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道庁主導で「交通崩壊」進める北海道の現実 有識者が国会で指摘「密室協議が全てを決める」

鉄道乗蔵鉄道ライター

 JR北海道の経営危機問題に端を発し、JR西日本やJR東日本のローカル線の赤字額の公表で全国に危機感が広がっているローカル線の存続問題。こうしたJR各社のローカル線の存続問題を受けて、国会では地域交通活性化再生法の改正に着手。「ローカル鉄道の再構築に関する仕組みを創設・拡充」することなどが盛り込まれている。

 鉄道を廃止した場合のバス路線は、鉄道の代替交通としては機能しないことは、2023年6月29日付記事(国会で明らかになったバス転換路線「利用者激減」の実態)でも指摘したとおりだか、2023年3月17日、衆議院の国土交通委員会で行われた参考人質疑では、北海道教育大学札幌校准教授の武田泉氏からJR北海道の路線廃止が進む北海道でのバス転換路線の実態や、北海道内の鉄道存廃協議会の問題点についての指摘がなされた。

鉄道廃止で交通崩壊が加速する北海道

 武田氏は参考人質疑の場で、「2021年に廃止された日高本線のケースでは、かつての拠点駅だった静内から転換バスに乗る乗客のほとんどは長くてもせいぜい隣町までの利用にとどまっており、鉄道が有した『広域性』や『ネットワーク性』が大きく損なわれることになった」ことを指摘。

 そもそも鉄道転換バスは、基本的に市町村の補助金を原資に運行されることから、補助金を負担する市町村の区域内だけで効率的にバス路線の運行がされればよく、市町村境を超えた広域的なバス路線の運行には消極的であることから、市町村境を超える乗客が少なければ、どんどん減便が進み、鉄道転換バスは、言わば「溶けて消え去るように」衰退の一途をたどることが通例となっているという。

旧静内駅からバスに乗る高校生(衆議院に提出された資料より/写真:武田泉)
旧静内駅からバスに乗る高校生(衆議院に提出された資料より/写真:武田泉)

旧静内駅のある新ひだか町内は混雑(衆議院に提出された資料より/写真:武田泉)
旧静内駅のある新ひだか町内は混雑(衆議院に提出された資料より/写真:武田泉)

新冠駅を過ぎて日高町との町境までに乗客はほとんど下車(衆議院に提出された資料より/写真:武田泉)
新冠駅を過ぎて日高町との町境までに乗客はほとんど下車(衆議院に提出された資料より/写真:武田泉)

 北海道内では、相次ぐ鉄道路線の廃止により、公共交通は衰退の一途をたどっている。近年、深刻化するバスドライバー不足の問題もあり、2023年に留萌―石狩沼田間が廃止された留萌本線では、鉄道廃止直後に沿岸バスは、鉄道の代替バスとされた留萌旭川線のバス路線の存廃協議を行っていることを公表。また、2019年に、当時の夕張市長だった現北海道知事の鈴木直道氏が「攻めの廃線」を実施した夕張においても、2023年10月に夕張市と札幌市を結ぶ広域路線が全廃されることが決まり、バス路線の持続可能性については、年々、厳しさを増している。

 北海道新幹線の並行在来線としてJR北海道から経営が分離される小樽―長万部間についても、輸送密度が2000人を超えている小樽―余市間も含めて廃止の方針が決定。沿線にバス路線網を展開する北海道中央バスは、バスドライバー不足を理由に鉄道転換バスの引き受けに難色を示しているにもかかわらず、道庁は鉄道廃止を強引に推進。北海道庁が主導して北海道の交通網を破壊しているといっても過言ではない状況だ。交通崩壊が加速すれば、拠点都市間の移動に片道数時間はかかる広大な北海道では、移動のため膨大な時間をのクルマの運転に拘束せざるを得なくなるケースが増え、道民の経済活動の更なる停滞を招くことになる。

2021年度「運転免許統計」より筆者作成。バス免許保有者の81%が50代以上だ。
2021年度「運転免許統計」より筆者作成。バス免許保有者の81%が50代以上だ。

