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なぜうつ伏せ寝はなくならない?保育現場の現状から見えてくる3つの原因について保育士が徹底解説

ぽん先生保育士

こんにちは!ぽん先生です。
「少しでも楽しく子育てを!」をモットーに、子育てや育児に関する情報の発信を行っている保育士です。

ここ数日、東京都世田谷区の認可外保育施設で亡くなってしまった生後4ヶ月の男の子の事故について、多く目にする機会があったと思います。
保育園では行政による厳しい監査や日々の通達が行われているにもかかわらず、どうして同じような悲しい事故が繰り返されてしまうのかと、疑問を持つ方は少なくありません。
そういった事故がしばしば起こってしまう裏側には、一体どんな要因があるのでしょうか。
今回は保育園で未だになくならない子どものうつ伏せ寝と保育園の在り方から見えてくるその原因について解説していきたいと思います。
※私自身が保育園でのうつ伏せ寝を容認する記事ではありません。

保護者の知らない保育現場

1 子どもが起きることによる業務への影響

保育園において0歳児は、保育士1人で3人の子どもを見るように配置人数が決められています。
例えば、12人の子どもがいる0歳児クラスがあれば、保育士は4人です。
保育士は子どもたちの昼寝時間に休憩へ行きますが、それでは保育士が2人しかいない時間に子どもが泣き出してしまってはどうでしょうか?
1人の子が泣けば、当然他の子もその泣き声を聞いて泣き出すでしょう。
あちらこちらで子どもたちが泣き始める中、保育士2人でなんとか対応しなくてはなりません。
ちなみに、子どもの昼寝時間以外は保育を行うため、昼寝時間では保育士の休憩や食事に加えて以下のような業務に当たっています。

・子どもの寝かしつけ
・起きてしまった子を別室で保育
・保育日誌(その日の保育の記録)の作成
・連絡帳の作成
・週案、月案(子ども1人ずつのその週、その月のねらいや活動内容を細かく記入)の作成
・手紙等の配布物を作成
・制作活動の準備、掲示
・職員同士の打ち合わせ(職員会議、行事、係、クラスなど)
・5分に1回の午睡チェック(1人ずつ顔色や呼吸の有無を確認)

このように、子ども以外の業務だけでも、昼寝中にこれだけの量をこなしていく必要があります。
しかし、1人の子が泣くだけで、デスクワークができなくなる以前に、子どもの対応すら人手が足りていないような状況に陥ってしまうのです。
「休憩は1人ずつ取るようにしたら良いじゃないか」と感じると思いますが、当然そんなことをしていては保育士の休憩時間が子どもの昼寝中に収まりません。
そんな中で、うつ伏せ寝の子を仰向けに寝かすとどうでしょうか。
子どもが泣き出してしまうことも少なくありません。
子どもの対応に追われて残った仕事は残業となることはもちろん、泣いている子の対応中は他の子どもたちの顔色や呼吸の有無を確認することが十分にできなくなってしまう可能性もあります。

2 行政による対応の不十分さ

保育現場での事故がニュースになると、同様の事故を防止するために行政は決まって通達を出します。
ところが、この通達は日々の業務に加えて次々に仕事を増やしていく形でしかありません。
例えば、「チェックリストを作成し、確認した項目にチェックを入れ、確認者のサインを書く」といったものが最も多い例ではないでしょうか。
確認したことを記録として残せるという点ではチェックリストが有用である一方で、タスクが増え、子どもから目を離す時間が増えることも考えなくてはなりません。


また、場合によっては現実的でないこともあります。
例えば、2023年の9月には岡山県で2歳児の子どもを保育園へ送り忘れ、祖母が車内で放置死させてしまったとして保育園の出欠確認の責任が問われました。
このすぐ後、ある市区町村では

・連絡のない欠席に対してはすぐに連絡を入れること
・安全のため保育中は子どもたちから絶対に目を離さないこと

というような通達が出されました。
どうでしょうか?
この2つは矛盾していると同時に、配置人数に余裕のない保育士がどのようにして保護者へ連絡ができるのでしょうか?
連絡を入れる間、一瞬でも保育室を離れれば配置人数が足りていないことになります。
このように、行政としては根本的な問題から目を背け、どんどんタスクを増やす形で通達を出すことが当たり前になってしまっています。
このような中で、果たして本当に子どもたちを安全を守ることはできるのでしょうか?

3 保育士の配置人数

先ほどご説明した通り、例えば12人の子どもがいる0歳児クラスがあれば、担任の保育士は4人です。
本来であれば保育士がもう1人か2人いてもらいたいところですが、それができる保育園はかなり少ないでしょう。
人手不足に加え、補助金で経営が成り立つ保育園は、配置人数以上の賃金を支払う余裕がないのが現状です。
特に社会福祉法人などは一般企業のように利潤追求が目的でないため、保育園が独自に保育士の配置人数を増やすことがどうしても難しい現状があります。
また、保育業界では未だにサービス残業を耳にする機会が多くありますが、どれだけ業務時間を増やしても収益には至らないため、残業代を払えないという法人側の正直なところもあるのではないでしょうか。

いま私たちにできること

ここまで3つの原因について解説してきましたが、決して私自身がうつ伏せ寝を許容するわけではないことを皆様には再度ここで明確に伝えておきます。
実際に事故のあった東京都世田谷区の認可外保育施設では、業務上過失致死の責任が問われています。
ただ、保育現場の現状を見ると、そういう事故がいつ起きてもおかしくないというのが正直な想いであり、これらがうつ伏せ寝や置き去り事件、子どものケガなどの原因の1つになっていることは言うまでもありません。
2015年から2022年までに起きた保育施設での死亡事故では、6割以上が昼寝中による事故だと言われています。
子どもの事故を防ぐには、保育士の人数を増やすことで根本的に解決する必要があるのではないでしょうか。
子どもたちの命が脅かされかねない現状を変えるために、保育園の利用者である保護者の方々からも声をあげていただけると嬉しいです。

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保育士

東京都で働く保育士。「少しでも楽しい子育てを!」をモットーに活動中。

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