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宇宙背景放射に浮かび上がる巨大な異常領域「コールドスポット」の謎

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「宇宙背景放射と、そこに浮かび上がる巨大な異常領域コールドスポット」というテーマで動画をお送りします。

●宇宙マイクロ波背景放射(CMB)

私たちの目にする可視光線(光)は、電磁波の一種です。

電磁波は波長毎に呼び名が異なり、可視光線より波長が長いものには電波や赤外線、短いものには紫外線やX線、γ線などがあります。

宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background, CMB)とは、宇宙の全方向からほぼ同じくらいの強度で地球に到来し続けている非常に弱いマイクロ波(電波の一種)です。

○CMB観測までの背景

20世紀の前半頃まで、宇宙は定常的であり、時間と共にその基本的な構造が変化せず、そのために宇宙の始まりが存在しないとする「定常宇宙論」が基本的な考え方でした。

そんな中、アメリカの物理学者ジョージ・ガモフ博士は1948年に、宇宙には始まりがあり、最初は非常に小さく高温な火の玉であって、その後膨張して温度が低下し現在の姿の宇宙になったとする「ビッグバン宇宙論」を提唱しました。

そして仮にこのビッグバン宇宙論が正しければ、当時高温だった宇宙の名残として、現在の地球でも特定の性質を持ったマイクロ波(CMB)が観測できると予言されていました。

そんな中1964年にこのCMBが実際に発見され、これまで主流だった定常宇宙論から、ビッグバン宇宙論がこの宇宙の在り方を説明する理論として正しいと支持されるようになり、現在に至ります。

○CMBの正体は?

ではCMBとは一体何なのでしょうか?

結論から言うと、「宇宙最古の直進する電磁波」となります。

宇宙が始まった直後、宇宙は人間の目ですら認識できないほど非常に小さく、超高温でした。

その後宇宙空間が膨張するにつれ、温度が低下していきます。

宇宙が始まったビッグバンの瞬間からしばらくは宇宙に存在する物質は極めて高温であるため、原子核と電子がお互い離れて(電離して)自由に動き回る、プラズマの状態にあったと考えられています。

当時の状態だと電磁波は、空間を自由に動き回る電子と相互作用を起こすために、長い距離を直進することができませんでした。

そのため宇宙全体が霧や雲に包まれたように視界が開けていない状態が続いていたと考えられています。

宇宙誕生の瞬間からしばらくはそのような状態でしたが、誕生から約38万年経つと宇宙の温度は約3000度にまで下がり、自由電子が原子核と結びついて原子が形成され、ようやく宇宙内で電磁波が直進できるようになりました。

このように宇宙の誕生から約38万年後、直進できない電磁波で満たされていた宇宙全体が、直進できる電磁波で満ち溢れるようになった瞬間を、「宇宙の晴れ上がり」と呼んでいます。

この宇宙の晴れ上がりの瞬間に宇宙空間を直進できるようになった最初の電磁波は、その後宇宙の膨張と共に波長が伸びながらも、宇宙空間を満たし続けています。

現在の地球でも、宇宙の全方向からやってくる晴れ上がりの瞬間の最初の電磁波を観測し続けることができます。

つまりCMBの正体は、最初に直進できるようになった「宇宙最古の直進する電磁波」ということになります。

温度がある全ての物体は、その温度に応じた波長の電磁波を放っています。

これは熱放射と呼ばれる現象です。

人間の体温程度なら赤外線を主に放ちますが、さらに高温で数千度単位になるとより波長が短い可視光を主に放ちます。

例えば1000度を超えるマグマは真っ赤な光を放ちますし、表面温度が数千度の恒星も人間の目に見える光を放ちます。

そのため宇宙の温度が3000度の時に放たれた最初の電磁波は可視光線が多く含まれていました。

しかしその後宇宙の膨張と共に光の波長が伸び、現在では3K(-270度)の物体が熱放射で放つ電磁波とほぼ等しい、マイクロ波の形で地球に到達するようになっています。

○CMBのゆらぎ

CMBが発見された当初、CMBはどの方角から来るものも、温度(波長や強度の性質)が等しく、ムラ(温度ゆらぎ)が存在しないように思われていました。

初期宇宙において物質の密度のムラが存在していた場合、高密度で高温な領域から放たれたCMBほど高温であるはずです。

つまりCMBに温度ゆらぎが存在しない場合、初期宇宙における密度のムラも存在しなかったということを示します。

ですが現在の宇宙のように恒星があり、銀河があり、大規模構造があり、つまりは空間ごとに物質の密度にムラがある宇宙に進化するためには、宇宙の初期から物質の密度にムラが存在する必要がありました。

初期宇宙において物質の密度がわずかに高い場所があれば、重力で多くの物質を引き寄せ、さらに物質が集まって重力が高まるため、時間経過とともに物質の密度のムラが大きくなり、現在の宇宙の構造に進化できるからです。

