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『北の国から』『鉄道員』の舞台 4月1日で部分廃止となる根室本線(富良野~新得間)

清水要鉄道ライター
代行バス駅への乗換駅 東鹿越

来たる4月1日、根室本線の富良野~新得間が廃止となる。根室本線は滝川と根室を結ぶ総延長443.8キロの幹線だが、この区間の廃止により滝川~富良野間と新得~根室間の二つに分断される予定だ。とはいえ、石勝線の開通によって道央と道東を結ぶ大動脈としての使命は40年以上前に終えており、近年は利用者の少ないローカル線の一つに過ぎなかった。

そんな区間の息の根を止めることになったのが平成28(2016)年8月31日の台風10号である。被害が軽微であった富良野~東鹿越間は10月17日に営業を再開したものの、土砂流入などの大きな被害を受けた東鹿越~新得間は代行バスとなり、二度と列車が走ることはなかった。

経営状況の厳しいJR北海道としては利用者の少ないこの線区の復旧に多額の費用を投じるわけにもいかず、沿線自治体との間で存廃をめぐる協議が続けられた結果、令和4(2022)年1月28日に沿線自治体が廃止を容認。令和5(2023)年3月31日には廃止届が提出され、富良野~新得間は約120年に渡る長い歴史に幕を下ろすことになった。

富良野駅(富良野市)
富良野駅(富良野市)

廃止予定区間の起点とも言うべき富良野駅は「北海道のへそ」富良野市の代表駅だ。滝川からの根室本線と旭川からの富良野線の接続駅で、地元住民だけでなく国内外からの観光客で賑わいを見せている。そんな駅からひっそりと出ている「東鹿越行き」が今回廃止となる区間を走る列車である。本数は極めて少ないが、最後のダイヤ改正で一往復だけ増発され、「お名残り乗車」の需要に応える。

4月からスイッチバックの終着駅に!廃止予定区間の起点 根室本線・富良野線 富良野駅(北海道富良野市)

布部駅(富良野市)
布部駅(富良野市)

富良野を出るとほどなく市街地が途切れ、田園地帯を走って最初の駅・布部(ぬのべ)に着く。この駅は昭和56(1981)年に放送されたフジテレビ系列の大ヒットドラマ『北の国から』の初回に登場したいわゆる「聖地」で、多くの作品ファンが訪れている。駅舎は昭和2(1927)年12月26日開業時に建てられた築96年の古いものだ。

【4月1日廃止】北の国から此処に始る 人気ドラマに登場した駅舎 根室本線 布部駅(北海道富良野市)

山部駅(富良野市)
山部駅(富良野市)

空知川を渡ってまたしばらく走り、大きな集落に入ると山部(やまべ)駅だ。富良野市への合併前は空知郡山部町という独立した町だったところで、札幌農学校(のちの北海道大学)が開拓したいわゆる「大学村」である。ログハウス風の駅舎だけでなく、隣に残る旧駅舎の一部や煉瓦造りランプ小屋も忘れずに見ておきたい。

【4月1日廃止】大学村に建つ山小屋風駅舎と隣に残る旧駅舎の一部 根室本線 山部駅(北海道富良野市)

下金山駅(空知郡南富良野町)
下金山駅(空知郡南富良野町)

山部を出るとほどなく両側から山が迫ってきて、富良野盆地ともお別れだ。空知川沿いの谷を抜け、また開けてくると下金山駅。ここからは南富良野町だ。東大演習林から森林軌道で積み出された木材の搬出拠点として賑わった駅だが、これまで見てきた駅と比べると駅前の集落も小さく、閑散とした雰囲気だ。

【4月1日廃止】東大演習林からの積み出しで栄えた駅 根室本線 下金山駅(北海道空知郡南富良野町)

金山駅(空知郡南富良野町)
金山駅(空知郡南富良野町)

