花香るほうじ茶「土山一晩ほうじ」新感覚のほうじ茶で取り組む滋賀県の地方創生プロジェクトが熱い!
こんなにリラックスできるほうじ茶、はじめてだなぁ。
しっかりとした香ばしさの中にほのかにふわっとかおる花香(はなか)。
華やかながらも飽きのこないほっとする味。
和にも洋にも、ご飯にもお菓子にも合う、毎日飲みたくなる味。
年間100種類以上(いや、もっと多いかもしれない)の日本茶を飲んでいてそう感じるということは、もしや、すごいほうじ茶なのでは?
隠れた逸品?
気になる!
というわけで、土山一晩(つちやまひとばん)ほうじについて、生産に関わる方に詳しく伺うことにしました。
地域の活性化への一大プロジェクトから生まれた新しいお茶!
あれ?違う!新感覚のほうじ茶
「土山一晩ほうじ」を初めて飲んだとき「あれ?違う!こんなほうじ茶初めてかも」と驚きました。
萎凋(いちょう)ほうじ茶とパッケージに書いてあるので、これまで飲んだことのある萎凋ほうじ茶を想像し、きっと烏龍茶のような香りを強く感じるほうじ茶なのかなと先入観を持って飲んでみたのです。
※萎凋とは、生の茶葉をしおれさせて酸化発酵をうながすことです。そうすることにより花のような香りや柑橘のような香りが生まれ、それが烏龍茶や紅茶の香りの元になります。
ところが、土山一晩ほうじは「ほうじ茶」であることがメインで「花のような香り」はほんのりと香る程度。
飲みやすく、飽きのこない味です。
和食にも和菓子にも合うのはもちろん、ちょっと濃いめに淹れたら和紅茶のような味で洋食や洋菓子にも合う、どんなシーンでもオールマイティーに使えるお茶!という新感覚。
こういうお茶、意外と少ないのです。
萎凋ほうじ茶とは
一般的なほうじ茶は、茶畑で摘んだ生葉を酸化発酵させずにすぐに工場に運び加工した原料を使います。
しかし萎凋ほうじ茶は烏龍茶や紅茶などのように生葉をしおれさせ酸化発酵をうながした茶葉を原料として作ります。
土山一晩ほうじのように強すぎず弱すぎない香りにするには、その加工やブレンドの加減がかなり難しそうです。
実際に生産に携わるJAこうかの辻本桂一郎さんによると、
これだ!という理想の香りと味にたどり着くまでに、何度も試作と試飲を繰り返したのだそう。
さらに、萎凋をどのくらいの段階で止めるか、など、烏龍茶や紅茶の場合もとても難しいと聞きますが、土山一晩ほうじの場合は何かコツというかタイミングを計っていたりしますか?と伺うと、
4月下旬から5月上旬の新茶、つまり一番茶はスピード勝負で量も多く、その時期は煎茶やかぶせ茶の生産で手一杯になります。
もう少し後の二番茶の時期なら少し余裕を持って萎凋ほうじ茶に取り組めるという利点と、萎凋ほうじ茶という新感覚のお茶にすることで煎茶にはない希少性と付加価値が付き、手間はかかるけれど価格も普通の二番茶より高く設定できる、ということですね。
この絶妙なバランスの飲みやすさの背景には、農作物であるため毎年違ったものができる茶葉と真摯に向き合う人の技が感じられます。
4年間の試行錯誤を経て誕生した「土山一晩ほうじ」
萎凋(いちょう)した茶葉を使った新しいほうじ茶にチャレンジ
他の地域にはない唯一無二の「土山一晩ほうじ」の定義は、このように決められています。
地方創生ということで、土山一晩ほうじは1つの生産者が作っているわけではなく、ロゴは統一されていますが、様々な生産者や茶匠(茶葉を仕入れてブレンドし仕上げ加工を行い販売する)がそれぞれのオリジナルの土山一晩ほうじを作っています。
地域で1つだけ、ブランドで1つだけではなく、それぞれの個性が光る商品が複数あるのは消費者としては選ぶ楽しみが増えて良いことだと思います。
最初は不安でいっぱいだった
しかし、このプロジェクトは初めての試みということもあり、JAこうかの辻本さんも最初はとても不安だったそう。
土山一晩ほうじの販売がスタートして一年経ち、産地の方々の気持ちはどう変わったのでしょうか?
衰退しつつあった茶産地のエンパワーメントになっている「土山一晩ほうじ」。
古くから続くおいしいお茶の産地「土山」の名前を広く認知させるきっかけになるのではないでしょうか。
ほうじ茶に決めた理由
茶葉を萎凋させる工程は烏龍茶や和紅茶にもあります。
しかし、土山ではなぜ「萎凋ほうじ茶」にしたのでしょうか?
