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【戦時の献立】ドイツ軍の勢いにあやかって?ドイツ風ジャガイモ料理『農夫の朝食』昭和15年6月23日

Sake Drinker Diary映像をつくる人

もし戦時中に料理ブログがあったら?題して『戦時の献立』

戦時中の料理をレシピに忠実に作り、その味や調理方法をブログ風に伝える『戦時の献立』。
今日は昭和15年6月号の婦人之友から『農夫の朝食』である。

この時の婦人之友は『ドイツ風のじゃが芋料理』と題して、ジャガイモを使ったレシピを15種類も紹介している。
15種類…かなりの数だ。
しかし圧倒されることはない。記事はとっつきやすいように工夫されている。
丸茹でしたジャガイモから作るパターンと、粉ふき芋から作るパターン、そしてスープにするパターン。大きく分けて3種類から献立が選べるようになっているのだ。

丸茹でしたジャガイモなら『玉子黄身ソースのサラダ』や、今日の献立の『農夫の朝食』など。
粉ふき芋なら、ベーシックな『マッシュポテト』や、ホワイトソースを使った『ペシャメル・カルトフェル』など。
スープなら、牛肉や牛骨でつくったブイヨンを使った『ブリヨン・カルトフェル』や『ベーコンのスープ』など。
(ちなみにカルトフェルとは、ドイツ語でジャガイモのことである)

料理名にドイツ語そのままのものがあるというのも、ちょっと面白い。
それにしても何故、ジャガイモ料理ばかり15種類も掲載したのだろうか?

15種類もジャガイモ料理…ワケは当時の日本の台所事情にあった。

献立の記事はこんな話から始まる。

常食のやうにじゃが芋をよく食べるドイツでは、パンの代りに、付け合せ料理にスープにと、実に様々なじゃが芋料理を作ります。
コロッケやマッシュポテトはもう誰でも親しいお料理になってゐますが、(中略)この多種多様なお料理を取入れ更に工夫を加へれば、節米献立もよほど変化に富んだ面白いものになりませう。
<「婦人之友」昭和15年6月号より>

まずは主食としてジャガイモを食べれば、節米効果が期待できるからだ。

ただでさえ不足している米をまず前線の兵士たちに送り、銃後の国民(後方にいる一般国民)はできるだけ米を節約しなければならない。
しかし泥沼化している日中戦争に国民はストレスを感じていたし、当時の日本人は一人当たり1日に3合の米を食べていたし、ただ単に節米を呼びかけても限界があっただろう。(当時、日本人がどれだけ米好きだったかは『藤飯』の記事をご参照いただきたい)

そこで婦人雑誌が目をつけたのがドイツだったのではないだろうか。

欧州で猛威をふるうドイツ軍。彼らの主食はジャガイモ。

ドイツは昭和15年4月にノルウェーとデンマークに侵攻。それを皮切りに、5月にはオランダ・ベルギー・ルクセンブルクといった国々に攻め込んだ。
そして6月にはフランスを降伏させる。まさに疾風怒濤。

この勢いを、当時の日本政府の広報誌でもあった『写真週報』は細かく伝えている。

ドイツ軍が各国に進撃する様子を伝える「写真週報」昭和15年6月19日号
ドイツ軍が各国に進撃する様子を伝える「写真週報」昭和15年6月19日号

ドイツ軍の戦車隊の活躍を伝える「写真週報」昭和15年6月19日号
ドイツ軍の戦車隊の活躍を伝える「写真週報」昭和15年6月19日号

そんな強いドイツの料理を紹介すれば注目度は高いだろう。しかも彼らのエネルギー源がジャガイモであることがわかれば、国民も前向きに節米できるはず!
婦人雑誌の編集者はそんなことを考えたのではないだろうか。

うむ。確かに私がその頃の読者だったら「へぇ〜!」と感心してジャガイモ料理を作って、少なくとも何日間かは食べ続けたかもしれない…と思う。

というわけで、ドイツ風のジャガイモ料理『農夫の朝食』である。名前からは全く想像のつかない料理だが、一体どんな作り方で、どんな味なのだろうか?

