地下扉の先は、まるで日本酒の貯蔵庫? うまい焼鳥と純米燗酒に酔いしれて【山もと/東京】
今回、冒険するのは東京・三鷹の「山もと」。焼鳥と日本酒を語るうえで避けては通れない焼鳥屋がここ。地下扉を開ければ開放的な空間が飛び込んでくる。たっぷりと余裕をもたせたカウンター。その奥の棚に眠るのは800本以上もの純米酒。まるで、日本酒の貯蔵庫にでも来たかのような感覚に包まれる。こんな焼鳥屋、そうそうない。
焼鳥×熟成純米燗酒の世界へ
「好きなだけ純米酒を寝かせられる場所を探し求めて辿り着いたのが、たまたま三鷹だったんです」
店に入った途端、店主の山本さんが言っていた言葉を思い出した。カウンター奥の棚には800本以上もの純米酒のストック。それを何年も熟成させた「純米燗酒」がこの店のウリだ。
ただ、焼鳥も負けず劣らずしっかりうまいのでそこは安心。むしろ、そうでもなければ、これほどの人気店にはなっていないのだから。
「山もと」が扱うのは鳥取県の銘柄鶏「大山どり」。この鶏を扱う焼鳥屋は他にいくらでもあるのだけれど、ここの大ぶりでプリッと弾けるような味わいが妙にクセになる。
1本目に出されるネタは、いつもハツと決まっている。焼き台からもうもうと立ち上る煙。山本さんがハツ同士を撫でるようにして次々と焼き上げていく。
「ハツです」と山本さん。テロッと脂がまわり、パツンッと張ったハツは見るからに食欲をそそる。そうそう、これを食べると「山もと」に来たことを強く実感するんだ。
続くせせりはボリュームも十分。ヤゲン軟骨は肉付きでいっそうジューシーに仕上がっている。
塩みもほどよく、優しい火入れ。どちらもいい意味で〝パンチが強くない〟。熟成純米燗酒を主役と見立てると、焼鳥はこのくらいの主張がちょうどいい。
白レバームースは必食!
「山もと」は焼鳥以外の肴もしっかり揃っている。そもそもフルコースではないので、5本か7本の焼鳥セットに各々が好みの一品を追加するスタイルだ。
数ある一品のなかでもついつい頼んでしまうのが白レバームースと、むね肉のたたき。これがもう、秀逸で……。初めて訪れたなら、白レバームースは頼まない手はないというもの。
レバームースのなめらかでとろけるような口あたり。何がニクいかといえば、添えられた蜂蜜とカカオニブ存在だ。
ムースのコクに、蜂蜜の甘み、カカオニブの食感。そう聞くと、いかにもワインに合いそうな取り合わせに思うけれど、ふくよかに香りを放つ燗酒にじんわりと馴染むんだ。
外は香ばしく、中はしっとりと仕上げた鶏むね肉のたたきは、きざみわさびを添え、海苔で巻いてパクリといく。
んん。これもたまらない。分かりやすく、燗酒が抜群に合う。
串も中盤。見るからに香ばしい厚揚げは、アッツアツの仕上がり。これは火傷覚悟のキケンな一品……。
と、言いたいところだけれど、手羽や厚揚げ、野菜は熱すぎたり、形状的に食べにくいのなら串から外すのもアリだと思っている。他のネタは、ぜひそのままで。
まん丸のつくねは、ふっくらと。
続くレバーは、とろんと。
7本セットの〆は手羽。骨離れよく下処理されているので誰にも食べやすい。アッツアツのまま頬張って、骨周りのうまみも味わって。手羽もいろんな食べ方があるけれど、やっぱり焼鳥屋で食べるのが一番うまい。
ちょうちんも意外と燗酒に合う
毎度のことながら、7本じゃ終われないのが焼鳥好きの性……。牛肉や豚肉と比べて、鶏肉はするすると収まってしまうのだから不思議なもんだ。
ネタのストック次第ではあるけれど、もちろん追加もできる。悩んだ末、今日はふりそで、ちょうちんに決めた。
ふりそでは胸肉と手羽元の間の肉で、いわゆる希少部位。むちっとして、ほどよく脂がまわった肉はまさにごちそうといった味わい。
ちょうちんを食べるのも、久しぶりだなぁ。串にぶら下がったキンカンは卵になる前のもの。レバーや背肝、卵管などの内臓と合わせて打たれることが多い。
口に放り込めばパチュン! と弾け飛び、とろりと濃厚なうまみが口いっぱいに広がっていく。これが思いのほか、燗酒とも合うんだ。ワインより、むしろ燗酒。間違いない。
〆は鶏そぼろの担担麺で。辛みが際立つようなものではないけれど、こっくりと濃厚なスープが抜群にうまい。山本さんに聞くところ、「酒も進む担担麺」をめざしたのだとか。うーん、納得。
「焼鳥をほどよく摘まんで、飲んで、〆でお腹いっぱいに。そういうのがいいですよね」と山本さんが笑う。
確かに。焼鳥はしっかりうまいし、燗酒だっておあつらえ向きのものをつけてくれる。店内は高級感に溢れていながら、焼鳥7本セットが1500円以下で楽しるギャップも「山もと」の魅力だ。
不満があるとしたら「なんで家の近くにないのか……」
それだけだなぁ。
店舗情報
【店名】山もと
【最寄り駅】三鷹駅
【住所】東京都武蔵野市中町1-19-8
【予約】トレタ(予約サイト)
【定休日】日曜日
【串のアラカルト】なし
【鶏メモ】大山どり