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地元・松江に「子連れでも本格焼鳥が楽しめる場所」を。若き職人の原動力は家族愛【ことり/島根】

今回、冒険するのは島根県松江市上乃木の焼鳥屋「串焼きダイニング ことり」。18時の開店に合わせ、1台のミニバンが店の駐車スペースに止まった。真っ先に降りた子供たちがすっと店に吸い込まれていく。それをゆっくりと追いかける大人の姿。そう、地元密着型。「ことり」は郊外の焼鳥屋ながら本格的な焼鳥が楽しめると評判を呼んでいる。

松江市郊外にある町焼鳥へ

「ことり」は松江市郊外にある。最寄り駅からも徒歩で15分以上はかかる立地だ。店に入ると、数席のカウンターとテーブル席が目に入った。さらに奥には家族連れも気楽な座敷があるようだ。

メニューをのぞくと、どうやら定番串10本盛り(5種×2:2,200円)と創作串10本盛り(5種×2:2,310円)がお得のよう。これは子供から大人まで、家族で楽しめるような焼鳥を意識してのことだろうな。

さて、どうしようかと思っていると、「お一人のお客様にかぎり、5種を1本ずつお出しできます」と店主の日高さんが声をかけてくれた。

とはいえ10本は食べる気満々だ。まだ開店まもなく混みあっていないこともあり、串はおまかせで1本ずつゆっくりと出してもらうことにした。焼鳥好きとしては、それが理想的。

1本目のささみは、しっとり技あり

さび焼き
さび焼き

1本目は定番のさび焼き。しっとり、ほぐれていくような独特な歯切れ……。これはブライニング特有の食感。ブライニングはあらかじめ肉を塩水に漬け、筋線維をやわらかくして保水性を高める下処理だ。

ささみは生焼けも焼き過ぎもうまくない。ブライニングのひと手間で、火を入れてもかたくならないわけだ。日高さんに聞けば東京・六本木の焼鳥職人の影響で始めた仕込みなのだそう。んん。どうりで。

ねぎまは王道のタレで
ねぎまは王道のタレで

お通しのうずらの玉子
お通しのうずらの玉子

内臓ネタはどれもクリアで、臭みなし

砂肝
砂肝

ハツ
ハツ

いい焼鳥屋はやっぱり、内臓ネタがうまいもの。シャックシャクの砂肝もプリップリのハツも、クセが微塵にも感じられない。すーっとクリアで、咀嚼後に嫌な余韻が残らない。これはいい仕上がりだなぁ。

「うちで使っている鶏は全て大山どりですよ」と日高さん。

おお、大山どりなのか。都内でも大衆店から高級店まで多くの焼鳥屋が扱うメジャーな銘柄鶏だ。それでも、いつも以上に内臓ネタがおいしく感じるのは、生産している鳥取県から近く、鮮度がいいことも……ある? いずれにしても、ここの内臓ネタなら、焼鳥ビギナーでも安心して食べられそう。

とろんとしたレバー
とろんとしたレバー

やり過ぎない〝ひと手間〟で魅せる

なめこ巻
なめこ巻

「ことり」の魅力は創作串にもある。差し出されたのは、なめこ巻だ。文字通り、肉でなめこを包んで焼き上げたものだけど、これがまたうまいのなんの! むちっとした肉と、歯切れのよいなめこ。ほのかなぬめりが絶妙なアクセントを生んでいる。

豚肉で巻こうが鶏肉で巻こうが、肝心なのは素材と素材の一体感だ。互いに風味や食感を邪魔せず、引き立て合うのが理想的。もし、肉に皮が巻かれていたら、きっとなめこは生きてこない。皮の存在にすっと隠れてしまう。いいね。これは1本取られたなぁ。

ちびハツのねぎま
ちびハツのねぎま

「あまりにも小さいハツは開くとペラペラになってしまうので、開かずに丸ハツで出しているんです」

名付けて「ちびハツのねぎま」だそう。鶏も生き物。ハツ(心臓)が大きく育った鶏もいれば、小さな鶏もいる。小さいハツも串にまとめて立派な1本に仕上げられる。それが焼鳥の醍醐味というやつだ。控え目なポーションながら、噛めばプリュッと。合間のねぎがさわやかに脂をぬぐってくれる。

