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津波避難は徒歩が原則、しかし現実は車利用が最も多く次いでバイク・自転車だった!

栗栖成之防災士×探偵ライター
photo AC

今年は、2011年3月11日14時46分に発生した東日本大震災から、14年目を迎えます。また、能登半島地震から2か月が過ぎました。

今後30年以内に70~80%の確立で起きると予想される南海トラフ地震でも、津波から逃げないといけません。

そこで、津波から素早く逃げるにはどのような避難手段が有効なのか、改めて考えてみましょう。

防災士として学んだのは、津波避難は徒歩が原則!

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防災士の資格取得講習では、津波からの避難は徒歩が原則と学びました。

  • 車が渋滞して緊急車両が通行できない
  • 運転中であっても、車を置いて徒歩で避難
  • 道路左側に寄せるか、駐車場に入れてカギをつけたままにする

徒歩避難が原則であることは理屈では分かりますが、実際にレクサスやベンツ、BMWなどの高級車を、カギをつけたまま放置して逃げる方はいないのではないでしょうか。

「命と車どちらが大切ですか?」といわれても、「じゃあ数千万円の車を捨てます!」とは現実的ではありません。また、高級車でなくてもマイカーは財産ですからね。

東日本大震災時の津波避難行動を振り返ると車がトップ

photo AC
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そこで実際に東日本大震災時には、どのように避難がなされていたか調べることとしました。まずは内閣府がまとめた「平成23年東日本大震災における避難行動等に関する面接調査(住民)分析結果(再追加分)」から確認してみましょう。

内閣府資料
内閣府資料

避難時に車を使用した方は、全体の57%と半数以上を占めています。そして注目すべきは車利用時の渋滞状況で、全体の66%の方が「渋滞に遭わなかった」と回答しています。

もちろん、地域によって差があるのは当然ですがこの結果を見ると、津波避難時に車を利用しても必ず渋滞するとは限らないことが分かります。

避難に車を使用した理由のトップ「間に合わないと思った」

内閣府資料
内閣府資料

このグラフは「避難時に車を使用した理由」の調査結果で、「その他」以外の項目を多い順から並び替えると次のようになります。

  1. 車でないと間に合わないと思った(34%)
  2. 家族で避難しようと思ったから(32%)
  3. 平時の移動には車を使っているから(23%)
  4. 安全な場所まで遠くて、車でないと行けないと思った(20%)
  5. 避難をはじめた場所に車で来ていたから(20%)
  6. 家族を探したり、迎えに行こうと思った(16%)
  7. 車も財産なので守ろうとした(7%)
  8. 荷物を運べるから(6%)
  9. 車であれば情報が得られるから(4%)
  10. 渋滞すると思っていなかったから(3%)

津波避難は1秒でも早い避難行動が重要なのは、東日本大震災を受けて誰もが脳裏に刻み込まれました。ただ、それ以前の状況でもやはり早く非難する方法として、車が利用されていたのです。

ただ、次の調査結果を見てみると、車避難と徒歩避難とでは、避難場所までの移動距離が関係していたようです。

一次避難所までの移動距離

内閣府資料
内閣府資料

車で避難した方と徒歩避難の方とでは、一次避難所までの距離が異なっています。

徒歩避難できた方の移動距離は500mほどですが、車で避難した方の移動距離は2,000mと4倍もの差があります。

このデータからいえることは、避難場所までの距離が遠ければ車を使うしか避難方法はない!となります。

実際に普段から運動していない方が、いきなり2kmもの距離を歩いて避難するのは相当な労力が必要となります。ましてや、小さな子どもを連れている方や、高齢者の方では、避難途中で津波に襲われるかも知れません。

2kmを移動したときの時間比較

因みに2kmを「徒歩・自転車・車」で移動したときの時間を比較してみました。

  • 徒歩:約25~30分
  • 自転車:約5~7分(徒歩の約3倍のスピードで計算)
  • 車:約2分~4分(時速40kmで計算)

