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話題の「GLP-1ダイエット」。薬を使わず同じ作用を期待できる食べ順がこれ!【蔵出し医学論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

食べる順序を変えるだけでGLP-1ダイエットと同じ作用が期待できる

肥満症に対する治療薬として「GLP-1受容体作動薬」である注射薬のウゴービ(有効成分名:セマグルチド)が保険で使えるようになりました。ただし保険が効くのはBMI(体重/身長の2乗)が「35kg/m2以上」、または「27kg/m2以上」で肥満に関連する健康障害を伴う人だけです(ウゴービ添付文書)。要するに「病的な肥満」だけということですね。体重が気になるフツーの人は対象外です。

「ならばGLP-1受容体作動薬を自由診療で」と考えたくもなりますが、GLP-1受容体作動薬はもともと血糖低下薬です。「薬」と言うくらいですから当然副作用もあります

重大な副作用」としては「低血糖(頻度不明)」「急性膵炎(0.1%)」「胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸(いずれも頻度不明)」、「その他の副作用」として「頭痛(5%以上)」「浮動性めまい、味覚不全(1~5%未満)」「脱毛症(1~5%未満)」「不眠症(0.5~1%未満)」などが添付文書には記されています。

ですからGLP-1受容体作動薬を使わずに痩せられれば、それに越したことはありません。

そこで今回ご紹介するのは、食事の順番を工夫するだけでGLP-1受容体作動薬を使ったGLP-1ダイエットと同様の作用が期待できるというお話です。根拠になっているのは関西電力病院の桑田仁司先生たちが2016年に「糖尿病学(Diabetologia)」で報告した研究です。この学術誌は欧州糖尿病学会が発行しており、信頼性は高いと考えられています。

なせGLP-1で痩せるのか?

その前に簡単に復習します。なぜGLP-1受容体作動薬で痩せるのでしょう?最大の理由は「早く満腹感を感じる」からだと考えられています。

GLP-1は食事をすると小腸から分泌されるホルモンです。当初その働きとして「インスリン分泌促進」が注目されましたが、のちに「脳の満腹中枢刺激作用」を持つことが明らかになりました。食欲を止めてくれるのです。なのでGLP-1受容体作動薬を打つと、GLP-1が分泌されたのと同様、この作用が期待できるのです。

さらにGLP-1は食べ物が胃から腸に移動するのを遅らせます。言い換えるなら「胃が張りやすく」なります。これも「もう食べるのをやめよう」と思わせるのに役立ちそうです。

このようにGLP-1ダイエットは頭と胃袋の「満腹感」を早めて摂食量を減らし、その結果、体重が減少するのです。

肉から食べ始めるとGLP-1が増える

さてここからが本題です。先にご紹介した桑田先生たちの研究から「肉を先に食べるとGLP-1の分泌が増える」ことが明らかになっています。簡単にご紹介させてください。

先生たちは健康な10人を対象に、朝ごはんを食べる順番別に「米→魚」、「魚→米」、「肉→米」の3つのグループに分け、日替わりで全員に3通りの朝食を経験してもらいました。

その結果「肉→米」朝食後は「米→魚」に比べ、食事後のGLP-1血中濃度が2倍以上高くなっていました。GLP-1受容体作動薬を打たなくとも、それだけGLP-1を増やせたのです。

一方「魚→米」でも「米→魚」よりGLP-1濃度は高くなっていました。ただし統計学的に「偶然」の可能性を否定できなかったため、「米→魚」に比べ本当にGLP-1が増えるかどうかは不明です。ただし「魚→米」でも胃袋から腸への食物の移動時間は、「米→魚」に比べおよそ2倍に増えていました(胃の張りが持続)。なのでご飯を先に食べるよりも満腹感は早期に得られたはずです

事実この病院では、糖尿病の食事指導として「肉、魚先行」食事法を勧めた結果、(早く満腹になり)病院食を残すようになった患者さんまで現れたそうです。食事順工夫によるGLP-1ダイエットの実力がうかがわせるエピソードです。

まとめ

食事の際、肉から先に食べるとGLP-1というホルモン分泌が増えて早く満腹を感じ、食事量が減る(≒痩せられる)という医学情報のご紹介でした。

とは言え外食の肉は味付けの濃いものも多いのが現実。どうしても喉が渇いてご飯が欲しくなります。そういう場合にはご飯の代わりに野菜で乗り切りましょう。野菜に豊富に含まれる繊維質は腸からの栄養吸収を遅らせて、体重増加を防ぐと考えられているので一石二鳥ではないでしょうか?

食べる順番を変えるだけで減量。こんな簡単なダイエット、試さない手はありませんよ!

なお食事については、以下のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひご覧ください。ではまた!

今回ご紹介した論文

肉から食べるとGLP-1分泌が増える(米国国立医学図書館)

(英語論文ですが無料翻訳サイトDeeplを使えば簡単に日本語に直せます)

【注意】本記事は医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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