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「六月二十六日」の石碑と廃ホーム越しに望む柴山湾 山陰本線 柴山駅(兵庫県美方郡香美町)

清水要鉄道ライター
柴山駅

日本海から入り込んだ柴山湾の奥に位置し、湾口にある臼ヶ浦島のおかげで外海の影響を受けにくいことから古くより天然の良港として知られた港町・柴山(しばやま)。江戸時代には北前船などの寄港地で幕府の丹生柴山御番所が置かれる海上交通の要所だった。現在は松葉ガニの水揚げ港だけでなく香住温泉郷の一つ・柴山温泉でも知られ、10軒近い旅館が立ち並んでいる。そんな柴山の玄関口が湾を見下ろす高台にある柴山駅だ。

駅舎内
駅舎内

柴山駅は戦後の昭和22(1947)年6月26日開業。開業時に建てられた木造駅舎が長年使用されてきたが、建て替え工事のため平成30(2018)年11月6日に役目を終えてその後解体された。新駅舎は令和元(2019)年8月30日より工事が始まり、令和2(2020)年1月に完成。旧駅舎と比べるとかなり小さく簡素なものとなったが、寒冷地らしく待合室は締め切り可能だ。

ホーム
ホーム

ホームは1面1線の棒線駅だが、かつては相対式ホーム2面2線の交換可能駅だった。2番線が使用停止となって閉鎖されたのは平成13(2001)年3月3日のことで、実に23年も前のことだが、なぜか線路は撤去されずに残されている。

ホーム
ホーム

緩くカーブしたホームは2両のディーゼルカーだと持て余してしまうくらいに長く、文字通り「本線」だった山陰本線の歴史を感じさせてくれる。かつては特急「はまかぜ」が臨時停車することもあったそうだ。

廃ホームと柴山湾
廃ホームと柴山湾

廃止された2番線越しには柴山の家並みと柴山湾が見える。湾の奥に位置するため海は穏やかで、風待ち港として栄えた歴史もわかるというものだ。

開業記念碑
開業記念碑

ホーム上には柴山駅の開業した日「六月二十六日」が刻まれた石碑がある。戦後開業の柴山駅だが、駅の設置を求める声は明治末期に当地に鉄道が通ったころからあり、地元住民は30年以上もの間、駅の開業を待ち望んでいた。転機が訪れたのは終戦直後の食糧危機の頃のこと。柴山で豊富に水揚げされる海産物を食糧不足の都会に運ぶために仮駅が設置されることになったのだ。

ホームの先、奥に見えるのが貨物ホーム跡
ホームの先、奥に見えるのが貨物ホーム跡

この時設置されたのが、現在も駅構内の隅に残る貨物ホームで、本線から分岐する側線が設けられていた。旅客扱いも行われ「仮乗降場」のようなものだったと思われるが、戦後の資材不足の時期ゆえに正式な駅としての要件を満たすものを建設できずに、ひとまず仮駅からとなったのだろう。

駅の設置にあたっては、日本初の私立幼稚園の設立で知られる教育者・岸辺福雄も尽力していた。開業記念碑に「六月二十六日」と日付だけが刻まれているのは岸辺の発案で、「昭和22年6月26日は過去の一日に過ぎないが、6月26日は毎年巡ってくる。日付だけ刻むことによって疑問に思った者が調べて知ってくれればいい」との考えによるものだそうだ。由緒を長々と刻むのではなく、石碑を見た人が自主的に調べるよう促すという考え方は教育者らしい発想と言えよう。

交換設備が無くなり、駅舎も小さくなってしまった柴山駅だが、これからも「六月二十六日」の石碑がこの駅の歴史を伝えていくことだろう。

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鉄道ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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