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【戦時の献立】國民だけでなくウサギまで戦争協力?太平洋戦争直前の雑炊レシピ(昭和15年9月26日)

Sake Drinker Diary映像をつくる人

もし戦時中に料理ブログがあったら?題して『戦時の献立』

戦時中の料理をレシピ通りに作り、その味や調理法をブログ風に伝える「戦時の献立」。

今日は昭和15年9月号の婦人倶楽部から「ふはふは雑炊」である。
「ふはふは」と書いて「ふわふわ」と読む。
この時の婦人倶楽部は「美味しいお粥と雑炊の炊き方」と題して、20種類のレシピを掲載している。基本の白粥に茶粥・小豆粥・じゃがいも雑炊・大根雑炊など。
その中に、この「ふはふは雑炊」を見つけた。
そのネーミングの面白さと、一体何が「ふはふは」なのだろう?という興味から、この献立を選んだ次第である。

「ふはふは」するのは、簡単に言ってしまえば「米に小麦粉を混ぜるから」である。しかしなぜ小麦粉を混ぜるのか?

昭和15年9月の日本。国民だけでなくウサギも戦争協力?

小麦粉を混ぜれば、ただの雑炊よりも量が増えるし、満足できるからだ。節米のためのアイデアである。

前回と前々回の記事でもお伝えしたが、当時の日本はさらに戦争の長期化が見込まれていたから、政府は「服装」「結婚式」にも質素倹約を求めた。
しかし単に倹約したのでは、見すぼらしくなるだけだから、それを「新体制」と名づけた。戦時下の苦しい状況を、まるで明るい未来がやってくるかのようなイメージに仕立てたのである。

食も、服装も、冠婚葬祭も、あらゆる面で国民に戦争協力を強いた訳だが、当時の政府の広報誌である「写真週報」を読んでいるとこんな戦争協力まで登場していた。

「写真週報」昭和15年9月11日号より
「写真週報」昭和15年9月11日号より

記事のタイトルは「兵隊さんにウサギを育てて捧げましょう」。

上の画像の左上部分を拡大
上の画像の左上部分を拡大

観察力を養ったり、研究意欲を高めたりするために、当時もウサギの飼育を行う小学校はあったようだ。
しかし政府はこの記事を通して、より多くの学校で飼育することを求めた。

なぜなら、ウサギは戦地で大いに活用できるからだ。
乾燥肉や冷蔵肉は戦地に送られていたようだし、兵士が着る服にもウサギの毛皮が多く用いられていた。

「写真週報」昭和15年9月18日号より
「写真週報」昭和15年9月18日号より

戦闘機のパイロットの飛行服、帽子、手袋はウサギの皮が使われていた。

「写真週報」昭和15年9月18日号より
「写真週報」昭和15年9月18日号より

寒冷地で戦う兵士の帽子、防寒着などもウサギの皮だという。

政府は今後ますますウサギが必要になると考え、飼育を奨励したのだ。
さらにこの頃、軍兎祭(ぐんとさい)という物も行われるようになった。

来る九月十六日、兎にちなんだ明月の頃、事変勃発以来皇軍勇士に一身を捧げてきた可憐なウサギの慰霊祭を兼ね、今後一層全国的に兎の飼育を奨励する目的から帝国農会と道府県農会の主催で軍兎祭が盛大に行はれます。
(「写真週報」昭和15年9月11日号)

慰霊はしつつも、より一層ウサギに戦争協力してもらうための軍兎祭は、昭和15年9月16日に初めて行われた。
それから10日ほどだった9月27日には、日独伊三国同盟が調印され、日本は太平洋戦争へと突き進んでいくことになる。

そんな頃の「ふはふは雑炊」である。
一体どんな作り方で、どんな味なのだろうか?

ここから先は、昭和15年9月29日だと思ってご覧いただきたい

昭和15年9月29日、日曜日。
雨。北風が吹き、一気に冷え込む。
今日も家内に代わって夕飯を作る。
家内の婦人雑誌に目を通していると、ふはふは雑炊なるものを見つけた。

雑炊がふはふはするとは、珍妙なり。
急に冷え込んだせいか、くしゃみを連発していた家内も興味津々の様子。

よし、一体どれほどふわふわなのか、二人で確かめてやろう。そう思った次第である。

では、こしらえよう

【材料 5人前】
冷やご飯 茶碗6杯
小麦粉 60g
味噌 200g
出汁 2.2ℓ
野菜 適宜

まずは野菜から。これは好きなものを入れれば良いようだ。今日は葱に椎茸、にんじんを用意した。

鍋のにんじんと言えば、イチョウ切りが一般的であろうか。しかし私は短冊切りにする。
にんじんをイチョウ切りにすると、他の具材より小さくなってしまって釣り合いが取れないし、箸でつまみづらくてかなわない。

では、厚めのイチョウ切りにしたらどうかというと、煮えるまでに時間がかかるから、これまた具合が悪い。
そこでこの短冊切りが、鍋にはちょうど良いと思っている。

次に主役のふはふはである。
5人前で冷や飯をお茶碗に6杯と、メリケン粉を15匁(60g)。すり鉢に入れてつき潰す。

一人当たり冷や飯1杯ほどであるから、これで腹一杯になるなら節米の献立としては優秀であろう。
それにしても、餅米を入れていないのに良くくっつく。滅法界、厄介なり。

水をつけずにすりこぎを使ったのは失敗だった
水をつけずにすりこぎを使ったのは失敗だった

もしも作る場合は、すりこぎは水で濡らすべし。
あとは順番に具材を煮込む。

5人前で出汁は一升二合(2.2ℓ)。
野菜を入れて火にかけ、柔らかくなったら味噌50匁(200g)を加える。

一煮立ちしたところで、ふはふはを入れる。

飯が浮き上がる程度に煮えたら、頃合いである。

ふはふは雑炊の完成なり

では、いただきます。

味噌、出汁、野菜の旨味が飯にたっぷりと染み込んでいて、これはやれるゾ。
味はきりたんぽに近いが、きりたんぽよりも柔らかく、表面がトロリとしている。

肝心の食感は、ふはふはとはやや違う気がするナァ。
ふはふはともちもちの中間、といった所だろうか。
しっかりと出汁を吸うから、これなら外米の混ざった飯でもボソボソしない。
この間の卯の花ご飯よりも、こちらの方が外米にうってつけではないか。
家内も普通の雑炊より、食べ応えがあってうまいとのこと。体が芯から温まって、くしゃみも止まった様子なり。今夜はよく眠れそうである。

ごちそうさま。またうまい物を作ろうと思う。

動画も楽しんでいただけると有り難し!

作り方を動画で詳しく見たい方はこちらをどうぞ。

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映像をつくる人

左利きの映像製作者。気分転換は料理です。「左利き」とGoogle翻訳に入力してみたところ「Sake Drinker」と出てきたため、それに日々の記録という意味での「Diary」を足しました。お酒は好きですが、浴びるほどは飲みません。

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