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メタボ男性必見。ロカボ食でED改善。男性ホルモンも増加【ちょっと意外な最新論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

かつて「死の四重奏」と呼ばれていたメタボ

「メタボリック・シンドローム」(メタボ)。2005年に政府が採用したこの言葉も、すっかり日常に溶け込んでいるようです。

でも「メタボ」って何でしたっけ?簡単に復習しましょう。厚労省「eヘルスネット」によれば「腹部肥満+血圧・血糖・脂質の2つ以上が異常」という状態です。血圧や血糖、脂質そのものは異常値まで上がっていなくても、肥満が基礎にあってこれらが軽度上昇していると、心筋梗塞や脳卒中など脳心血管系重大疾患の危険性が高まる [文末文献1] ため提唱された概念です。「死の四重奏」とか「シンドロームX」などという名前で呼ばれていた時期もありました。こちらの方が怖いですよね。

さてこのメタボ。「シンドローム」(症候群)というくらいですからいろいろな症候(病的変化)が現れるのですが、そのなかで案外見逃されているのが、「ED」(勃起不全)なのです

メタボ男性ではEDが2倍増。男性ホルモンも減っているかも。

「え?メタボでED?」と驚かれるかもしれませんね。でも男性ホルモン濃度の低い男性にはメタボが多いのも事実。男性ホルモン濃度の高低で3群に分けると、濃度が一番低い群では最も高い群に比べ、メタボである確率が3.6倍も高くなっていました。北欧男性2000名弱を観察した研究結果です [文末文献2] 。

さらに、メタボ男性では非メタボに比べEDの人が2倍に増えているという研究も、イタリアから報告されています [文末文献3] 。

「最近ちょっと・・・(汗)」という男性は、自分がメタボ気味でないか見直した方が良いかもしれません。

ロカボ食によるED改善を実証

でも朗報です。

このメタボに伴うEDは、炭水化物制限(ロカボ)食を続けるだけで改善できるかもしれません。2月2日に学術誌「BMC内分泌障害」に掲載された論文をご紹介しましょう [文献4] 。著者はリオグランデ・ド・スル大学(ブラジル)のCaio da Silva Schmitt博士たちです。

検討対象とされたのは、男性ホルモン低下が認められたメタボの人たちです。6割がEDでした。ただし人数は18人。「臨床研究」と呼ぶには少ない気もしますが、新型コロナ禍のためこれ以上の患者さんを集められなかったとSchmitt博士らは釈明しています。

これら18人はロカボ食*群と通常食群に割り振られ、その食事を3カ月続けました。割り振りにはくじ引き類似の「ランダム化」という方法が使われました。「ランダム化比較試験」は割り振りに人為性が入らない(片方だけを有利にできない)ため、医学研究として質が高いとされています。人数は少ないという問題はありますが、試験方法としてはしっかりしていると考えて良いでしょう。

ロカボ食:1日摂取エネルギーに占める炭水化物の割合を25〜30%に制限。摂取全エネルギー量は「通常食」と同じに設定。

その結果、3カ月後、ED重症度の指標である「国際勃起機能スコア(IIEF-5)」[ED診療ガイドライン] 38頁] は、「ロカボ食」群でのみ改善されていました。「通常食」群では変化なしです。

同様に男性ホルモンの血中濃度も、3カ月後に上昇していたのは「ロカボ食」群だけでした。

まとめ

このように食事に占める炭水化物の割合を25〜30%に制限して3カ月間過ごすと、男性ホルモンは増え、EDも改善するという結果でした。試してみる価値はあると思いませんか?

ただしこの論文ではなぜロカボ食がそのような改善をもたらしたのか、その点については残念ながら考察していません。でも「結果オーライ」で問題ありませんよね。

いかがでしたか?メタボがもたらす意外な悪影響と、その対策について医学論文からご紹介しました。ご紹介した論文はすべて要約を無料で読めます(全文無料の論文もあり)。英語で書かれていますが無料翻訳サイトDeeplを使えば簡単に日本語に直せますよ。

今回ご紹介した論文(リンクはすべて米国国立医学図書館 [無料])

  1. メタボがあると脳心血管系重大疾患の危険性が高まる(久山町研究)
  2. 男性ホルモン濃度の低い男性にはメタボが多い
  3. メタボ男性ではEDが2倍
  4. ロカボ食でED改善

なおEDについては「尿酸低下薬に勃起不全リスクの差?」という論文紹介記事も書いています。こちらも是非お読みください!

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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