用した。仏教徒とイスラム教徒の代理戦争は、現在に至るまでの宗教間の対立の原体験となったと言われている。
そして現在、国際社会はミャンマーへの批判を強めているが、日本はミャンマーに対しロヒンギャ虐殺の追及を控える姿勢を貫いている。度重なる国連によるロヒンギャ迫害非難決議において、日本は全て棄権している。その背景にはミャンマー市場における日系企業の経済利権が関連していると言われている。ミャンマーの民主化を推進するロビー団体、「ビルマ・キャンペーンUK」が定めるダーティー・リストには、ミャンマー軍との取引によって、直接的あるいは間接的に人権侵害や環境破壊に加担しているとされる企業が記載されており、そこには日系企業も名を連ねている。

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クレジット

監督 / 撮影 / 編集: 久保田徹
協力: Norwegian People's Aid
音楽: audio network
プロデューサー: 出村真也

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