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冬季は列車が一本も停まらない!? 風前の灯火の冬季休止駅 奥羽本線 津軽湯の沢駅(青森県平川市)

清水要鉄道ライター

冬季には列車が一本も停車しない「冬季休止駅」。積雪量の多い北海道や東北では除雪費用の削減を狙って設定されてきたが、その多くは通年で利用が見込めない駅であり、数年間の冬季休止を経て駅ごと廃止という道を辿った。現存する冬季休止駅は4つ。いずれも東北地方にある。奥羽本線の板谷駅、大沢駅(山形県)と津軽湯の沢駅(青森県)と弘南鉄道弘南線の田んぼアート駅(青森県)だ。このうちイベントアクセス駅としての役割がメインの田んぼアート駅を除く3駅は、いつ廃止になってもおかしくない風前の灯火状態である。

駅舎
駅舎

JR東日本の現存する冬季休止駅のうち、冬季休止になってからの歴史が一番長いのが青森県と秋田県の県境近くにある津軽湯の沢駅だ。冬季休止となったのは平成30(2018)年12月1日からで、それ以来の5年間、12月1日から3月31日までの4か月間は列車が停車していない。

時刻表
時刻表

逆に4月1日から11月30日までは列車が停車するわけだが、元々列車の本数が少ない県境区間だけあって、2時間以上列車が来ない時間帯もある。とはいえ、東北にはもっと本数が少ない路線も数多くあるので、東北の秘境駅の中では訪問難易度は低い方だ。

駅名標
駅名標

「津軽湯の沢」という駅名から連想されるのは温泉の存在だ。駅近くにはかつて津軽湯の沢温泉という温泉があり、秘湯として知る人ぞ知る存在であった。津軽湯の沢温泉は3軒の旅館が近年まで営業していたが、湯の沢山荘、なりや温泉が相次いで廃業。最後まで残った秋元温泉も平成24(2012)年9月末で400年近い歴史に幕を下ろしている。「津軽湯の沢」は消えた温泉の存在を今に伝える駅名と言ってもいいかもしれない。

駅舎内
駅舎内

屋根が緑色に塗られた駅舎は昭和45(1970)年11月5日の移転時に建てられたもので、築53年。無人化は翌年の昭和46(1971)年10月1日だから、有人駅時代の駅舎のはずだが、駅舎内に駅員がいた時代の面影を見出すことは難しい。無人化を一年後に控えた時期の改築だけあって、無人駅として使うことを想定した造りにしていたのだろうか。

駅遠景
駅遠景

駅から見える範囲に人家はなく、駅前の橋で湯の沢川を渡って坂を上ると集落が見えてくる。集落まではそれほど離れていないが、地形に遮られている都合で秘境駅のような雰囲気だ。複線化に伴う線路付け替えで昭和45(1970)年11月5日に移転するまでは集落の中に駅があった。移転前の旧駅が開業したのは昭和24(1949)年6月1日。旧駅は移転によりわずか21年5カ月で役目を終えており、短命だった。一方、移転後の現在の駅はあと2ヶ月で53年目を迎える。

ホームへの通路
ホームへの通路

ホームは駅舎よりも高い築堤上にあり、大館・秋田方面1番線へは地下通路手前の階段で、弘前・青森方面2番線へは地下通路を通ってその先の階段で結ばれている。ホームや通路も移転時に造られたもので、同時代に建設された公団建設線の駅などと似た雰囲気を感じる。

ホーム
ホーム

ホームは相対式で、ホーム上にはコンクリートの待合室が向かい合うように建っている。駅舎内と2つの待合室を合わせればかなりのスペースがあり、多くの乗客が列車を待つことができそうだが、利用者の少ない現状では待合室が埋まることはまずないだろう。

ホームから見た駅前
ホームから見た駅前

ホームからの風景もひたすら緑に溢れている。自然豊かな駅と言えば聞こえはいいが、ここまで人の気配がないと、廃止もそう遠くないのではないかと心配になる。津軽湯の沢駅より以前に冬季休止となった只見線 田子倉駅(平成13年12月1日以降冬季休止、平成24年10月1日通年休止、平成25年3月16日廃止)、山田線 大志田駅・浅岸駅(平成25年1月1日以降冬季休止、平成28年3月26日廃止)、北上線 平石駅・矢美津駅(平成28年12月1日以降冬季休止、令和4年3月12日廃止)の5駅はいずれも数年を経て廃止の道を辿っており、津軽湯の沢駅もいずれはこれらの駅の後を追うことであろう。

ホームから見た駅舎
ホームから見た駅舎

津軽湯の沢駅の今年の営業は例年通り11月30日まで。来春のダイヤ改正でも生き延びることができれば来年4月1日には営業を再開するが、そうでなければ列車が来ないまま廃止の日を迎えることになる。津軽湯の沢駅は無事に次の春を迎えることができるだろうか。

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鉄道ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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