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【戦時の献立】人造米まで考案。米への愛が強すぎる『とん肉とうどんのロースト』昭和15年6月16日

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もし戦時中に料理ブログがあったら?題して『戦時の献立』

戦時中の料理をレシピに忠実に作り、その味や調理方法をブログ風に伝える『戦時の献立』。
今日は昭和15年6月号の婦人倶楽部から、『豚肉とうどんのロースト』である。
豚肉のルビは『とんにく』と書かれている。

とん肉のローストなんて、なかなか豪勢じゃないか…まだ物資に余裕があったのか?などと思うが、分量は五人前で100匁(約380g)である。
一人当たり75gほどだから、決して十分な量ではない。

しかもこの献立はうどんの使い方に特徴がある。
先にお伝えしておくと、こまかーく刻んで、米のような感覚で食べさせようとしているのだ。

白米禁止で小麦製品の活用が広まる。さらに『人造米』が登場?

この頃はすでに白米が禁止されており、米は七分づきまでのものしか食べてはいけないことになっている。
長引く日中戦争で米の消費を抑えるため、政府がとった政策である。

白米禁止について詳しく知りたい方は『馬鈴薯めし』の記事で詳しく説明しているので、そちらをご覧いただきたい。

米がダメなら、とまず代用食として注目されたのが小麦粉や小麦粉で作られた食品である。
同じデンプン質であるところから、当時は“理想的な代用食品”として考えられていた。

確かにパンやうどん、スパゲッティは主食として米の代わりになるだろう。
とは言え、うどんを米みたいにして食べるというのは、いささか無理があるのではないか?
しかしこの当時、うどんと同じような方法で作る『人造米』なんて物も、婦人雑誌で紹介されている。

作り方はこうだ。

うどんを伸すのとすっかり同じ容量ですが、ただ塩はうどんの場合より少く、半分くらいにします。

メリケン粉を薄く伸してうどんのように細く切り、これをさらに短く短く、米粒のように刻むのです。

小さく切ったうどんは、くっつくようでしたら片栗粉を振りながら器に入れ、湯気の上がった蒸籠にかけてちょっと蒸します。

ほんの一吹きする程度に蒸し、ぶーっと吹いたらすぐ広げて天日に干します。真夏の陽なら二三時間、秋の陽でもからっとした日なら三四時間でからからになります。
(「主婦之友」昭和15年10月号より抜粋)

あとは御飯と同じ水加減、火加減で、同じように炊けば良いという。
これに酢を加えてにぎり寿司にしたり、カレーをかけてライスカレーにするのも良いそうだ。

なんとかしてうどんを米のようにして食べることはできないか…と様々な工夫がなされていたようである。
それだけ当時の人々にとって『米』の存在は大きかったのだろう。

という訳で『とん肉とうどんのロースト』である。
一体どんな作り方で、どんな味なのだろうか?

では、ここから先は昭和15年6月16日だと思ってご覧いただきたい

昭和15年6月16日、日曜日。丸一日晴れ。
じっとりと蒸し暑い。
肉でも食べて、体力をつけるべし。
家内の婦人雑誌をみると経済料理の特集がしこたま載っている。その中に「とん肉とうどんのロースト」という献立を見つけた。
はて、ロースト?
辞書を引いてみると、肉などを蒸し焼きにしたりあぶったりすること、と書かれている。
ただ焼いた肉と蒸し焼きにした肉で、どれほど違いがあるのか。
はなはだ興味深いし、それをうどんと一緒に食おうというのも面白い。
夕めしはとん肉とうどんのローストに決まりである。

材料(5人前)

  • とん肉 100匁(約380g)
  • うどん玉 1玉
  • 胡椒、塩、バタ、トマトケチャップ 適宜

まずは肉の下準備から。では、こしらえよう。

とん肉は5人前で100匁。
塊肉ならビフテキのように切って使おう。まずはスジ切りをしておく。

スジ切りはチョンチョンチョンと包丁を入れる程度ではいけない。
しっかり、ザックリと切れ目を入れるべし。
おまじないじゃないのだから、これくらいしなければ無意味なり。

塩と胡椒で味をつけたら、しばらく置いておく。

次は問題のうどん。一寸に切る!

