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予防が肝心!動物行動学の専門家に聞いた猫の新生活によるストレスを減らす方法

いわさきはるかサイエンスライター
PhotoAC

もうすぐ新年度、引っ越しをして新しい生活を始めるという方も多いのではないでしょうか?新生活に際し、飼っている猫を連れて引っ越したり、猫を飼い始めることを検討したりしている方も多いかと思います。

しかし猫は大きな環境変化がとても苦手です。「犬は人につき、猫は家につく」という言葉がある通り、猫にとって住み慣れた環境が変わることは大きなストレスになります。

そこで、今回は獣医行動診療科認定医である中野あや先生に環境変化による猫のストレスを軽減する方法を伺いました。

猫のストレスを軽減するには「とにかく予防が第一」なのだそう。猫連れの引っ越しを予定している方や、猫を飼い始めようと思っている方はぜひこの記事を読んで、早めに実践してみてくださいね。

環境が変わる前に猫の体調などを把握

譲渡直後飲まず食わずでトイレからでてこなかった我が家の猫
譲渡直後飲まず食わずでトイレからでてこなかった我が家の猫

大きく環境が変わると、猫は極度の緊張から飲食や排泄を行わなくなることがあります。その原因がストレスや緊張だけなら、慣れるにつれて自然と食べたり出したりしてくれるのでしばらく様子を見ても大丈夫な場合もありますが、「飲食や排泄を行わない」という状態は猫が体調不良の際のときに出すサインでもあるので注意が必要です。例えば、引っ越しのストレスから膀胱炎になり、さらに尿道閉塞を起こした場合にはすぐにでも病院に連れて行かなければなりません。

こうした緊急事態に備えるためにも、引っ越し前に普段の検診でペットの体質を知っておくことが重要だと中野先生は言います。

「環境が変わる前に検査を受けて猫の体質や持病などを把握しておくことで、新しいおうちでストレスから生じる不調のリスクに備えることができたり、病院にかかるべきかどうかの判断がしやすくなったりします。」

ただでさえ新しい環境で大きなストレスを感じている猫を検査のために病院に連れていくのはできれば避けたいもの。猫はストレスで検査数値が変化することもあるので、このような検査は「引っ越し前」の落ち着いた状態で行っておくのが望ましいそうです。

猫を飼い始めるときには飼う前に検査を

新しく猫を迎え入れるときには猫をもらい受ける人が費用を負担して「飼う前」に検査を受けさせてもらいましょう。中野先生によると、飼い始める前の健診は飼い主にもメリットがあると言います。

「飼い主さんの側からしてもまだ慣れていない状態の猫を捕まえて病院につれていくというのはかなり大変。飼い始める前に慣れた環境で慣れた人に病院に連れて行ってもらうのが一番です。」

また飼い始める前の段階で健診として定期的に必要な検査の種類や検査にかかる費用の情報を得ておくのも、その後の飼育に役立ちます。最低でも尿と便の検査、できたら血液検査までやってもらっておくと安心です。

猫の大好物を知っておこう

猫が環境の変化によって飲食ができていないとき、普段のごはんは食べられなくてもおやつなどを食べることができれば安心できます。中野先生はこんな例え話をしてくれました。

「子どもが知らないおうちで緊張してごはんが食べられないときでも、大好きなアイスや果物は食べたりしますよね。猫も同じです。猫の大好物を1つでも把握しておくと全く食べられない状態なのかどうか知ることができます。

新しく猫を迎える場合にはもらい受ける前に「これだけはどんな状況でも食べる」という大好物を聞いておくといいでしょう。チュールだったり、猫草だったり、猫によって「大好物」は意外と異なるものです。

家が変わっても猫のニオイを残した環境作り

譲渡前のおうちから借りたお気に入りの毛布にくるまっている
譲渡前のおうちから借りたお気に入りの毛布にくるまっている

引っ越しをするとき「せっかくだから家具もすべて新調しよう!」と思う方は多いと思います。しかし、猫にとって自分のニオイがついたものが何もなくなってしまうのはかなり大きなストレスです。

「よかれと思って、キャットタワーや猫のベッド、トイレまですべて買い換えてしまう飼い主さんもいます。せめて猫のものだけでも古いものをそのまま、できたら洗ったりせずに持っていってほしいです。自分のニオイがどこにも見つけられないと、猫は落ちついて眠れる場所やトイレ、爪をとぐ場所などをゼロから探さなければならなくなります。」

猫のものも含めてすべて買い換えてしまうと、猫はニオイの世界で「ひとりぼっち」になってしまうそうです。猫にとって自分のニオイは安心できる場所を示すもの。家という外枠が変わるだけでも不安になるはずですし、できる限り中のものは変えないようにしてあげたいですね。

