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雪国の茶畑!北限の茶産地 新潟「村上茶」樹齢150年の木のお茶を味わう

日本茶ナビゲーター Tomoko日本茶インストラクター

急に一面の雪景色!(秋なのにちょっと暑さも残るので今見ると新鮮!)

それもそのはず、こちら、新潟県の茶畑です!

雪にすっぽりと覆われて、茶畑と言われないとわかりません。

北限の茶処、新潟県の「村上茶」をご存じでしょうか?

お茶は静岡や鹿児島など比較的温暖な地域で栽培されているイメージですが、なんと雪国の新潟県でもお茶が生産されているのです!

雪国の寒さにも負けず長い長い年月村上で生産されているお茶の味はしなやかでたおやか。

今回はその「村上茶」にフォーカスします。

新潟県の「村上茶」

新潟県でもお茶が栽培されていると聞くと驚かれます。

新潟県といえば日本一の米どころ。雪が多いためスキー場も数多くあります。

その新潟県の北部に位置する村上市で栽培・生産されるお茶を「村上茶」と呼びます。

昔から大切に守られてきた希少な在来種(その土地に植わっている品種の定まらない茶の木)の茶葉が味わえる村上茶は、日本茶マニアにファンも多く、年に一度の日本茶インストラクター認定試験では「北限の茶 村上茶」は必ず覚えるキーワードでもあります。

村上茶の魅力はどんなところにあるか、今回は冨士美園の飯島剛志さんに伺いました。

村上茶の茶畑。品種は「ふくみどり」(撮影:冨士美園 飯島さま)※こちらの写真はトップと記事内に出てくる雪に覆われた茶畑の写真と同じ方向から撮ったものです!見比べてみてくださいね
村上茶の茶畑。品種は「ふくみどり」(撮影:冨士美園 飯島さま)※こちらの写真はトップと記事内に出てくる雪に覆われた茶畑の写真と同じ方向から撮ったものです!見比べてみてくださいね

400年の歴史、樹齢150年の「村上茶」の魅力

村上茶など村上市の産物を紹介している村上市観光協会のサイト(外部リンク)では

村上茶の歴史は古く、栽培の歴史は江戸時代初期(1620年代)までさかのぼります。村上藩の大年寄・徳光屋覚左衛門(とくみつやかくざえもん)が宇治伊勢の茶の実を買い入れ、主要地場産業にしようとしたのがその始まりといわれ、約400年の歴史があります。

今も、村上市の東林寺には徳光屋覚左衛門がまつられています。

昨年はちょうど400年となる年でしたが、コロナ禍で盛大なイベントは行えなかったとのことで、村上茶の関係者の方々は残念がっていたとのこと。

村上茶の祖「徳光屋覚左衛門」の石碑(撮影:冨士美園 飯島さま)
村上茶の祖「徳光屋覚左衛門」の石碑(撮影:冨士美園 飯島さま)

冨士美園の「村上茶」にはなんと樹齢150年の在来種の茶葉が使われており、現在の在来種は江戸の終わりから明治期の輸出が盛んな時に植えられたものが多いとのこと。

今でも150年前に植えられた茶の木の芽がお茶になっているとは!驚きです!!

在来種はおもしろい特徴があることが多いため興味深いです。

こちらのお茶は在来種と品種のブレンドとのこと。私も飲んでみました!

新茶の時期に購入した冨士美園の「煎茶New&Classic」
新茶の時期に購入した冨士美園の「煎茶New&Classic」

茶葉の香りはいつもよく飲むお茶(日本茶の7割以上はやぶきた種)と比べるとほのかにフローラルな香りがします。

お茶をいれてしばらく置くと、最初は隠れていたその花のような香りがふわりと漂ってきます。

お茶をいれてすぐとしばらく置いたときの香りが違うので、別のお茶を飲んでいるような感覚で新鮮に感じます(1つで2度おいしい)。そしてなんとも奥ゆかしい上品な香りと味です。

茶葉は普通煎茶。薄い黄色い水色(すいしょく)で、香りも味も柔らかさの中に力強さを感じます。
茶葉は普通煎茶。薄い黄色い水色(すいしょく)で、香りも味も柔らかさの中に力強さを感じます。