住民を恫喝し道庁主導で交通破壊を進める北海道

 北海道で鉄道路線の存廃協議が進められるプロセスについて、武田氏は「事実上、北海道庁が主導する沿線自治体の密室の協議会で鉄道路線の廃止が決められている」と指摘。沿線自治体の首長は、鉄道の存続のためには沿線自治体の財政規模を超える財政負担を道庁から求められ、鉄道の廃止に同意させられるケースが相次いでいる。

 武田氏はさらに道庁が主導する密室協議は「交通に関する専門知識が欠如した状態で拙速な結論が出されていること」も問題視。テレビや新聞などの報道についても、ぶら下がり取材のみで協議会による「いわゆる大本営発表」をそのまま垂れ流す状況となっている。沿線住民はそういった「大本営発表」により、鉄道廃止の結果のみの後から知らされることになり、異論を唱える余地も与えられないのが北海道の実情だ。

 北海道新幹線の並行在来線後志ブロックのケースでは、道庁の交通企画監が座長を務める協議会の場において、ニセコ町長は「町の財政規模が50億円程度にも関わらず、鉄道存続のためには初期投資だけでも10億円以上が必要と迫られ鉄道廃止に同意させられた」ことを証言している他、行政側が主催した住民説明会に参加した沿線住民によると「鉄道を存続させると住民のみなさんの負担が増えることになる」と半ば住民を恫喝するような形で一方的な説明会が行われたと不満を漏らす。

 輸送密度が49人にもかかわらず上下分離により存続された福島県のJR只見線のケースでは、「活用次第では赤字額を上回る経済効果をもたらす」と鉄道がもたらす観光面での経済効果も十分に評価され、福島県が積極的な財政支援を表明。鉄道維持のための負担額は沿線自治体の財政規模に配慮したものとなっており、只見駅のある只見町は只見線維持のために負担する費用は年間1900万円程度だ。近年の鉄道の存廃議論ではこうした鉄道がもたらす外部経済効果まで踏み込んで評価がなされるのが通常だ。

道路整備に偏った北海道開発予算

 武田氏はこうした現状の打開を図るために年額5000億円を超える「北海道開発予算の活用」に言及。北海道開発予算は、約2000億円が毎年道路整備に投じられている他、港湾空港鉄道整備の名目で270億円が計上されているものの、このうち港湾整備に170億円が、空港整備に100億円が投じられ、鉄道整備に投じられる予算は実質的にゼロである。

 北海道の鉄道存廃議論では、道庁が「自治体間での不毛な赤字の押し付け合い」を主導し、議論が「費用の負担割合と経費削減の話だけに矮小化する」傾向が強く、北海道内の交通崩壊を加速させる結果となっており、鉄道の活用の可能性や経済効果の側面にまで踏み込んで存廃議論がなされる北海道外のケースとは大きく異なる。

 武田氏は、北海道内の鉄道の存廃議論については、国レベルの「地域交通活性化再生法」の改正とは全く関係なしに「道庁が主導する任意の協議会で一方的に鉄道の廃線が決定されることを問題」だとし、北海道開発予算の鉄道への活用も含め「鉄道とまちづくりを一体で議論し、鉄道活性化のための創意工夫を実現できるような制度設計と運用の改善が必要」と主張した。

 現在の北海道では、北海道と本州を結ぶ貨物列車による物流のメインルートである函館本線の長万部ー函館間の存廃議論までも進められている始末で、こうした路線までもが廃止されてしまうと、深刻化するトラックドライバー不足の問題からも、北海道の豊富な農水産物を国内の大消費地に出荷できなくなる恐れがあり、日本の食料危機を招きかねない。

衆議院に提出された資料には2017年度の北海道開発予算が記載されていた。項目はあるものの鉄道への予算は実質ゼロ(武田氏への取材を基に筆者作成)
衆議院に提出された資料には2017年度の北海道開発予算が記載されていた。項目はあるものの鉄道への予算は実質ゼロ(武田氏への取材を基に筆者作成)

▼衆議院インターネット審議中継
この時の質疑の様子は下記リンクの衆議院インターネット審議中継よりご覧になれます。
https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54442&media_type=
開会日:2023年3月17日 (金)
収録時間:2時間55分
会議名:国土交通委員会

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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