◇ではここから先は、昭和15年6月23日だと思ってご覧いただきたい。

昭和15年6月23日、日曜日。晴れ。
今日も夕飯を作る。
家内の婦人雑誌から選んだのはバウエルン・フー…なんだって?
バウエルン・フユリーシュテイツク。
ドイツ料理なり。日本語にすると『農夫の朝食』らし。
ドイツではパンの代わりにじゃが芋を食うこともあるそうだが、あの疾風怒濤の勢いの源がじゃが芋とは意外である。
しかし現実にドイツはパリに無血入城し、フランスまでも降伏させた。
我々も、じゃが芋をたくさん食ってドイツのように…
などと思った訳ではない。
芋を食わねばならんからである。
もちろん、戦うなら疾風怒濤の勢いで勝ってほしい。
しかしそれは戦争が起きてしまったから、そう思うだけである。
負けるのが怖いから、そう思うだけである。
怖い思いなどせず、家内と夕飯が食えれば良いものを。
そんなことを考えていたら、芋が喉につまりかけた。

では、こしらえていこう。じゃが芋は丸茹でにしてから使う。

【材料】
じゃが芋、ベーコン、玉ねぎ、卵(1人あたり1個)、塩、胡椒

茹でたじゃが芋を薄切りにする。

丸茹でのじゃが芋はすべって切りづらい。気をつけるべし
丸茹でのじゃが芋はすべって切りづらい。気をつけるべし

次に玉ねぎはみじん切りに。

ベーコンは細かく切る。

ベーコン好きだから、やや多めにしてみた
ベーコン好きだから、やや多めにしてみた

切った材料を炒めるが、その順番が肝心!

まず炒めるのはベーコンから。

炒めているとベーコンの脂が溶け出してくるだろう。そうしたら玉ねぎを加え、さらに炒める。

玉ねぎに火が通ったら、じゃが芋を加えて炒めあわせ、塩を加える。

ベーコンから塩気が出るから、塩は味見をしながら加える。やや強めに効かせるのが良いと思う。
ベーコンから塩気が出るから、塩は味見をしながら加える。やや強めに効かせるのが良いと思う。

じゃが芋にうまそうな焦げ目がついた。

この焦げ目のついた段階で食卓に出すと『ブラート・カルトフェル』というらし。『ブラート』とは焼くという意味だそうだ。

『農夫の朝食』はここに、玉子を割り入れる。

先ほど、塩気を強めにと言ったのはこのため。玉子で少し塩が弱くなる。
先ほど、塩気を強めにと言ったのはこのため。玉子で少し塩が弱くなる。

あとは玉子に火が通るまで炒め、胡椒をちょっと効かせたら出来上がりである。

『農夫の朝食』の完成なり

いただきます!

熱々をやるのがうまい
熱々をやるのがうまい

これは存分にやれる!
塩胡椒だけだと物足りないのではないかと思ったが、そんなことはない。
ベーコンの旨味が玉ねぎにもじゃが芋にも染み込んでいてうまい。
それらを優しく一つにまとめ上げているのが玉子だ。
玉子が良い役割を演じている。

一気にたいらげてしまいそうだ
一気にたいらげてしまいそうだ

なんだ、こんなにうまくて節米になるなら、案外簡単じゃないか。

ごちそうさま。
家内も気に入ったようで、ぱくぱくと完食していた。
またうまい物を作ろうと思う。

最後に節米献立『農夫の朝食』について、令和のいま思うこと

今回材料として使っている玉子は、翌年の昭和16年に配給制になってしまう。
ベーコンの原料である豚肉も、太平洋戦争に突入するとほとんど手に入らなくなる。
結局はこの節米食も、一時しのぎでしかない。
しかし戦時中であっても『なんとか工夫してうまいものを食おう』という心意気が感じられる献立である。

動画も楽しんでいただけると有難し!

作り方を動画で見たいという方は1分間の短い動画でどうぞ。

Sake Drinker Diary では毎週、戦時中にまつわる動画を配信しています。
動画に興味を持った方、なぜ Sake Drinker という名前なのか気になった方、Youtubeチャンネルを覗いて下さると有難し!
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映像をつくる人

左利きの映像製作者。気分転換は料理です。「左利き」とGoogle翻訳に入力してみたところ「Sake Drinker」と出てきたため、それに日々の記録という意味での「Diary」を足しました。お酒は好きですが、浴びるほどは飲みません。

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