75度くらいの温度で1分ほど待っていれると自然な甘味とまろやかさを感じます。

逆に85度から90度くらいの熱いお湯でさっといれると、香りが存分に楽しめすっきりした苦渋味を少し感じます。

苦渋味が強くないので、様々ないれ方で楽しめるお茶ではないでしょうか。水出しもおすすめです。

村上では全体の栽培面積の7割弱が在来種(冨士美園さんでは3割)と伺い、驚きました。在来種の煎茶は日本茶の中でも珍しいので、とても貴重ですね。

他の地域でも在来種を育てている生産者さんもいますがその数は少なく、品種茶の栽培が圧倒的多数です。

ではなぜ村上茶はこのように在来種の割合が多いのでしょうか?

冬の寒さに耐えうる茶木が残った産地

前出の村上市観光協会のサイトによると、

東北地方でも、お茶の栽培は昭和の初めごろまで盛んに行われていました。しかし、時代が進むにつれて温暖な産地の生産性や品質が向上し、寒冷な産地は次第に競争力を失って廃れていきました。
こういった中でも村上茶が生き残れたのは、海岸側にあって比較的積雪量が少なく、しかも適度な積雪が茶の木を寒風から保護してくれること、冬期の最低気温も-10度以下になることが少ない、などの条件が恵まれていることが挙げられます。そして、何よりも村上の人々が長い年月をかけ、根気よく栽培技術を磨いてきたことが産地死守につながったのです。

という、茶産地を守るための並々ならぬ努力がうかがえます。

こちらの写真をごらんください。一面の雪景色!ですが、ここは茶畑です!

一面の雪景色!雪に覆われた茶畑(よく見ないとわからないくらい)撮影:冨士美園 飯島さま
一面の雪景色!雪に覆われた茶畑(よく見ないとわからないくらい)撮影:冨士美園 飯島さま

よく見るとこんもりとした茶木の畝が並んでいます!

冬はここまで雪に覆われるのですね。驚きました。

冨士美園の飯島さんにも伺ってみたところ、在来種でないと育てられなかった理由が見えてきました。

村上に在来種が多く残った理由は、雪と寒さにより品種への改植が出来なかったことが大きいです。
全国的にやぶきたが広まり始めた昭和30年代、村上でも試みましたがその時は根付かなかったのです。
村上に始めて品種が根付いたのは約30年前、常盤園の前社長、矢部徹也氏(故人)が成功させました。

品種茶もあるにはあるけれど、数百年も冬の寒さに耐えて強いものだけが生き残った在来種が今もしっかり役割を担っているというところに魅力を感じます。

一般的に茶の木はマイナス10度以下になると枯れてしまうと言われているので、自然に選抜されてきた木は本当に貴重ですね。

飲んでいて、どことなく感じる力強さは在来種の持つパワーなのかもしれません。

在来種の畑。畝が曲がっているのは手摘みで摘採を行っていたころのなごり。明治初期は手摘みのみだったため畝に仕立てる必要がなかったそうです。(撮影:冨士美園 飯島さま)
在来種の畑。畝が曲がっているのは手摘みで摘採を行っていたころのなごり。明治初期は手摘みのみだったため畝に仕立てる必要がなかったそうです。(撮影:冨士美園 飯島さま)

雪に負けない工夫

飯島さんに「村上での茶の栽培で工夫されていること」と「茶の栽培で他の産地にはない大変な点」を聞いてみました。

 常に積雪を考えて茶園管理をします。
剪定作業で積雪に耐える茶樹つくりをして、なるべく枝が折れないように仕立てます(それでも折れますが…)。

雪の重みで枝が折れてしまうのを防ぐ工夫をされているのですね。 

雪による雪害が毎年のようにおこります。
雪で折れた枝は再生するのに3年ほどかかります。結果的に収穫量は少なくなります。

雪で枝が折れてしまうと元通りになるのに3年もかかるのですか・・・。一度折れるとダメージが大きいのですね。

新植園(新しく苗を植えた茶畑)では、植えてから4年目まで、雪が降る前(11月)に苗木1本1本に添え木をしてひも紐で縛り積雪に備えます。
雪解け後(3月)、縛った紐を解いてあげます。

雪への対策に1本1本手間ひまかけて育てているのですね。手作業が多く時間もかかります。

生命力のあふれる村上茶!

