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「お通じのつらさ」薬に頼りすぎていませんか?常用で「ボケ」のリスク50%上昇の可能性【最新情報】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

「お腹の薬」で認知症リスクが増加?

食事中だったらごめんなさい。便秘薬のお話です。

女性では「お通じ」に困って、薬を使われている方も多いと思います。体に負担を感じない薬も増えてきたので「手放せない」という人もいるのではないでしょうか?でも便秘薬の常用は、将来の認知症リスクを上げるかもしれません。そんな、ちょっと聞きたくないような話が、「神経学*」という学術誌に2月22日付で掲載されました [文献1] 。英国ケンブリッジ大学で研究中のZhirong Yang氏らによる論文をご紹介します。

*「神経学」:米国神経学会が発行している学術誌。一般論として信頼性は高い。

常用者では認知症発症率が3倍に

今回の解析対象となったのは、イギリス在住で認知症の診断歴のなかった50万人。UKバイオバンクと呼ばれる、自主参加型の観察研究データベースから抽出しました。

すると50万人の0.4%が、10年間のうちに認知症を発症していました。250人に1人の割合です。

そして便秘薬を「常用」しているとこの認知症の発生率は「常用していない」人たちの3倍以上の高値となっていたのです。

認知症の発症は便秘薬以外にも、年齢や性別、受けてきた教育、認知症に影響を及ぼし得る疾患や常用薬、さらに認知症家族の有無などに影響を受けます。そこでこれらの影響を統計学的に除去して比較してみたのですが、やはり、便秘薬常用で認知症を発症するリスクは相対的に51%高くなっていました(1.51倍)

マグネシウム製剤などでリスクが高い

さらに便秘薬「常用」内でも認知症リスクに差がある可能性が明らかになりました。

1つ目は常用する「数」。1種類しか常用していなければ認知症になるリスクは1.3倍ですが、2種類以上を常用していると1.9倍にまで跳ね上がっていました。

もう1つは「種類」。一種類の便秘薬しか使っていない人たちを比較した結果、「浸透圧下剤*」と呼ばれる種類の便秘薬を常用していた人たちでは、それ以外の便秘薬常用者に比べ認知症発症リスクが相対的に64%も高くなっていました(1.64倍)

 *浸透圧下剤:便を柔らかくする薬。一般的に「お腹が痛くないにくい」とされており広く使われている。「マグネシウム製剤」や「糖類下剤」など。

腸内細菌への悪影響が脳に作用?

もちろんこの研究だけでは、便秘薬が認知症を引き起こしているのかどうかは分かりません。便秘薬を常用するような人たちに共通する「何か」が、認知症リスクを上昇させている可能性も否定できないからです。

しかしSha博士らは便秘薬そのものが認知症リスクを引き上げている可能性も指摘しています。「便秘薬が腸内細菌叢(そう)に悪影響を与え、腸内で生成された何らかの毒性物質が脳に悪影響を与える」という仮説です。

「腸内細菌叢」とは腸の中の約1000種類、100兆個にも及ぶ細菌の群。互いに密接な関係を持ち、複雑にバランスをとることにより全身の健康維持を助けています(厚生労働省「e-ヘルスネット」)。これまでの研究でも認知症の人たちでは、腸内細菌叢のバランス崩壊に起因すると考えられる炎症惹起物質の血中増加が確認され、この炎症が認知症リスクの一因ではないかと推測されています [文献2]。

まずは生活習慣を変えよう

そのためSha博士は薬に頼りすぎることなく、生活習慣改善による便秘予防を試みるべきではないかと説いています。

では「便秘を防ぐ生活習慣」とは?

厚生労働省「e-ヘルスネット」によれば、「朝食の摂取」が「体内リズムを整え、胃や腸を刺激し、排便反射を促しやすく」するため、「朝食後にトイレに座る習慣をつけると排便習慣が整えられやすくな」るそうです。加えて十分な水分や食物繊維の摂取が重要なのは、言うまでもありません。

まとめ

いかがでしたか?

安易に便秘薬に頼りすぎると、後々認知症になるリスクが高まるかもしれないという論文でした。やはりできるだけ薬に頼らず、自分の体が本来持つ力を最大限引き出してあげるのが良さそうです。

とは言え「朝は忙しくてゆっくりトイレに入っている時間はない!」という人も多いかもしれません。そういう方は20分だけ早起きしてみませんか?試してみると分かりますが「朝の20分」は非常に充実した時間を与えてくれます。ぜひ、お試しください。

今回ご紹介した論文はすべて無料で、要約が公開されています。英語論文ですが無料翻訳サイトDeeplを使えば簡単に日本語にも直せます。

なお認知症については「ボケたくなければこれを食べよう!認知機能・記憶力が良い人の食生活が判明」、「ボケたくなければ『脂肪肝』にも要注意。酒好き以外も必読の最新医学エビデンス」という論文紹介記事も書いています。こちらもお読みください!

ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 便秘薬常用で認知症発症リスクが高まる [出版社ウェブサイト]
  2. 認知症患者では、腸内細菌叢のバランス崩壊に起因する可能性のある血中有害物質濃度が高値 [米国国立医学図書館ウェブサイト]

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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