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【平安時代】シンデレラは日本が先取りしていた?ストーリーが重なる平安小説「おちくぼ姫の物語」とは

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

あなたは日本の昔話と聞いて、まっ先に思い浮かぶのはどの物語でしょうか。多くの方はまず、かぐや姫や浦島太郎、桃太郎などが浮かぶところではないかと思います。

そうした中でとつぜん“シンデレラ”の名を出されれば「それは西洋の話でしょう?」と感じるかもしれません。しかし、そのストーリーと言い登場人物の設定と言い、極めて共通する物語が、じつは平安時代に書かれているのです。

そのタイトルは「落窪(おちくぼ)物語」、一体どのような話が展開されているのでしょうか。

まま母にいじめられるお姫様

ある貴族のお屋敷に、皇族を母親に持つ美しい“姫様”がおり、大切に育てられていました。しかし、その母は突然亡くなってしまい、その後釜に意地の悪い継母が嫁いで来ることになってしまいました。

この継母には4人の娘がおり、彼女らに対しては愛情を見せるのですが、“姫様”は目の敵にし始めます。日常を過ごす居室も、うつくしい部屋から畳が落ち窪んだ粗末な居室に変えられ、彼女は“おちくぼ姫”と呼ばれるようになりました。

この“おちくぼ姫”には中納言という父親もいましたが、気弱な性格で継母には口出しできず、いじめはエスカレートして行くばかりでした。

具体的にはいつもボロボロの衣服を着せ、冬でも薄着。実母から引き継いでいた見事な調度品は、理由をつけて没収。1日中ぬい物の仕事をさせ、その間は1日1食しか与えず、作業が遅いと叱責。逆らうと物置に閉じ込める。・・などの仕打ちを、ひたすら受け続けたのでした。

このような境遇となれば当然として、“おちくぼ姫”は折に触れ「私はこの世界から、消えてしまいたい」と嘆くようになってしまいます。

救世主の登場とめぐらされる策謀

そんな敵だらけの屋敷内にあって唯一、“おちくぼ姫”の味方は、実母に仕えていた女官の“アコギ”でした。アコギはいつも現状に心を痛め、“おちくぼ姫”を何とかできないものかと、考えを巡らせていました。

そうした折り、誠実で評判の貴公子“右近(うこん)”という人物に着目。もし彼と“おちくぼ姫”が結婚できれば、屋敷から連れ出すことができ、そして幸せになれます。

まさにシンデレラで言うところの王子様ですが、ある日アコギはこっそりと彼を屋敷に招き、おちくぼ姫に引き合わせます。

みすぼらしい衣服のおちくぼ姫は、最初は恥ずかしがって避けようとしますが、右近は人の見た目には、囚われない男性でした。2人は惹かれ合い、右近は「是非あなたを妻にしたい。必ず迎えに行きます!」と告げて、帰って行きました。

ところが、これを継母が知るところとなり、激怒します。「“おちくぼ姫”のくせに、生意気な!」という心理に加え、継母は密かに自分の末娘と右近を、結婚させたいと考えていたからです。

そこで右近が“おちくぼ姫”を迎えに来る前に彼女を幽閉し、自分の叔父である医師の男と「ムリやり、結婚させてしまえ!」という、荒業を発動します。

ちなみに“医者”と言えば聞こえは良いですが、彼は平均寿命の短い当時にあって60歳という年齢で、しかも好色な男性でした。

「ふひひ。ワシと結婚しようね、お姫様」といったような、ひどい雰囲気で迫ってきますが、すんでのところでアコギが機転を利かせて、おちくぼ姫を脱出させます。その後あらためて右近と再会し、2人は結ばれることになりました。

さて、よくある昔話ではここで「めでたし、めでたし」と終わるところですが、この物語では一味違います。右近は“おちくぼ姫”を愛していましたが、それゆえに過去、ひどい仕打ちを受け続けたと聞いて憤ります。そして継母一家に対する、報復を考えるのでした。

逆襲の右近

具体的には、継母が可愛がっていた末娘をワナにはめ、世間的にひどい評判の男と結婚させるように仕向けたり、継母一家が引っ越そうとしてした新居を、先に占拠して戸惑わせたり・・。

あるいは継母が乗っていた牛車を壊し、彼女が外に転がり落ちるといった事件も、誘発させました。この時代、大人の貴族女性が周囲に顔を見られる事は、恥ずかしいという価値観です。継母は周囲に集まってきた群衆の、笑い者になります。

そうして“お仕置き”をするたび、右近は「どうだ、報いを思い知ったか?」と言いますが、悔しがりながらも屈さない継母・・といった場面が、しばらく展開されます。

しかし当の“おちくぼ姫”は「過去の事は、もういいですから」と右近をたしなめ続けます。そうしたこともあり、最後は傍観者であった父の中納言が「今まで、本当にすまなかった」と反省し、継母も自分の行いを悔いて謝罪。継母一家とも和解して、ハッピーエンドとなります。

じつは面白い平安小説

ちなみにシンデレラという言葉は、日本語にすると“灰かぶり姫”で、ボロボロの衣服だったおちくぼ姫とも、重なる部分を感じます。

またシンデレラの方はグリム童話などを通じて有名になりましたが、おちくぼ物語はそれよりはるか、何百年も前に執筆されています。

もしかするとシンデレラの作者はどこかで知り、何かの参考にしたのでしょうか。事実はまったく不明ですが、あるいは人間の思いつく物語は、どこか自然と似通う部分があるのかも知れません。

いずれにしてもストーリーの構図が似通っていることは、たいへん興味深い事実です。平安時代の書物と言えば、まず源氏物語などに注目が集まりがちですが、実はほかにも面白い作品が多数あるのです。

このように、昔に書かれた物語を追ってみるのも、世界観が広げるキッカケとなり、日本史や古典を勉強と捉えるのとは違った視点で、楽しむことができるように感じられます。

歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。鬼滅の刃とドラゴンボールZが大好き■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』

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