飯島さんに、村上茶の栽培の特徴について伺いました。

元々、村上の土壌や気候に耐えられた種だけが自然に淘汰されて現在の在来種園になっているので茶樹自体が強く、品種より管理はしやすいです。茶樹自体に農薬を使ったことがありません。(除草剤は使いますが)n茶の木自体が強いので、病気や害虫にも負けないとのこと。ずっと農薬を使わずに栽培していることにも驚きました。

茶の木自体が強いので、病気や害虫にも負けないとのこと。ずっと農薬を使わずに栽培していることにも驚きました。

その代わり収穫量は品種に比べ4分の1以下。葉の持つ水分量が少ないので、乾き過ぎないよう気を付けて製造します。

収穫量が少ないということは、同じ面積の茶畑でも、品種茶の茶畑よりとれる量が少なくなるのですね(品種茶は味はもちろん収穫量などの面で育てやすいものが選ばれることも多いです)。

茶摘みの時期の茶畑。品種は「あさのか」(撮影:冨士美園 飯島さま)
茶摘みの時期の茶畑。品種は「あさのか」(撮影:冨士美園 飯島さま)

飯島さんに「村上茶の特徴を一言でいうと?」と質問してみたところ「力強い、滋味、うま味、香り」とのご返答が。

 12月~2月はほとんどお日様が出る事の無い日本海側の空。
それに加えて1月~2月は積雪により茶樹が完全に覆われ、日の光が届かなくなります。
この冬期間にじっくりと樹の中に養分を蓄え、春先に一気に新芽に養分を届ける事により
生まれるのが村上茶の特徴だと思います。

太陽の光が当たると葉の中の甘味やうま味の成分テアニンが苦渋味のカテキンに変わりますが、村上茶は日光があまり当たらないので茶葉に苦渋味が多くは含まれないのですね。

まろやかで香り高い村上茶を飲みつつ、雪景色から春になり芽吹いた新芽を思い浮かべて、味わいを楽しむ時間。村上にもぜひ行ってみたくなります。

村上茶を楽しむ

村上茶と一言で言っても、茶商によりお茶の味は違います。また同じ茶商でもさまざまな茶葉を扱っているのでその中でも飲み比べが楽しめます(村上茶の和紅茶もありますよ)。

その土地その土地の気候風土で栽培される日本茶の魅力は「みんな違ってみんないい」だと常日頃思っています。

なぜなら、日本のお茶が全部同じところを目指して同じ味になってしまったら、「今日はこういう気分だからこの産地のお茶を飲もう」とか「いつもとちょっと違うお茶が飲んでみたい」というときに選ぶバリエーションが少なくなってしまうからです。

それほど広くはない日本の中にこれだけ多様なお茶があるというのは、とても贅沢で素晴らしいことだと思います。

お茶を飲んでその土地のことに思いを馳せるのも楽しみの一つです。

今は緊急事態宣言も明けて、国内旅行を楽しむ方も多くなるかと思います。

魅力あふれる村上茶の産地も訪れてみてはいかがでしょうか。

今回、取材にご協力いただいた【冨士美園】さんのご紹介

冨士美園ホームページ(外部リンク)

冨士美園 株式会社 〒958-0844 新潟県村上市長井町4-19

冨士美園さんの喫茶「茶寮カネエイ」もあります♪

日本茶インストラクター

【お茶の世界の扉を開く日本茶ナビゲーター】 日本茶専門店で7年勤務、茶道歴25年の経験を活かし、大手百貨店や外国の大学等でのワークショップで国内外2,000名以上の方に日本茶の魅力を伝える。美味しい日本茶とそれにまつわる伝統工芸品を後世にも繋いでいきたい、日本茶への愛と想いで日本茶情報を発信中。日本茶の商品開発やカフェ・飲食店での日本茶コーディネートや淹れ方指導。NPO法人日本茶インストラクター協会認定日本茶インストラクター(2004年取得)。

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