うどんは一玉。
うどん玉がないときは乾麺を使っても良いそうだ。その場合は茹でてから使おう。
これを一寸(3cm)ほどに切る。

「一寸」と書かれると、長さを揃えたくなるが、やたらと手にくっついて骨が折れるナァ。
ちょっと大雑把に切っちゃうか。ナァ?

一寸より長いものもあるが、致し方なし
一寸より長いものもあるが、致し方なし

まぁ大体、一寸ほどに切った。
きっとこれではのどごしもコシも台無し。
うどんもカタなし、であるナァ。

とん肉をローストし、うどんを炒める。

フライパンにバターを溶かし、とん肉を入れ、丼や皿でピッタリと蓋をする。

焦げ目がついたら豚肉を裏返して、再び蓋をし、さらに焼こう。

蓋をしているからすぐに火が通る
蓋をしているからすぐに火が通る

なんともうまそうに焼けているナァ。
ここで残った肉汁と油は拭き取ってはいけない。

このままうどんを炒める。

こうすることで、炒め油を節約にもなるし、うどんに豚肉の旨味をまとわせることができる。
しかし、細かく切らずに炒めて焼きうどんにした方が間違いない気がするナァ。これも米の代わりにするためである。

ちょっと米っぽい?
ちょっと米っぽい?

炒めているうちになんとなく焼き飯に見えてきたのは、私がおかしいだろうか?

炒めたら、とん肉とうどんを皿に盛り、トマトケチャップを上からかければ出来上がりである。

「ケチャップをかけて出来上がり」
「ケチャップをかけて出来上がり」

とん肉とうどんのローストの完成なり。

うどんが滅法界多いが、致し方なし
うどんが滅法界多いが、致し方なし

ではいただきます。

これはうまい。存分にやれる!
しかし味に特徴があるかと聞かれると、そんなことはない。塩とトマトケチャップ味である。
正直、蒸し焼きにしたからと言って格別にうまいかどうかはわからない。

ちなみに家内はというと、とん肉がパサついていないからうまいと言う。これは蒸し焼きにしたおかげではないかとのこと。

切ったら肉汁があふれた
切ったら肉汁があふれた

言われてみれば、確かにとん肉がいつもよりしっとりとしている気もするナァ。
私みたいな日曜料理人はなかなか気づかないが、日頃から料理をしている家内はこういうことに良く気がつくらし。

一方、うどんはどうか?

炒める時に塩を振っていないので、うっすらととん肉の塩気がついている。
よく考えたら、ケチャップはうどんにかけろ、ということなのかもしれない。
献立には『ケチャップをかけて出来上がり』としか書いていないから、てっきりとん肉にかけるのかと思ったが、おそらくこっちだ。

トマトケチャップをからめて食べると、焼き飯というよりチキンライスのように感じられる。

うん、確かにこれはチキンライスだ。
そう、チキンライス…ライス…

なんてことを考えていると突然、家内がスパケテナポリタンに似ているなどと言った。
台無しである。
人がせっかくライスの気分でいるのに、ナポリタンなものか。
しかし、言われてみればスパケテナポリタンに似ている気がする。
(スパケテナポリタンについては後に載せた動画をご覧いただきたい)

細かく切っても、やっぱりうどんは麺…

苦労して刻んでも、結局うどんはうどん。麺は麺であった。
しかし、とん肉の旨味をとことん吸っているので十分やれる。
これをおかずに飯を食いたいというのが本音である。
節米の献立で、米への思いが一層つのるとは困ったものなり。
ごちそうさま。またうまい物を作ろうと思う。

動画も楽しんで頂けると有難し!スパケテナポリタンもある由

とん肉とうどんのローストの作り方はこちら。

スパケテナポリタンはこちら。なんと昭和12年にナポリタンがあった!?

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映像をつくる人

左利きの映像製作者。気分転換は料理です。「左利き」とGoogle翻訳に入力してみたところ「Sake Drinker」と出てきたため、それに日々の記録という意味での「Diary」を足しました。お酒は好きですが、浴びるほどは飲みません。

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