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【戦時中の珍レシピ】うどんでおにぎり?真珠湾攻撃直前の節米料理(昭和15年11月の戦時の献立)

Sake Drinker Diary映像をつくる人

もし戦時中に料理ブログがあったら?題して『戦時の献立』

今日の献立は昭和15年11月号の主婦之友から「にぎりうどん」である。

『にぎりうどん…??字面からすでに怪しい…』

そう思う人もいるだろう。
一体どんな料理なのか、先にネタバラシすると、うどんをお米のようにして、おにぎりを作るという献立である。

『…いや、何を言ってるのかよくわからない』

そう思う人もいるだろう。
気になる作り方は後ほどお伝えするので、最後までお付き合いいただけると有り難い。

そもそもなぜ、うどんをおにぎりにしたいのか?節米のためである。
この「戦時の献立」でもお伝えしてきたように、当時の日本人は一人当たり1日に米を3合も食べていた。
そんな中で日中戦争は泥沼化しているし、アメリカやイギリスとも敵対関係になりつつあったし、日本としては米を節約して、できるだけ長く戦いを続けられるようにしたかった。

当時の婦人雑誌もそうした政府の考えに沿って、節米料理や米の代わりになる代用食の献立をこぞって掲載していた。この昭和15年11月号の主婦之友では、献立の冒頭にこんな言葉が載っている。

お米ばかりが主食だといふ考へはさらりと捨てて(中略)代用食や節米の国民保健食をどしどし召しあがってくださいませ
(「主婦之友」昭和15年11月号より)

1日3合も食べていたのが、急にパン食に移行するのは難しかっただろう。しかしなんとかして、米以外のものに気持ちを向けさせなければならない。
そこで、うどんの見た目をご飯のようにして、おにぎりにする「にぎりうどん」が紹介されたようだ。

昭和15年11月の出来事。外国文化の排除が激化…国民服も登場

昭和15年11月から日本ではこのようなことが変わった。

  • 東京のダンスホール閉鎖…ダンスは敵国の娯楽であるとして閉鎖した。のちに全国に広がる。
  • タバコの銘柄を改称…英語名を使用していたタバコ銘柄は、日本語に改めた。
  • 国民服が決定…国民服が法制化され、男性はこれを戦時下の標準服として着ることが推奨された。

国民服に関しては「写真週報」(当時の政府の広報写真誌)にも詳しく載っている。記事のタイトルは「國民服がきまりました」。

「写真週報」昭和15年11月13日号
「写真週報」昭和15年11月13日号

上着、中間着、ズボンなど個別のデザインについて詳しく書かれている。さらに拡大して見よう。

「写真週報」昭和15年11月13日号
「写真週報」昭和15年11月13日号

上段の甲号は一般民間人向け。下段の乙号は青少年向けだという。
どちらも色は軍服と同じカーキ。作りは簡素で、生地は丈夫。
さらに、ネクタイを締めずに冠婚葬祭の礼装として着用しても、失礼ではないとされた。まさに物資不足の戦時下にぴったりの服装である。

ズボンの裾は動きやすいさを考慮して、開閉できるように工夫されている
ズボンの裾は動きやすいさを考慮して、開閉できるように工夫されている

なぜこうした国民服が決められたのか?
欧米の服飾文化のマネばかりしていてはダメだという考えや、軍服代わりになるものを普段から着ていればいざという時に便利だという考えからだ。
今は国家総力戦なのだから、国民全員、弾雨の下にいるという心構えが必要だと書かれている。

ただし法制化されたからといって、国民全員が一斉に国民服を着なさいということではなかったようだ。いま手元にある洋服は活用しながら、服を新調する際は国民服を仕立てなさいよという風に書かれている。
なんだ、結構柔軟な対応なんだなと思うかもしれない。しかし実際は、皆一斉に国民服を仕立てたら物資も人手もそちらに取られて、軍需物資が作れなくなるからだ。
ちなみにこの国民服は男性用。女性用の「婦人標準服」は2年後の昭和17年に決定されることになる。

というわけで、真珠湾攻撃まであと一ヶ月と迫った頃の「にぎりうどん」である。いったいどんな作り方で、どんな味なのだろうか?