これらはあくまでも目安であり、不動産屋がよく利用する「徒歩1分は80m」で計算しています。

「じゃあ、誰でも車避難でイイじゃん!」とはならない理由

ここまでの情報から津波時には、徒歩避難でなく車避難がよいと思いますよね。ところが、国土交通省が公表している津波からの避難実態調査結果(速報)を確認すると、次のことが分かります。

  • 地震により停電が発生し信号が点灯していない
  • これらの事態を含めて渋滞が起きた地域もある
  • 避難までの平均所要時間は、徒歩は約11分、車は約16分
  • 避難時の平均速度は、徒歩は約2.3km/時、車は約9.0km/時
  • 徒歩避難の場合は坂道を登るため避難時間に個人差が発生する

この情報から避難所までの距離が近い場合は、ゆれが収まったらすぐに徒歩避難を開始すれば車より早く避難できています。

従って車による避難を選ぶ場合は、避難所までの距離が500m以上ある場合が有効です。

ただし、複数人の高齢者を同時に避難させるには、避難所が近くても坂道を登るため車避難の方が有効といえるでしょう。

さらに注意したいのは、津波から逃げるための高台の避難場所には駐車スペースがない場所もあるため、途中で車を乗り捨てることとなります。

これらのことから、「誰もが車避難でイイ」とはいえないのです!

徒歩避難は「原則」状況に応じて手段は自分で選択

イラストAC
イラストAC

津波避難は徒歩が原則とされていますが、あくまでも「原則」であり状況に応じて自分で手段の選択が必要だと思います。ただし、車を利用したことによって、他人の避難を妨げることは絶対にあってはなりません!

元日に起きた能登半島地震でも、車避難している途中で近隣住民の方を乗せた途端に津波が襲っています。もし、徒歩で避難していたなら津波に飲み込まれていた状況でした。

個人単位で行うベストな方法は、地震が起きたらどこにどうやって避難するか、平時から決めておくことでしょう。

  • ハザードマップで津波避難所を確認
  • 自宅から避難所まで実際に歩いてみる(歩ける距離であれば)
  • 避難所が遠い場合は車で試してみる
  • 避難場所に車を駐車できるかも確認
  • 通勤や通学途中で地震が起きた際の避難所も決めておく
  • 普段から電動アシスト自転車を使用しているなら、子どもと一緒に自転車での避難が有効
  • 避難時は周囲で協力して逃げ遅れを出さない

車避難時の注意ポイント!

津波避難時には徒歩避難が原則ですが、記事内で紹介したとおり状況によっては車避難を選択した方がよいケースもあります。ただし、津波は大きな地震のあとに襲ってきます。そのため、次の点に注意しなくてはいけません。

  • 液状化によって正常な通行が不可能
  • 地震による道路の破損
  • 橋梁の崩落
  • 踏切の遮断機が下りたまま
  • 信号が停止して交差点での事故が発生

これらは、先日の能登半島地震にてみなさんがテレビなどで目の当たりにしている現状も含まれています。車なら早く逃げることが可能ですが、周囲の状況をしっかり把握して決断しないといけません。

大津波警報が発表されれば冷静ではいられないのが現実

photo AC
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津波警報や大津波警報が発表されて、冷静でいられる方は少数に限られるでしょう。実際には、自分や家族で逃げるのが精一杯になるはずです。

ただ、避難ルートが分かっていれば徒歩でも自転車でも車でも、なんでもよいので避難所を目標に逃げられます。

普段は忙しくて何となくしか避難について考えられなくても、3.11を機会に自分や家族の命を守る避難行動を確認してはいかがでしょう。

防災士×探偵ライター

これまで、洪水・土砂災害・地震・津波・高潮など、あらゆるハザードマップを作成。2017年に防災士とひょうご防災リーダーの資格を取得。2014年からWEBライターとして活躍し、現在では経験と資格を活かしてさまざまなメディアに多ジャンルにて記事を投稿中!フリーでの執筆活動をメインにしつつ、探偵として地域の困りごとも解決している。

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