空知川沿いの谷をさらに遡ると金山駅に着く。全国に3つある金山駅の中で最も古い駅で、かつて砂金が採れていたことがその名の由来だ。昭和9(1934)年10月に建てられた築89年の古い木造駅舎が現役で、山間の交換駅らしい雰囲気だ。ランプ小屋には国鉄闘争の際に書かれた文字が残っている。

【4月1日廃止】山間の交換駅に残る国鉄闘争の名残 根室本線 金山駅(北海道空知郡南富良野町)

東鹿越駅(空知郡南富良野町)
東鹿越駅(空知郡南富良野町)

金山から先の区間は金山ダム建設に伴って昭和41(1966)年9月29日に線路が切り替えられた。次の鹿越駅はダムの底に沈み、新線上に代替の信号場が設けられたものの、こちらも廃止になってから長い時を経ている。その東に後から開業した東鹿越駅は代行バスとの乗換駅だ。石灰石鉱山からの積み出しで賑わった駅だが、集落が湖底に沈んだことから周辺に人家は少ない。一度廃止候補となり、代行バスへの乗換駅として廃止を免れたものの、ついに82年の歴史に幕を下ろす。

ダムに沈んだ旧駅と未舗装道の先の廃駅 根室本線 鹿越仮乗降場(北海道空知郡南富良野町)

【4月1日廃止】廃止候補だったのに乗換駅として命拾い!?根室本線 東鹿越駅(北海道空知郡南富良野町)

幾寅駅(空知郡南富良野町)
幾寅駅(空知郡南富良野町)

代行バスに乗り換えてかなやま湖畔をしばらく走り、また開けてくると幾寅(いくとら)駅だ。空知郡南富良野町の中心部に位置し、昭和8(1933)年6月に建てられた木造駅舎が残っている。この駅舎は高倉健さん主演の映画『鉄道員(ぽっぽや)』に「幌舞(ほろまい)駅」として登場。本名の「幾寅」よりも芸名の「幌舞」の方が大きく目立つところに掲げられている。代行バスの一部は幾寅駅の少し先、南富良野高校入口でも停車して通学生に便宜を図っている。

【4月1日廃止】映画『鉄道員』に登場した木造駅舎 根室本線 幾寅駅【前編】(北海道空知郡南富良野町)

【4月1日廃止】高倉健さん『鉄道員』の幌舞駅 根室本線 幾寅駅【後編】(北海道空知郡南富良野町)

落合駅(空知郡南富良野町)
落合駅(空知郡南富良野町)

幾寅からさらに空知川沿いを遡り、狩勝峠を前にしたどん詰まりのようなところにあるのが落合駅だ。シーソラプチ川とルウオマンソラプチ川が合流して空知川になるところにあることから「落合」の名が付いた。落合から先の旧線は「日本三大車窓」として名高い狩勝峠を越える区間であったが、昭和41(1966)年9月30日に新線に切り替えられている。国道38号を走る代行バスは新線よりも旧線に近いルートを取り、狩勝峠から十勝平野を見下ろす車窓は美しい。

【4月1日廃止】列車が来ない駅と自然に還る線路 根室本線 落合駅(北海道空知郡南富良野町)

新得駅(上川郡新得町)
新得駅(上川郡新得町)

新線は上落合信号場で石勝線と合流し、十勝平野に下って新得駅に到着する。上落合(信)~新得間は石勝線との重複区間なので、今後も石勝線として存続する区間だ。代行バスも新得駅前に到着し、廃止予定区間の旅もここで終わりである。

ここから先の根室本線は石勝線と一体となった運行形態で、札幌と帯広・釧路を結ぶ特急も、石勝線と根室本線が同じ路線であるかのように新得駅を通り過ぎていく。富良野~新得間が幹線だった時代も今や歴史の彼方だ。

狩勝峠を控えた十勝の西の玄関口 根室本線・石勝線 新得駅(北海道上川郡新得町)

廃止まであと半月となった根室本線富良野~新得間。お名残り乗車での混雑が予想されるが、くれぐれもマナーを守った上で最後の乗車を楽しもう。

鉄道ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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