そのため当初観測された全くムラのないCMBは現在の宇宙の姿を説明しきれないという問題点を抱えていたのです。

ですがNASAの探査衛星COBE、WMAPや、ESAの探査衛星PLANCKによる観測によって、CMBには10万分の1度という非常に小さい温度ゆらぎが存在していることが明らかになりました。

この温度ゆらぎの発見によって、初期の宇宙にも物質の密度のムラが存在していたことが明らかになり、宇宙の進化の理論に矛盾がないことが示されました。

●コールドスポットとその仮説

CMBの温度ゆらぎに注目すると、南天にあるエリダヌス座に存在する特定の領域から、他の低温領域と比べても特に低温のCMBが到来し続けていることが判明しました。

この領域を「コールドスポット」と呼びます。

コールドスポットは非常に巨大な領域であり、地球から見た満月の見かけの直径が約0.5度なのに対し、コールドスポットの見かけの直径は約10度にもなります。

そんな異常領域であるコールドスポットはどのようにして形成されたのでしょうか?

その形成原因に関するいくつかの仮説を紹介していきます。

○初期宇宙の量子ゆらぎ

まず一つ目の仮説として、量子ゆらぎによってCMBが放射された瞬間の初期宇宙に形成されていた低温・低密度領域が、コールドスポットの方向に偶然存在していたという可能性が考えられます。

ですがコールドスポットは非常に冷たくかつ広いため、この領域の存在を標準的な宇宙論モデルの範囲で説明するためには、以下で紹介する他の仮説が必要となってくるかもしれません。

○スーパーボイド

続いて二つ目の仮説として、コールドスポットの方向に超巨大な銀河の低密度領域である「スーパーボイド」が存在する可能性も考えられます。

なお一つ目の仮説も二つ目の仮説も、どちらも低密度領域がコールドスポットの方向に存在すると考える点で共通ですが、前者はCMBが放射時点から低温だったと考えるのに対し、後者は地球までの過程で低温化したと考える点で異なります。

アインシュタインの一般相対性理論によると、電磁波は重力場の中ではエネルギーを獲得し、より波長が短い電磁波となります。

よって電磁波が例えば銀河団などが持つ巨大な重力場に接近すると、一時的にエネルギーを獲得しますが、重力場から脱出すると元のエネルギーに戻るはずです。

ですがダークエネルギーの影響によって宇宙が加速膨張している場合、電磁波が重力場に突入する瞬間よりも脱出する瞬間の方が重力場が弱くなり、その結果電磁波は得たエネルギーを一部保持したまま重力場を脱出します。

これと反対に、加速膨張する宇宙においてボイドなどの重力場の弱い低密度領域を通過した電磁波は、ボイド突入前よりも脱出後の方がエネルギーが低くなります。

よってCMBが宇宙の晴れ上がりの瞬間に放射されてから地球に到来するまでの道中にボイドが存在していると、地球からそのCMBは低温に見えることになります。

これがコールドスポットの二つ目の説明です。

そんな中、2015年にはなんとコールドスポットの方向に地球から約30億光年彼方に、直径約18億光年にも及ぶ超巨大な「スーパーボイド」が観測されました。

このスーパーボイドをもってしてもコールドスポットの存在を完全に説明することはできないそうですが、これらの間に何らかの関係性が存在する可能性は非常に高いと考えられています。

○パラレルワールドとの衝突

最後に三つ目の仮説は、なんとコールドスポットの原因が私たちの宇宙と、また別の宇宙との衝突であるというものです。

一部の研究者は、「コールドスポットは標準的な宇宙論で説明することができない異常であり、私たちの宇宙を超えた別の宇宙との衝突の痕跡である」と主張しています。

ですが現時点では、この仮説が正しい場合に検出されると期待されている観測的証拠を得ることはできていません。

コールドスポットの形成要因については今紹介したようないくつかの仮説が考えられていますが、未だに明確な答えは出ていません。

とてつもなくスケールが大きくてロマンがあるコールドスポットの謎が、遠くない将来に解明されることを期待しています。

ということで今回は、宇宙背景放射の基本的な性質と、コールドスポットの深い謎について解説しました。

https://en.wikipedia.org/wiki/CMB_cold_spot
https://en.wikipedia.org/wiki/Sachs%E2%80%93Wolfe_effect#Integrated_Sachs%E2%80%93Wolfe_effect
https://arxiv.org/abs/1405.1566
https://phys.org/news/2015-04-cold-cosmic-mystery-largest-universe.html
https://bigthink.com/starts-with-a-bang/einstein-shift/
https://owlcation.com/stem/Does-the-Universe-Have-a-Supervoid-Explaining-the-Cold-Spot-of-the-CMB
https://www.youtube.com/watch?v=gGkTkoyzZ_A
サムネイルCredit: ESA Planck Collaboration

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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