猫を新しくお迎えする場合には、お気に入りの毛布やおもちゃをもらったり、それまで使っていたのと同じトイレ砂を準備してあげたりするといいそうです。極力ニオイが変わらないような環境作りをすることでストレスを軽減することができます。

また、初めて猫を飼うときには1匹ではなく「兄弟猫」や「仲良しの猫」と一緒に迎えることも猫のストレス軽減の上で有効だと言います。

「もともと愛着関係のできあがっている猫はもっとも安心できるニオイを持った存在です。仲良しな猫同士を一緒に飼ってもらうと、環境に慣れるのが早く、問題行動も起こりにくいと感じています。」

いずれは2匹と考えているのなら最初から仲良し猫2匹を同時にお迎えすると猫にとってもストレスが少なくて済むのかもしれません。

人から見えない隠れ家を作ってあげる

慣れていない相手だと、猫は目が合うだけで緊張してしまいます。環境が大きく変わるときは、猫が安心できる形で隠れられる場所を準備しておくのがおすすめです。

「もといたおうちで使っていた箱などを部屋の隅やクローゼットにおいてあげると自分のニオイに囲まれて隠れられるので落ち着きます。できるだけ人が通る場所に入口が向かないように設置してあげてください。」

隠れ家を用意しないと猫が自分で部屋のどこかに隠れてしまいます。猫がどこにいるか探して歩き回ったり、やっと猫が見つけた落ち着く隠れ家を何度も覗くのは猫にとってストレスになりえる行動です。

なるべく刺激を与えないことが新しいおうちに慣れる第一歩になりますので、飼い主があたふたせず安心して放っておける環境は大切です。猫がちゃんと家にいるか心配になってしまうなら、ケージに猫を入れ目隠し布をかけてあげてもいいでしょう。

気持ちを安定させる香りやサプリは猫に慣れさせてから

生活環境が大きく変わる引っ越しなどの際は、猫の気持ちを安定させるフェロモン製品やサプリを使うのも一手です。中でも猫が落ち着く成分であるフェイシャルフェロモンを使った「フェリウェイ」は設置するだけで周辺にフェロモンが漂い猫に作用するため、薬を飲むのが苦手な猫でも簡単に取り入れることができます。ただし、これらを効果的に活用するには使う「時期」が重要だと言います。

「こういったものを使うのは引っ越し前から始めましょう。猫が『いつものニオイだ』と思えるようになれば、より効果が高まります。引っ越し前に飼い主さんがバタバタ家具を動かしたり荷物をまとめたりしている時期から猫にとって『非日常』は始まっています。ぜひその時期から使ってみてほしいです。」

猫のストレスケア商品はフェロモン製品やサプリのほか、フードにサプリの成分が添加されたものもあります。猫が環境変化に対応できるか心配な場合は獣医師に相談してみましょう。

新生活でも猫の「いつもどおり」を保つ工夫を

お気に入りの箱で眠る我が家の猫
お気に入りの箱で眠る我が家の猫

猫にとって新生活による環境変化は大きなストレスであり、体調不良や病気につながってしまうこともあります。家以外の環境をなるべく変えないようにする人間側の気遣いは不可欠です。

また、あらかじめ慣れた状態で病院での検診を受けておくことで、体調不良のサインにいち早く気づくことができ、病院のストレスと引っ越しのストレスを分断することにもつながります。

中野先生と話す中で「予防が一番」という言葉が何度も出てきました。猫のストレス緩和を目指して、引っ越しや猫をお迎えした「後」に慌てるのではなく、事前にできうる対策をすべてやっておくようにしたいものですね。

環境が変わったことで起こる猫の問題行動は、飼い主の不安に起因していることも少なくありません。問題行動についてのお悩みは飼い主さんだけで抱え込みすぎず、ぜひお近くの行動診療科にご相談ください。

参考:日本獣医動物行動研究会

取材協力

中野あや(獣医師)

動物行動クリニックなかの

獣医行動診療科認定医

行動診療科は、いわゆる「問題行動」の治療を専門とする診療科ですが、『問題』の原因が動物だけにあることは稀で、人間や環境にも問題があることがほとんどです。

行動トラブルには体の病気や不調も含めた様々な要因が関係しているため、『しつけ』で済ませるのではなく、原因を特定して向き合いながら、困っている動物とその家族が心穏やかに過ごせるようにしていきます。

また、あらかじめ「問題行動」にならないための知識を啓発することも私たちの仕事です。

サイエンスライター

保護猫2匹と暮らす理系ライター。猫や犬などペットとして身近な動物の研究をわかりやすく発信します。動物に関する研究は日々進んでいます。最新研究を知っておくと、きっとペットとの生活がより豊かなものになるはず。読めば人も動物もWin-Winになるような記事を書いていきたいと思います。

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