ではここから先は、昭和15年11月3日だと思ってご覧いただきたい。

昭和15年11月3日、日曜日。晴れ。
朝、軒下の寒暖計は12度であった。雲少なく、暖かく、過ごしやすい。
今日も家内に代わって夕飯を作る。献立は「にぎりうどん」なり。
ちょっと御飯のように見えるうどんのおにぎりです、とのこと。
相変わらず家内の婦人雑誌は節米のことばかり。変わり映えしない。これには閉口気味である。

しかし身の回りでは、あれこれ変わった。国民服に煙草の名前。
国民服はとにかく軍服じみていてよろしくない。
煙草は私はやらないが、馴染みのある名前が変わるのはやや寂しい。チェリーは「桜」に、バットは「金鵄(きんし)」になった。
桜はわかる。しかし「金鵄」は納得できない。「ゴールデンバット」の直訳だから、本来ならば「金蝙蝠(きんこうもり)」にすべきである。しかし「きんこうもり」は不恰好で語呂が悪い。
では「金蝙蝠(きんへんぷく)」か。それこそ、へんてこなり。苦肉の策で金鵄に落ち着いたと思われる。
いや、しかし待てよ。そもそも「煙草(タバコ)」という言葉は良いのか?
どう言い換える?「けむりくさ」?
草…

では、こしらえよう。

【材料 5人前】
うどん(うどん玉なら8玉)
小麦粉 コップ1杯
卵 1個
黒胡麻

まずは柔らかく茹でたうどんを用意する。うどん玉を使うなら5人前で8玉を用意し、熱湯をかけるだけで良いそうだ。
干しうどんの場合は…分量が書かれていない。
とりあえず家内と私で、いつも食っているくらいの量を茹でてみた。

これくらいの量の干しうどんを茹でてみた。
これくらいの量の干しうどんを茹でてみた。

そうしたらこれを二分(約6mm)ほどの長さに刻む。
以前、とん肉のローストを作った時にうどんを細かく切ったのだが、これがしこたま苦労した。
しかしあの時は一寸(約3cm)。今回はそれよりはるかに短い二分…途中で投げ出したくなるのは目に見えているが、頑張るべし!

そう意気込んで切り始めたが…
うどんがグニュグニュ滑るし、切ったそばから包丁にべったりとくっつく。萎え包丁にくっつくのだから、言わずもがな、手にもくっつく。

もう手も包丁もうどんだらけだ
もう手も包丁もうどんだらけだ

滅法界厄介なうどんである。

全部刻んでみると案外多い…
家内と二人分にしてはやや多すぎたかナァ…まぁ良いか。
そうしたらここに、つなぎとしてメリケン粉をコップ1杯分と、卵1個を加え、よく混ぜる。

混ぜたら、いよいよ握りに入る。
うどんがつかないよう、手に水をつけつけして、俵形に握る。

やわらかくて握りづらい…
しかも俵形に握るのは初めてだ。私にとっては難易度が高いが…

どうだろう?なんだか可愛げのある見た目だナァ。
献立によるとこの中に塩鮭の焼いてほぐしたのや、ハム、奈良漬を入れるのも良いそうだ。

握ったら、あとは蒸すだけだ。

湯気の上がった蒸し器に入れ、芯まで火が通れば出来上がりである。ちなみに今回は25分ほど蒸した。

にぎりうどんの完成なり!

熱いうちに黒胡麻をぱらりと振りかけて、いただきます。

いただきます
いただきます

気になる味は…残念ながら飯とは程遠い。
あえて言うなら…うどんである。
まぁるい、ぼってりとした、ひとかたまりのうどんである。
なんだか、だまされたような気がするナァ。

いやしかし、待てよ。
これはあくまで、見た目を飯に似せているだけなのだ。
味も飯にそっくりであるというのは、私の勝手な思い込み。一人で勝手に期待して、一人で勝手に落胆するのは良くない。

そう自分に言い聞かせてもう一口食べてみたが、胡麻塩の味に、このモチャッとした食感が絶妙に合わない…

蒸し上がりのにぎりうどん
蒸し上がりのにぎりうどん

ちなみに一緒に食べた家内はというと、はんぺんみたいで案外おいしいとのこと。
はんぺん?
似ている…ような…似ていない…ような…

お供に薩摩芋の味噌汁も作っておいた。
お供に薩摩芋の味噌汁も作っておいた。

それにしても、薩摩芋の味噌汁がすこぶるうまい!
にぎりうどんのモチャッとした食感も、汁物があると食べやすい(流し込みやすい)。
今は腹がいっぱいになるだけ幸せなのである。

ごちそうさま。今度はうまい物を作りたいと思う。

動画も楽しんでいただけると有り難し!

四苦八苦しながら、うどんを二分に切る!その様子を動画でお楽しみください。

Sake Drinker Diary は毎週、戦時中にまつわる動画を配信しています。
動画に興味を持った方、なぜ Sake Drinker という名前なのか気になった方、Youtubeチャンネルを覗いて下さると有難し!
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映像をつくる人

左利きの映像製作者。気分転換は料理です。「左利き」とGoogle翻訳に入力してみたところ「Sake Drinker」と出てきたため、それに日々の記録という意味での「Diary」を足しました。お酒は好きですが、浴びるほどは飲みません。

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