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忙しい人向け血圧低下法。ハンドグリップ運動習慣化で血圧が5〜7mmHg低下【最新エビデンス】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

高血圧は血管の壁を傷めつけ、正常な血液の流れを妨げる

血圧、測ってますか?家で測って「上は135以上、下が85以上」なら「高血圧」です。

高血圧を放置するとご存知の通り、脳卒中や心筋梗塞など、血管が破れたり詰まったりして発症する「心(臓)血管(系)疾患」の危険性が高まります。64歳未満の日本人なら「心血管疾患」で亡くなる危険性が「正常血圧」の人に比べ約3倍にまで跳ね上がることも、観察研究から分かっています [日本高血圧学会ガイドライン 5P] 。

当然かもしれません。「血圧」とは血液が血管の壁にかける圧力です。高血圧が放置され、長きにわたり圧力をかけ続けられた壁は当然ですが傷つきます。その結果、破れやすくなったり詰まりやすくなったりしても無理はありません。

血管壁には血液が凝固を防ぐ物質を血中に放出する機能があるが、高い血圧で痛めつけられるとこの機能が低下。普通なら固まらないような状況でも血液が固まってしまう。

高血圧治療の王道は生活習慣の改善

だから「血圧を下げよう」という話になるのですが、高血圧治療の王道は「生活習慣の改善」です。「薬」はそれでもダメだった場合の対症療法に過ぎません。そして改善すべき生活習慣のメインは「食事」と「運動」そして「禁煙」です。

とは言え、これが難しい。特に運動は先のガイドラインを見ると「軽強度の有酸素運動(動的および静的 筋肉負荷運動)を毎日30 分,または週180 分以上行う」と書かれています。これ、実行できますか?

「あ、無理。」と諦めました?そんなあなたに朗報です。「ハンドグリップ運動(握力トレーニング)」の習慣をつければ有酸素運動なしでも血圧が下げられる、そんな嬉しい研究成果が11月15日(2022年)、高血圧専門の論文誌に掲載されました。「ジャーナル・オブ・ヒューマン・ハイパーテンション」という学術誌で、あのネイチャーが出しています。概要をご紹介しましょう。

信頼性が最も高い「ランダム化試験のメタ解析」

今回報告されたのは「メタ解析」と呼ばれる、過去の臨床研究データを併合解析した結果です。今回の解析対象は、ハンドグリップが高血圧患者の血圧に与える影響を調べた、9つの「ランダム化比較試験」です。

ランダム化比較試験:治療の効果を調べるため、その治療をする群としない群に参加者を「くじ引  き」で振り分け(ランダム化)して比べる試験。どちらかの群が有利/不利になるような振り分けができないため、結果の信頼性は高い。「ランダム化比較試験」を「メタ解析」すると信頼性はさらに高まる。

ハンドグリップ運動習慣で血圧が5〜7近く低下

メタ解析の結果は、

  • 単回のハンドグリップ運動は血圧に影響を与えず。
  • 週2回以上のハンドグリップ運動を4週間以上継続で、上の血圧は6.7mmHg、下も4.5mmHg低下

することが分かりました(ハンドグリップ運動をしなかった群との比較)。ハンドグリップ運動1回では血圧を下げられないけれど、少なくとも週2回行う習慣をつけて1ヶ月以上続ければ、血圧は上が7近く、下も5近く下がるという結果です。この数字は降圧薬を飲んだ時の下がり方に引けを取りません。

この程度の運動なら仕事で忙しい日々を送っていても十分可能でしょう。ハンドグリップはバネ式のV字型器具だけでなく、ラバー製品もありますね。気軽に始められそうです。

今回ご紹介した論文の要約(英語)は出版社ウェブサイトで無料公開されています。無料翻訳サイトDeeplにコピペすれば日本語への翻訳も簡単です。

なお高血圧については、以下の記事も書いています。世に流布する "俗論" を検証してみました。ぜひお読みください!

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、論文や研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」の見解です。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成のご参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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