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【宿敵の日本史】武田勝頼をさいごまで裏切らなかった人物はまさかの!武田家と上杉家2代の不思議な運命

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

武田信玄上杉謙信

この名を耳にしたとき、誰もが思い浮かべる関係は、おそらく「宿敵」でしょう。

実際に幾度もの直接対決に加え、互いが抱く目標も、大いに阻み合いました。

上杉家は北条家を討ちたい。武田家は京都へ進軍したい。

しかし両勢力が健在である限り、うかつに本拠地を留守には出来ず。

両家が天下統一に届かなかったのは、それが原因とも言われるほどです。

・・と、ここまではきっと、多くの方がイメージする通り。

しかし、その後に両家の関係がどうなったか、ご存知ない方も少なくありません。

その結末は史実ながら、映画やアニメの脚本にも劣らないほど、

不思議な運命を辿ることになりました。

この記事では、両家が辿った数奇な巡り合わせについて、ご紹介して行きます。

あやつこそ真の名将

宿敵でありながら、信玄と謙信は互いを“名将”だと、認め合っていた部分もあったと言います。

武田家の領土は内陸で、ほとんど塩が収穫できないのですが、その弱点を突き

周辺勢力から「塩の流通ストップ」作戦を仕掛けられ、喘いだことがありました。

しかし、それを知った上杉謙信は、言いました。

「われら弓では争えど、それ以外の手段で追い詰めることはせぬ!」

領内の商人には通常と変わらず、塩を輸出するように通達。

弱みにつけ込み、高値で売りつける・・といったことも、しませんでした。

この「敵に塩を送る」エピソードは、創作説もありますが、江戸時代に記された

「武田三代軍記」という書物に、その記述がハッキリと書かれています。

武田信玄は、のちに後継ぎとなる勝頼に、このように伝えたと言います。

「上杉謙信こそは真の名将。何かあったとき最後に頼れるのは、彼の様な男だ」

かつて、さんざん戦っておきながら不思議ですが、この遺言に従うかのように

武田勝頼は“長篠の戦い”で織田・徳川連合軍に大敗すると、立て直しのため、

上杉謙信と和議を結びました。

上杉家も織田信長に脅威を感じており、利害の一致があったのは間違いありませんが

これを境にかつての宿敵は、ともに支え合う“同志”となって行きます。

ほんとうに信じられる存在

やがて上杉謙信も死去し、その当主は2代目の上杉景勝へ。

勝頼は彼と改めて同盟を結び、織田や徳川に対抗しますが、やがて劣勢に。

最初に崩されたのは武田で、世にいう“甲州征伐”が始まると、今まで従っていた勢力が

次々に織田・徳川家へと、従う先を鞍がえ。

先代からの重臣さえ寝返り、織田勢の道案内や接待をする始末でした。

最後まで忠節を尽くす家臣も、次々に戦死。こうなっては、もはや勝機なしです。

そんな絶望のどん底にいる勝頼のもとに、一通の手紙が届きます。

そこには、こう書いてありました。

「これより我が軍勢、貴殿を助けに参りまする。」

差出人は、なんと上杉家でした。

勝頼の心中は、どのようなものだったでしょうか?

かつて大河ドラマ「天・地・人」では、彼が書状を手に涙するシーンが、描かれていました。

しかし情勢的には、このとき上杉領も攻められており、余裕はありません。

援軍を出せてもわずか、とても武田家は救えません。

勝頼は、こう返事をしたためました。

「お気遣いまことに感謝。しかし我々の備えは万全ですので、それには及びません」

もちろん、そんなわけはないのですが、名門・武田家の最後の意地か、

あるいは「どうか自国の守りに専念して下され」という、気遣いだったのかも知れません。

実際に上杉領からは、約3千の援軍が向かいましたが間に合わず、武田家は滅亡。

そして次のターゲットは上杉とばかり、四方から攻められて窮地に陥りますが

直後に本能寺の変が、勃発。

上杉家は豊臣政権を経て、江戸時代は米沢藩として、存続して行くことになりました。

きのうの敵は今日の・・

それにしても上杉家は、なぜ武田勝頼に援軍を送ったのでしょうか?

「天・地・人」では反対する上杉家臣たちの場面が、描かれましたが、それも当然ですね。

このシーンで主役の直江兼続は、もし上杉謙信公がいたら?と問います。

“義”を貫いて助けたに違いなく、裏切りが当たり前の乱世だからこそ

「せめて我らが“義の心”を世に示さねば!」と、皆を説き伏せます。

生前に信玄が「本当に頼れる男は・・」と遺言した事は、本当にその通りになりました。

家臣の離反が相次ぐ中、最後に手を差し伸べたのは、かつての宿敵。

何とも不思議な巡り合わせです。

結果的に助けられなかったとはいえ、騙し合いの戦国時代にあって、

思わず“人のうつくしさ”を感じるエピソードです。

・・このように歴史は、有名な出来事に想いを馳せるのも、楽しい1つですが

「その後どうなったのか?」を追ってみると、様々な感動や発見に出会えるものです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。鬼滅の刃とドラゴンボールZが大好き■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』

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