しそなか
しそなか

そして「しそなか」はわざわざ手羽中の骨を抜き、それだけにとどまらず、大葉を忍ばせた技ありの1本。噛めば、皮目はパリッと、肉はもっちりとして、大葉のすがしがしい香りが控え目に追いかけてくる。

んん。これも間違いなくうまい。「ことり」のような大衆焼鳥で骨抜き手羽を食べられるとは思いもしなかったなぁ。定番のネタはもちろん、こうしたネタにも日高さんの焼鳥への姿勢が表れているよう。

「おいしい焼鳥は丁寧な串打ちから。なので、仕込みだけは絶対に手を抜かないと決めています。丁寧に打った串は、焼き手を裏切りませんから」

焼鳥を追求しながら、家族も守る

19時にもなると、あっと言う間に席が埋まっていった。焼き台はネタでぎっちぎちになり、もうもうと煙を上げていく。

日高さんもパチッとスイッチが入ったか、焼鳥が焦げないよう手早く、かつ丁寧に返しながら焼き上げていく。忙しくてもあせりは見えない。さすがは焼鳥職人といったところだ。

店主の日高慎吾さん
店主の日高慎吾さん

日高さんの焼鳥職人の道は、20歳のときに始まったのだという。元々独立志向があり、雇われではなく自営で稼げる仕事を探していたなか、出合ったのが「やきとり大吉」。島根県雲南市で暖簾を掲げ、10年が経つ頃にはすっかり繁盛店に成長。それでも店を畳んだのには理由があった。

「地元に帰りたい、という気持ちと家族のライフイベントが重なりまして。周りの反対はありましたが、バッサリ辞めました。それに、やっぱり『自分の店を持って自由にやりたい』という思いも沸々とわいてきたんですよね」と振り返る日高さん。

「大吉」イズムを感じる、ふわふわつくね
「大吉」イズムを感じる、ふわふわつくね

10年培った「大吉」の引き出しをベースとして「ことり」をオープン。その際、なによりも大切にしたのが「子連れでも本格的な焼鳥が楽しめる町焼鳥にすること」だったのだそう。

「周りを見渡すと、そういう店が全然ないなぁと思ったんです。僕自身、焼鳥が大好きなんですが、なかなか家族で行けるおいしい焼鳥屋がなくて……。地元で店をやると決めたときに、『自分が家族と来たい』と思えるようなおいしいお店にしようと心に決めました」

焼き台から絶え間なく煙が立ちのぼるなか、時折厨房に姿を見せるのは、日高さんの子供だ。それを見つめる目は親そのもの。地元・松江で念願の独立。焼鳥の技を追求しつつも、家族を守ることを片時も忘れない。むしろ、それが〝原動力〟なんだと思う。

そんな日高さんはまだ36歳。職人としてもこれからさらに脂がのる頃だ。目指している姿を聞いてみると……

「〝ことり〟は、よく動き回って成長を予感させることから名付けたんです。なんだか、その感じが僕に合っていると感じたんです。島根県はまだ焼鳥をゆっくりと楽しむという食文化が定着していませんが、これは課題であると同時にチャンス。まずは町焼鳥として、行けるところまで行こうと思っています!」

▼冒険のおさらい

①子連れでも本格焼鳥が楽しめる

②内臓ネタもくせがなく食べやすい

③技ありのネタとも出会えるかも

店舗情報
【店名】串焼きダイニング ことり
【最寄り駅】乃木駅
【住所】島根県松江市上乃木4-1-1
【予約】0852-69-1291
【定休日】月曜、火曜
【串のアラカルト】あり
【コース(セット)】2,200円~

毎週、焼鳥三昧! 焼鳥を斜めに逆さ撮りする〝ヤキトリスト撮り〟は元祖にして名刺代わり! 「焼鳥は串柄、人柄」をテーマに、大衆的で気兼ねない町焼鳥から、鶏にこだわり1本1本に心血を注ぐ専門店まで焼鳥まみれの日々を送っています。焼鳥好きの方、フォローよろしくお願いします!

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