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西城秀樹③「愛の園(AI NO SONO)」スティービーワンダー&坂本龍一&囁きヒデキの生命賛歌!

田中稲ライター(昭和歌謡・JPOP歌詞研究)

西城秀樹第3回は、32枚目のシングル「愛の園 (AI NO SONO)」(1980年)である。この異色作について、心の会議室に集まり、碇ゲンドウポーズを取りつつ語り合いたい――。

「愛の園(AI NO SONO)」というタイトルだけ見ると、ついついヒデキらしい、王道の恋愛ソングを想像してしまう。彼が愛する人に

「二人だけの楽園を作ろう。なにもなくていい。君がいれば! 君がいればーッ!」

と押せ押せ作戦をしている歌なのだろう(そして断られる歌なのだろう)――。
そう早合点しても誰も責められない。確か布施明さんの1968年のヒット曲にも、同タイトルの濃厚ラブソングがあったし。

しかし違った。子どもたちとともに歌う、人間愛、地球愛だった――。

激情パフォーマンスを封印

そもそもヒデキの真骨頂と言えば、煮えたぎる愛情を、躊躇なく愛する人にブフォーッと吐き出すようなゴジラ級の熱量とテンション。そして「もはや激情のヨーデル」とも言われている、すさまじく揺れるビブラート。掠れるセクシーボイス。

さらにリアルアンドレと称される奇跡のロングヘアを振り乱し、浮かべる恍惚の表情。誰かが横にいたらウッカリ殴ってしまいそうなほどの勢いで長い手足を振り回す、表現するパフォーマンス!

たとえバラードでも、これらの魅せどころ、聴かせどころは必ずあった。

しかし、「愛の園(AI NO SONO)」はこれらをほぼ封印! ヒデキが叫ばない! ビブラートを使わない! 踊らない! 一番大きい声を出すのは、「こもりうーたー♪」の部分だろうか。この「た」の部分で、いつものヒデキのセクシーなカスレ声がひょっこり顔を出す感じだが、それでも2割程度である。

その表情に切羽詰まった感はない。宙に浮く、私たちには見えない何かを見ている。そして美しい樹齢何百年の木のようにただただ立ち、やさしい微笑みを称えて歌うのである。

この静のヒデキ、物足りないどころか、威力がすさまじいのである! 

うまい例えが見つからず悔しいが、炎の神が悟りを開き、森の妖精をまとめる長になった感じといおうか。

とつとつと音符に声を置くような歌唱……いや、囁きと言った方がぴったりだろう。直立不動で囁くので、彼の美しさと声質の包容力がジワジワと溢れ出る。左右に動く激しいヒデキ歌唱は、彼のパッションにビンタされメロメロになるイメージだったが、この歌はヒデキスポンジからやさしさがジワジワ出て、心に「沁みる」!

ああ、守りたい……! ヒデキも、その後ろでコーラスをしてくれているチビッ子も、地球も守りたい! そう強く思ってしまう。澄んだ空気に抗えない、ある意味恐ろしい歌である。

長年ゴダイゴの作と思っていたらスティービー・ワンダーだった衝撃

実は昔は、ゴダイゴの作詞作曲と勝手に思い込んでいた。まさかスティービー・ワンダーのカバーだったとは……。

スティービー本人が日本語でつづった歌詞は、とてもていねいで、言葉の並びがまっすぐだ。原曲は2分ほどで、当時ロサンゼルスに住んでいた、日本の自動混声合唱団の子どもたちが歌っている。私は原曲を初めて聴いたとき、「風の谷のナウシカ」の、子どもたちが「ランランラララン……」と歌う「ナウシカレクリエム」を聴いたときと同じような、苦しい感動を覚えた。好き。でも苦しい。でも好き。超純粋の破壊力は凄まじい!

天才たちが音を輝かせた生命賛歌

この曲をヒデキがカバーする際、原曲に追詞をしたのは「太陽がくれた季節」や「聖母たちのララバイ」の作詞家、山川啓介さんだ。そして編曲がなんと坂本龍一さん。ビックリ! シンセサイザー・プログラミングは松武秀樹さん。 なんと、松武秀樹さんは名曲、藤村美樹さんの「夢・恋・人」も手掛けている方ではないか!

 そりゃ美しいわけである。天才たちが集まり、星のきらめき、花の美しさ、明日を思う心を音にした、生命賛歌だったのだ。

この曲を、どういう経緯でヒデキが歌うことになったのかはわからない。ただ、彼の持ち味であるエネルギーを爆発させるような歌唱のではなく、抑えて抑えて、愛しそうに、かみしめるように歌うその姿に、ああ、それでも彼が歌うべきだった曲だ。ぴったりだなあ、と思うのだ。

そしてやはり苦しくなる。大切に守りたい景色は、なんでこんなに儚く繊細なのだろう、と。

ライター(昭和歌謡・JPOP歌詞研究)

Webを中心に、昭和歌謡・JPOP、ドラマ、懐かしのアイドル、世代研究、紅白歌合戦を中心に書いています。CREA WEB「田中稲の勝手に再ブーム」、8760bypostseven「懐かしエンタメ古今東西」連載中。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)。合同会社オフィステイクオーのメンバーとして、雑学本の執筆にも参加。大阪ナニワにて活動中です。

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