NASAも30年間未解決!探査機が謎の減速を遂げる「パイオニアアノマリー」とは?
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「30年間未解決だった謎、パイオニア・アノマリー」というテーマで動画をお送りしていきます。
●パイオニア・アノマリーとは?
パイオニア・アノマリーとは、1970年代に打ち上げられた探査機パイオニア10号や11号など、太陽系の外へと向かういくつかの探査機が、天王星の公転軌道(太陽から約20天文単位、約30億km)を超えたあたりから見られる、謎の減速のことです。
人類は、太陽を中心とした様々な太陽系天体からの重力的な効果などを踏まえ、探査機の軌道を正確に理解することができます。
つまり地球から見た探査機の現在の距離や方向を常に正確に認識することができ、探査機から送られる電波の到達時刻も正確に予想することが可能です。
ですがパイオニア10号をはじめとした幾つかの太陽系外縁部領域に突入した探査機は、予想よりもほんの少しだけ早く電波が到達するようになり、その誤差はどんどん大きくなっていくことが知られています。
電波の到達速度が想定より早まるということは、これらの探査機の距離は想定よりも地球からほんの少しだけ近いことを示しており、同時にこれは探査機が「謎の減速」をしていることを示しています。
この減速は、ドップラー効果によっても確かめられました。
ドップラー効果は私たちの日常でも身近な現象です。
例えば救急車のサイレンは、こちらに速く近付いている時ほど音波の波長が短く高い音に、こちらから速く遠ざかっているときほど音波の波長が長く低い音に聞こえます。
これと同様の現象は、音波と同じく波の性質を持つ、可視光や電波などの電磁波でも現れます。
パイオニアなどの探査機は地球から遠ざかっているため、そこから送られる電波の波長は従来よりも長く感じます。
人類は探査機の地球に対する後退速度も正確に把握しているため、ドップラー効果によってどれだけ従来より長い波長で観測されるのかも予想できます。
ですがパイオニアなどの探査機から送られてきた電波は、わずかながら予想よりも短い波長でやってきていました。
これは探査機の後退速度が予想よりも小さい、つまり「謎の減速」をしていることを示しています。
このような詳細な観測から、探査機にはその進行方向とは反対の方向、つまり地球や太陽がある方向に、地球の重力の約100億分の1という極めて微弱な力が働き続けていることが判明しました。
この力によって起こる速度変化は、10年間で時速1km程度で、この変化によって探査機には1年間で400kmという位置のずれが生じていました。
これは太陽系の広さや光の速さからすればわずかな誤差に過ぎませんが、科学で理解できていない何かしらの要因によってこのような現象が起きたとなれば、非常に大きな問題となります。
この問題が発覚した当初、様々な原因が考えられました。
例えば探査機からガス漏れが起きているなどといった探査機内部の事情から、探査機に抗力を与える未知の塵が太陽系外縁部に分布している説や、探査機に重力的な影響を及ぼす未知の太陽系惑星が存在する説などといった外的要因の説、さらには一般相対性理論に誤りがある、などというように、物理学が根本から覆るような大事であるとする説まで、本当に様々です。
●遂に判明した正確な原因
NASAの研究者たちは、謎の減速の原因を突き止めるため、1970年代から蓄積された実に43ギガバイト分に相当するパイオニアの運用データをかき集めました。
これは当時としては膨大な量のデータとなります。
謎の減速が見つかった当初、減速のペースは一定であったため、探査機外部からの不変的な影響が原因であるとする説が濃厚でした。
ですが発掘した運用データを調べていくと、次第に減速のペースが緩やかになっていることがわかりました。
これは減速方向に加わる力が次第に弱まっていることを示しています。
つまりこれは短期的な変化の少ない外的な要因ではなく、比較的寿命が短く変化の大きい、探査機内部の何かが原因である可能性が高いと考えられるようになりました。
その中でも、探査機表面で場所ごとのわずかな温度の偏りが生じ、予期せぬ減速が起きているという説が有力でした。
研究チームは過去のデータをもとに、パイオニア探査機の温度分布を分析しました。
その結果パイオニアアノマリーの原因は、この熱の分布の偏りによるものだと確定しました。
詳細な減速のメカニズムは以下の通りです。
パイオニア探査機は地球と常に通信ができるよう、パラボラアンテナを地球や太陽がある方向に常に向けています。
深宇宙の探査を行う探査機には、長期的に発電が可能な原子力電池が搭載されていますが、パイオニアの電池はパラボラアンテナの裏、つまり探査機の進行方向側の面に搭載されていました。
原子力電池は全方向にほぼ均等に熱を放射しますが、地球側へ放射された熱はパラボラアンテナに反射されます。
つまり進行方向側に熱の放射が大きいという偏りが生じ、これがわずかなブレーキとなって、減速を生じさせていた、というメカニズムとなります。
結果的にパイオニアアノマリーの原因は、物理学の常識を覆すようなものではありませんでした。
ですが未知のメカニズムが新たに一つ解明されたことは、今後の物理学にとっても大きな発展と言えるでしょう。