Yahoo!ニュース

あなたの「おつかれさまです」は大丈夫?正しい使い方と言い換えを考える

高橋亜理香日本語教師/日本語・日本酒ライター

お読みくださってありがとうございます!日本語教師の高橋亜理香です。

留学生は「『おつかれさまです』の使い方が難しい」とよく言います。例えば授業のあと、教師は学生に「おつかれさまでした」と言うのに、学生が教員に「おつかれさまでした」と言うと「はい、それアウトでーす!」と言われてしまうのですから、まあ当然といえば当然ですよね。

「おつかれさまです」の使い方は、結局どんなシーンで誰になら使っていいのか、日本人でも迷ってしまうもの。そんな意外と難しい「おつかれさま」について改めて考えてみましょう。

「おつかれさま」の表記について

まずは、使用する際に悩む表記について。

1.お疲れ様
2.お疲れさま
3.おつかれさま

と文字にすると3通りの表記があります。

「様」は本来、敬称として用いるものです。人の名前につけて「○○様」と敬意を示します。「おつかれさま」の「さま」はその意味を考えると敬称には当たりません。「様子」を表す「さま」であると考えられます。そのため、基本的に1は表記として適していないと考えたほうがいいように思います。

2と3については、個人的な好みにもよりますが、漢字はその意味をよく表してしまうので、高橋は「疲れ」はひらがなで表します。そのほうが相手に「疲れ」を感じさせないから、という理由です。

「おつかれさま」は言葉どおり、苦労を労うもの

あらゆる場面で気軽に使われ、メールなどにも多用される「おつかれさまです」というフレーズ。本来は、相手の苦労や疲れを労うための言葉です。そのため、四六時中乱用するのは不適切。明らかに疲れてはいないであろう場面で使用するのは適さないため、まずはいつでも使えるフレーズだという気持ちは改めたほうがよいでしょう。

では、疲れたときってどんなとき?というと、仕事、会議、勉強、試験…など、頭や体を使う作業のあとの労いと考えるのが自然です。

つまり、朝出勤するなり「おつかれさまでーす」なんていうのは、本来の使い方からは外れてしまっているのですね。

「ご苦労さま」は難しい…

同種のフレーズには「ご苦労さま」があります。

「おつかれさま」との使い方の違いは、おそらく多くの人がご存じですね。「『ご苦労さま』は、目上の者が目下の者を労う言葉だから、目上の人に使ってはいけません」と教えられたことのある人は多いのではないでしょうか。
「ご苦労さま」は、より上からの目線で発されるニュアンスがあるので使いにくく、高橋は基本的に誰に対しても使いません。特にコンプラやハラスメントに敏感な現代社会。困ったら使わない方が無難なフレーズかもしれません。

「おつかれさま」は目上OK…ただし注意が!

では「おつかれさまです」は目上の人に使ってもいい言葉なのでしょうか。

ここからが「おつかれさま」の大切なポイントです。

秘書検定などをはじめ、接遇・マナーに関する指導上は「『おつかれさまです』は目上に使ってもよい」とされています。

ですが、ひとつ注意!ここでいう「目上」というのは、「目上ならなんでもよい」という意味に解釈してはいけません。

実は「おつかれさま」の使い方には、多くの敬語と同じように「上下」のほかに「ウチソト」が関係します。

「おつかれさま」を使ってもよいのは、あくまで「ウチ=身内」です。同じ社内、同じ仕事上の身内の中では使えますが、外部の人に「おつかれさま」を使用するのは基本的にアウト

つまり「身内」といえる社内の上司に「おつかれさまです」は使えますが、取引先など外部の人に対しては上下問わず本来は使用に適しません。

冒頭で例に出した学校での挨拶に関しても、学生が教師に向かって「おつかれさまでした」というのは、学生側から考えると「同じ仕事をする身内」には当たりませんし、自分に指導する先生を労うのというのもおかしな話です。そのため上下関係なく「ダメ」ということです。ちなみに、留学生には「学校の先生は仕事の同僚や上司じゃないのでダメです。でもアルバイトのときなら、同僚や店長には『おつかれさまです』と言ってもOKです」と教えています。

「おつかれさまです」の言い換えを考えよう

「じゃあ取引先には、先生には、疲れていない場面には、何を使えばいいんだよ!」と悩んでしまうかもしれませんが、それは「おつかれさまです」を都合よく乱用しすぎたからであって、意外と置き換えできるフレーズは多いものです。いくつかの場面で言い換えを考えてみましょう。

1.「ありがとうございました」や「お先に失礼します」

取引先との仕事のあとで、面接や面談のあとに、学校の授業のあと先生に、宅配の配送員の人に…などの場面で置き換えやすいのは「ありがとうございました」です。

そのシーンによって、「本日は、お忙しい中ありがとうございました」「いつもありがとうございます」など適切なことばを付け足すとよいでしょう。

ビジネスの場面で退席する場合などは「それではお先に失礼いたします」なども置き換えとして使えるフレーズです。相手が先に退席する場合は「ありがとうございました」の他にも「また(明日、来週…)よろしくお願いいたします」などにも言い換えできるでしょう。

2.最初の挨拶は、時間の挨拶や「よろしくお願いします」

挨拶代わりに何でもかんでも「おつかれさまです」を使ってしまっていた人は、「おはようございます」や「こんにちは」といった時間帯による挨拶に置き換えたり、仕事の前には「本日は/も、よろしくお願いいたします」などと言い換えたりするといいでしょう。

相手が来てくれた場合などは「本日はお忙しい中ありがとうございます」などにも置き換えできるでしょう。

3.メールの冒頭なら「いつもお世話になっております」

取引先へのメールの挨拶なら「いつもお世話になっております」などに置き換えるとよいでしょう。また初めてのメールなど「いつもお世話に」はなっていない状態なら、ときによって「お忙しい中失礼いたします」「初めてご連絡いたします」などの言い換えを使ってもよいと思います。

4.その他の置き換え

身内の中でも「おつかれさま」を使わずとも表現できる場面がいくつもあります。

仕事を手伝ってもらったなら「いろいろ助けてくださって、ありがとうございます(上司へ)」や「とても助かりました、ありがとうございました(同僚へ)」といった置き換えができます。

何かを教えてもらった際は「ご指導ありがとうございました」や「大変、勉強になりました」などを使うこともできます。

「労い」が不適切なシーンもありますから、その際は「感謝」を表すなど前向きな言い換えをできるといいですね。

「おつかれさま」マシーンをやめて、心のこもった言葉を

今回は「おつかれさまです」について考えてみました。

「おつかれさま」ですべてをカバーしようとする「おつかれさま」マシーンは卒業して、その場面での気持ちがこもった言葉に言い換えてみると、語彙力や表現力のアップに繋がります。自身でもさまざまな置き換えフレーズを考えてみるといいかもしれません。

日本語教師/日本語・日本酒ライター

都内日本語学校の専任講師を経て、現在はフリーランスの日本語教師として留学生の日本語・進学指導やオンラインレッスンをしています。外国人の日本語学習を通して日本人の気づかない日本語を探究中。兼業で日本酒ライター・テイスターとして、父の故郷の秋田県をはじめとした日本酒の良さを伝えるお仕事もしています。保有資格:日本語教育能力検定試験、J.S.A.SAKE DIPLOMA、SSI日本酒学講師、SSI利酒師

高橋亜理香の最近の記事