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電車利用者100%のバス利用転換を想定!? 高知市検討会が発表した驚きの提案内容

鉄道乗蔵鉄道ライター

「高知市地域交通公共交通ありかた検討会」は、利用者の減少や運転手不足などの課題を抱える公共交通の在り方について2022年から議論を進めており、このほど、その報告書を高知市長に提出した。

 しかし、その検討過程にある交通体系・費用分担の内容について「計算方法がずさんすぎる」ものがあると筆者のもとに情報提供があった。

電車利用者の100%または81.4%のバス利用転換を想定

 問題の記載があるのは「高知市地域交通のあり方検討会」のホームページに掲載された第2回会議「【資料3】地域交通のあり方にかかる検討について(交通体系・費用分担)」の20ページ掲載の下記資料。

鉄道廃止バス転換で通常生じる乗客逸走率が考慮されていない(資料:高知市地域交通のあり方検討会)
鉄道廃止バス転換で通常生じる乗客逸走率が考慮されていない(資料:高知市地域交通のあり方検討会)

 「路面電車から路線バスへの転換(例)」とされた資料では、バスの便数をそのままに、電車だけ廃止して、電車の乗客の100%または81.4%が黙ってバスに転換してくれると「黒字」または「収支均衡」になると主張されている。なお、電車のほうがバスよりも売上が大きく経費も少ないにもかかわらずだ。

 鉄道を廃止しバスに転換した場合、著しい客離れを招き、バスは鉄道の代替交通として機能しないことが2023年4月18日に行われた参議院の国土交通委員会で明らかにされたことは、2023年6月29日付記事(国会で明らかになったバス転換路線「利用者激減」の実態)でも触れた通りだが、大半の廃止路線では転換バス路線の利用者が鉄道時代の半分以下に落ち込んでいる。

バス転換後の乗客減少率(資料:筆者作成)
バス転換後の乗客減少率(資料:筆者作成)

 こうした傾向は、路面電車でも同様で、路面電車を廃止した際の乗客の転換率は30%~50%の間に収まることが大半だ。したがって、路面電車を廃止した場合に電車の乗客の100%または81.4%がバスに転換し「黒字」または「収支均衡」を図るというスキームは破綻していると言わざるを得ない。

 さらに、バスドライバーの状況については、警察庁が公開する2022年度版の運転免許統計では、路線バスを運転できる大型2種免許保有者の83.3%が50代以上となっており、バスとなった場合には、そのバス路線を維持し続けることについては年々厳しさを増している。一方で、鉄軌道業者の場合は、例えば、この8月に開業する宇都宮ライトレールでは運転士の募集に応募が殺到したなど、慢性的な人手不足に苦しむバス業界とは対照的だ。

北海道では交通崩壊が始まりつつある

 実際に、北海道ではバスドライバー不足などから交通崩壊が始まりつつある。2019年に石勝線夕張市線「攻めの廃線」を行った夕張市ではこの10月に夕張市から札幌方面を結ぶ夕鉄バスの広域路線が全廃に。2023年3月31日限りで廃止された留萌本線では、その翌月に鉄道と並行するバス路線を運行する沿岸バスがバス路線の存廃協議を行っていることを公表。さらに廃止の方針を決めた北海道新幹線「並行在来線」の長万部―小樽間についてもバス会社との協議は進んでいない。

(了)

サムネイル画像(Rsa - Rsaが後免町駅で撮影, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10650919による)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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