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宇宙論を覆す奇妙すぎる銀河を新発見!ダークマターが全く存在していないかも…

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「宇宙論の常識を覆す特異な銀河」というテーマで動画をお送りします。

●特異な銀河「NGC 1277」

地球からペルセウス座の方向に約2億4000万光年彼方にある銀河「NGC 1277」は、天の川銀河の2倍もの星を含む大質量の銀河です。

しかし直径は天の川銀河の4分の1程度に過ぎず、コンパクトな銀河と言えます。

そんなNGC 1277には、もともと2つの特異な性質が知られていました。

「銀河中心のブラックホールが巨大すぎること」と、「地球から近くにある遺跡銀河であること」です。

まず中心のブラックホールについて、2012年時点では、太陽の実に170億倍という観測史上最大級のブラックホールが存在していると推定されていました。

その後のより詳細な観測によってブラックホールの質量の推定値はかなり下方修正されましたが、現在でも太陽の10億倍以上の質量のブラックホールが存在していると考えられています。

NGC 1277と質量や大きさなどが近い規模の銀河である天の川銀河の中心にあるブラックホール「いて座A*」の質量が太陽の430万倍であることを踏まえると、NGC 1277のブラックホールは銀河の規模の割に非常に重いと言えます。

そして「地球から近くにある遺跡銀河である」という点もこの銀河の特筆すべき性質です。

「遺跡銀河」とは、成長が途中で止まり、古い状態を維持している銀河のことを言います。

NGC 1277の場合、今から約100億年前に天の川銀河の1000倍という猛烈な勢いで星を生成して以降、成長の痕跡が見られていません。

NGC 1277が遺跡銀河であると言える根拠をいくつか解説します。

まず、青い球状星団が存在しない点が挙げられます。

通常、NGC 1277のように大質量の銀河だと、その周囲に金属量が少なく青く見える球状星団と、金属量が多く赤く見える球状星団の両方が存在する傾向があります。

赤い球状星団は銀河が形成されるときに形成され、青い球状星団はその銀河が他の小さな銀河を吸収し、成長する過程で外からもたらされると考えられています。

NGC 1277の場合、青い球状星団がほとんど見られません。

この特徴は銀河が形成されて以降、周囲の銀河を吸収することなく古いままの状態が維持されていると説明ができます。

そして先述したNGC 1277の特徴である「質量の割にコンパクト」である点と、「銀河全体の総質量に対して中心のブラックホールの質量が非常に大きい」という点も、この銀河が遺跡銀河である根拠であると言えます。

この銀河は中心のブラックホールが巨大な分、本来はもっと巨大な銀河に成長できたかもしれませんが、初期に巨大ブラックホールと銀河の核が形成されて以降、周囲の銀河を吸収せず、成長が止まってしまいました。

その結果、現在のようなコンパクトでかつ規模の割に大質量のブラックホールを持つ、奇妙な銀河が残ったというわけです。

遺跡銀河は非常に遠方の宇宙にはいくつも見つかっていますが、NGC 1277のように比較的近くにあり、観測が容易な遺跡銀河は珍しいです。

ほとんどそのまま残っている100億年前の情報を、かなり間近から探査することが可能であるという意味で、初期宇宙における銀河形成のメカニズムを知るうえで、絶好の研究対象となっています。

●NGC 1277にはダークマターがない!?

これまで述べてきたように、NGC 1277は元々特異な銀河として知られていましたが、最近になってさらに奇妙な特徴が判明しました。

スペインのラ・ラグーナ大学などの研究チームは、なんとこの銀河にダークマターが存在しないことが明らかになったと、2023年7月に発表しています。

今表示中の画像は、NGC 1277(左)をそれと近い規模の銀河である「ESO 325-G004(右)」と質量で比較したものですが、ダークマターがない分、NGC 1277の方が軽くなっています。

研究チームは重要な観測対象として知られているNGC 1277内の場所ごとの物質の運動を調べ、銀河内の質量分布を明らかにしました。

その結果、新たに判明したこの銀河の質量分布は、恒星やガスなど観測可能な物質の質量と一致していたそうです。

この結果は、質量を持つが観測はできないダークマターがこの銀河には存在していないことを示しています。

より正確にはダークマターが全く存在しなくてもおかしくないし、あったとしても総質量の5%以下しか存在しないことが判明しました。

現在信じられている宇宙論モデルでは、NGC 1277のような質量を持つ銀河は、その質量の10%~70%が暗黒物質であるはずだと予測されています。

つまりダークマターの質量比がその理論的な予想を大幅に下回るか、あるいはまったく存在していないNGC 1277の存在は、標準的な宇宙論の修正を迫る大きな問題となっているのです。

研究チームは、この銀河にダークマターが存在しない事を説明する2つの仮説を提唱しています。

一つ目は、NGC 1277が形成された当初にダークマターが銀河から追い出され、そのままの状態で現在まで残っているという説です。

二つ目は、NGC 1277は大質量の銀河団に属していますが、その銀河団からの重力的な作用によってダークマターが剥ぎ取られてしまったという説です。

ただしどちらの説も根拠に乏しく、正確なことはわかっていない現状です。

NGC 1277にダークマターが存在しないという研究結果は、標準的な宇宙モデルの一部を修正する必要に迫る可能性はありますが、ただちにダークマターの存在そのものを否定するものではない事に注意が必要です。

より一層奇妙な存在になったこの銀河の謎を説明するために、さらなる研究が必要とされています。

https://hubblesite.org/contents/news-releases/2018/news-2018-17.html
https://www.aanda.org/articles/aa/full_html/2023/07/aa46291-23/aa46291-23.html
https://www.iac.es/en/outreach/news/puzzle-galaxy-no-dark-matter
https://www.space.com/galaxy-no-dark-matter-cosmic-puzzle
https://en.wikipedia.org/wiki/NGC_1277
サムネイルCredit:NASA / ESA / Andrew C. Fabian / Remco C. E. van den Bosch (MPIA)

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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