とんがり屋根がシンボルだった2代目駅舎 南阿蘇鉄道高森線 高森駅【後編】(熊本県阿蘇郡高森町)
平成28(2016)年4月14日の熊本地震で大きな被害を受け、令和5(2023)年7月15日に全線運転再開を果たした南阿蘇鉄道高森線。その終点で、路線名の由来となったのが、阿蘇郡高森町の玄関口である高森駅だ。前編では現在の駅の様子をお伝えしたが、後編では旧駅舎時代の様子と駅の歴史をお届けする。
高森駅は昭和3(1928)年2月12日、立野から伸びてきた宮地線支線の終点として開業。宮地線支線は同年12月2日の豊肥本線全通と共に独立して「高森線」を名乗るようになった。高森線は宮崎県の三田井(高千穂)を経て延岡までの延伸が計画されていたものの、戦争により工事は中断した。戦後、工事は鉄道建設公団によって再開され、高千穂まで開業していた宮崎県側の高千穂線と結ばれる予定であったが、異常出水により再び中断。国鉄再建法もあって工事は凍結され、完成の日の目を見ることはなかった。ちなみに、異常出水により放棄された高森トンネルは「高森湧水トンネル」として一般公開されている。
繋がることのなかった高森線と高千穂線はそれぞれ南阿蘇鉄道と高千穂鉄道(のちに台風被害で廃止)として再出発した。南阿蘇鉄道は昭和61(1986)年4月1日に国鉄高森線を引き継いで開業、本社は高森駅に置かれた。昭和62(1987)年4月6日に2代目駅舎が完成、とんがり屋根を持つログハウス風の個性的な駅舎で、遠くからでも目立つことから、すぐに街のシンボルになった。
とんがり屋根の部分は吹き抜けで、真下には土産物売り場があった。明るく清潔な雰囲気の3代目駅舎と比べると雑然とした雰囲気だが、今見返してみるとこれはこれでローカル駅らしい好ましい風景だったと思える。
暗くなりがちなログハウス風駅舎に外の光を採りこんでいた吹き抜け。個性あふれるデザインだっただけに解体が惜しまれる2代目駅舎だが、木造で特殊な構造ゆえに維持も大変だったのだろうか。
令和2(2020)年12月8日の訪問当時、駅舎の内外には復興を応援する寄せ書きが飾られていた。平成28(2016)年4月14日の熊本地震の後、南阿蘇鉄道は中松~高森間で7月31日より運行を再開したが、一日わずか3往復で、暫定的な復旧といった雰囲気だった。本格的な運行再開まではそれから7年も待つことになる。
2代目駅舎時代のホームは、現在芝生広場やラウンジ棟の建設が進んでいる位置にあった。植え込みや藤棚があるため、昭和末期~平成初期に造られた公園といった雰囲気だ。
別角度からの旧ホームも載せておこう。前編に載せた現在の写真と見比べるとその位置関係がわかるはずだ。
2代目駅舎に隣接する駐車場の隅には人気漫画「ONE PIECE」のキャラクター・フランキーの像が令和2(2020)年11月21日に建てられた。その後の駅改築でフランキー像のあった駐車場は3代目駅の用地となり、現在フランキー像が建っている場所は列車停車位置のすぐそばだ。改築で何もかもが変わってしまった高森駅で、フランキー像だけがそのままなので、新旧比較のいい目印になっている。
上写真は前編のサムネイル写真とほぼ同じ場所(駅に隣接する踏切)から撮影した。右にフランキー像が見えるが、その手前の木の柵が並んでいる辺りが現在のホームである。駅は大きく姿を変えたが、背景の阿蘇中岳だけは変わらぬ姿を見せている。
最後は2月12日で引退したMT-2003Aの写真で締めるとしよう。南阿蘇鉄道開業とともに導入されたMT-2003A(当初はMT-2003)は全線運転再開時の一番列車にも使用され、38年間走り続けた。上写真で充当されていたのは高森15時40分着の最終列車だ。背景のとんがり屋根の駅舎も今はないと考えると少し寂しくなるが、生まれ変わった高森駅はこれからも進化を続けて、地元住民からも観光客からも愛される駅であり続けることだろう。
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