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運動「時間」の不足は「強度」で補てん。脳卒中や心臓病にならないための運動指南【最新エビデンス】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

「がん」の次に多い日本人の死因は「心臓血管系疾患」

「心臓血管系疾患」と呼ばれる脳卒中や心筋梗塞は「がん」に次いで日本で2番目に多い死因で、日本人の5人に1人が心臓血管系疾患で亡くなっています [厚生労働省資料] 。また一命をとりとめても「障害が残る」(脳卒中後遺症)、あるいは「息切れして以前のように動けない」(心筋梗塞後遺症)など、多くの場合、健康な生活は損なわれてしまいます。健康長寿を実現したければ何としても予防したいものです。では予防法は——?

これら心臓血管系疾患の多くは高血圧や高コレステロール血症などの「生活習慣病」が原因となっているため、予防にはその名の通り「生活習慣」の改善――禁煙、健康な食事、適度な運動(身体活動)――が有効です。

このうち一番実行しづらいのが「適度な身体活動」でしょう。1日に「千歩以上歩くと良い」とか「30分以上体を動かしましょう」とか言われても、忙しい仕事や家事の合間をぬってそれだけの時間を取るのは至難の業です。

体を動かす「時間」が十分に取れなくても「強度」を上げれば心臓血管系疾患は防げる

でもあきらめないでください。「時間」が短くても「運動強度」を上げれば心臓血管系疾患の予防作用は落ちません。それどころか逆に強くなることが分かりました。簡単に言うと「強度の低い動きを長時間続ける」よりも「同じエネルギーを短時間の中等度以上強度の運動で消費」した方が、心臓血管系疾患を防ぐ働きは大きくなるのです。

これを明らかにしたのは、英国レスター大学のPaddy C. Dempsey博士たち。研究結果は10月27日(2022年)、「欧州心臓雑誌」(EHJ)に掲載されました。EHJは世界最大の心臓血管系医学会である「欧州心臓病学会」が発行する旗艦学術誌。信頼性は抜群です。簡単にご紹介しましょう。

英国でボランティア9万人を7年間観察

博士たちが解析したのは、英国のボランティア9万人弱です。心臓血管系疾患のある人は除かれています。平均年齢は62歳、BMI平均値は27kg/m2、6割が女性でした。

Dempsey博士は、この9万名弱の人たちの利き腕に「三方向モーションセンサー」を24時間7日間連続でつけてもらい、その間の「身体活動」を評価しました。「モーションセンサー」は体の動きの加速度を記録できるので、運動時間だけでなく、どれくらい激しい運動をしたのか(運動強度)も計測できます。

そしてこれらのデータから、「身体活動」とその後の「心臓血管系疾患」発症リスクの関係を調べたのです。

結果は以下の通りでした。

まず観察開始からおよそ7年間で、5%弱の人が心臓血管系疾患を発症しました。運動との関係を調べると、(当然ですが)「身体活動によるエネルギー消費量」が多いほど、心臓血管系疾患のリスクは低くなっていました。

エネルギー消費量が同じなら「短時間・高強度」の身体活動の方が心臓血管系疾患予防作用は強力

ただしエネルギー消費量が同じなら、エネルギー消費量の占める「中等度以上の身体活動」の割合が高いほど、心臓血管系疾患を発症するリスクは低くなっていました。例えば、「14分間のんびり歩く」のと「7分間早歩きする」のでは消費するエネルギー量は同じですが、心臓血管系疾患を発症するリスクは「7分間早歩き」の方が0.84倍に減少していたのです。

つまり「時間をかける」よりも「短い時間でもしんどい行動を選ぶ(運動強度を上げる)」方が、心臓血管系疾患の予防には効果的だと言うことです。

さあ「運動時間」を十分に取れないあなた。その分を「運動強度」で補いましょう。歩く時は早歩き。エスカレーターより階段。平らな回り道より上り坂の近道――。身の回りを見回せばいくらでも、運動強度を上げる方法は見つかるはずです。

ただし無理は禁物。少しずつ、明日から日常生活内の運動強度を上げていきましょう?健康長寿への第一歩です。

今回ご紹介した論文の要約(英語)は出版社サイトで無料閲覧できます。無料翻訳サイトのDeeplを使えば簡単に日本語にも直せますよ。

心臓血管系疾患については「たまには逆の腕でも測ってみませんか?『片腕だけではちょっと足りない』家庭血圧測定」という記事も書いています。左右腕の血圧の差が一定以上になると心臓血管系疾患に気をつけた方が良いという内容です。ぜひご覧ください!。

【本記事は最新の医学論文について、一般の人にもわかるように解説した記事です。論文や研究結果の内容はあくまでも引用論文筆者の見解です。論者によっては解釈が異なる可能性も否定できません。あくまでもご自身の見解形成上、ご参考までにお読みください】

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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