なるほど!地域の顔となるお茶でほうじ茶は確かにあまり見かけません(金沢の加賀棒茶くらいでしょうか)。
ここ近年、抹茶に次いでほうじ茶の人気は海外でも高まっており、北米ではほうじ茶を店名の冠にした「Hojicha.Co」というスターバックスのようなほうじ茶専門店も現れています。
2年前の記事「海外で日本茶が選ばれるこれだけの理由【カナダの日本茶事情】」でもHojicha.Coについて少し触れているのですが、先日インタビューしたアメリカ人の方もほうじ茶は人気があるとおっしゃっていたので、きっと海外でも生活に取り入れやすい味と香りなのでしょう。
土山一晩ほうじは「ご当地のお茶」として滋賀県のお土産としても、国内外で喜ばれるのではないでしょうか。
滋賀県は煎茶の名産地
滋賀県のお茶は「宇治茶」?
実は滋賀県南部は古くから宇治茶の産地の一つに数えられる名産地。
そこで「滋賀県なのにどうして京都の宇治茶になるの?」という疑問がわいてきます。
実は、公益社団法人京都府茶業会議所のサイトによると「宇治茶の定義」は
とされているのです。
滋賀県のお茶は宇治茶として売られることが多かったため、今も「え?滋賀県でもお茶を作ってるの?」と知らない人も多いのです。
滋賀県南部の土山や朝宮は京都府南部と隣接しており、古くから気候風土もお茶の栽培に恵まれた地域です。
辻本さんに、土山のお茶の特徴を伺いました。
言わずと知れた茶産地の土山。
しかし残念なことに全国的な知名度はあまり高くないというのが現状です。
地方創生のためにも産地名をもっと前に!
実は私はこの「土山一晩ほうじ」を目にするまで、滋賀県に「土山」という地域があり「お茶の産地」だということを知りませんでした。
同じ滋賀県でも「朝宮」の方が茶産地としては有名です。
日本茶に携わって20年、主要な産地は頭に入っているはずですが、地方の小さな産地になるとなかなかそこまでは知り得ない部分もあります。
そういう地方の小都市を知るきっかけになる商品がこのプロジェクトによって生まれたことは、とても大きい意味があるのだと思います。
最近はいろいろな地方都市で地域の活性化のためのブランディングとしてその地域の名前を商品名に入れた商品を作るなどの取り組みが進められています。
知名度や認知度が上がると、観光や特産物の購入にも繋がっていくのです。
デザインで「土山一晩ほうじ」の魅力を伝える!
ところで、みなさんがお茶を買う時、どうやって選びますか?
ひと昔前までは、どれも同じようなパッケージが並んでいて、値段で判断するくらいしかできませんでした。
しかし最近はパッケージのデザインにも力を入れている商品も増えてきました。
それでも情報は少な目で、いわゆる「パケ買い」、つまり、パッケージが素敵だから買ってみた!という例も少なくはありません。
オンラインで購入する場合は商品説明を読んで、これなら良いかも、と選ぶ場合もあるかもしれません。
店頭で販売しているものなら、お店の人に「これとこれはどう違うの?」などと説明を聞いたり、自分でパッケージやリーフレットを見て選ぶことになります。
後者の場合はよっぽどその商品が気になる場合でないと、忙しい人が多い中、興味を引いて説明まで読んでもらえるように工夫するのはなかなか難しそうです。
店頭にスタッフがいない場合は質問もできず購入へのハードルも上がります。
私もこれまで店頭で日本茶を販売したり商品開発に携わる機会がありましたが、つくづく、日本茶はコーヒーより説明が必要な嗜好品だと気づかされることが多くありました。
普段何気なく飲んでいるのに、実は人々はそれほど日本茶のことを知らないし気にしてもいない。いつもそこにある飲み物の一つ、という位置付け。
店員が一人一人のお客様に逐一説明するのには限界がある・・・。
そこで、それを解決するのがデザインの力!
土山一晩ほうじのデザインに込められたメッセージ
お茶の色とパッケージの色がシンクロしているから、お茶をいれたときの感覚がイメージしやすい。
パッケージを見た瞬間に、どんな産地のどんなお茶なのかすぐわかる。
お茶についての説明がわかりやすく、その商品のストーリーまで垣間見えるパッケージとなっています。
そして、写真はありませんが、もう一つの側面には、湯温や待つ時間などのいれ方も書いてあり、消費者目線でとても親切なパッケージだと感じました(リーフの袋には説明が全て裏面に載っています)。
デザインを担当したのは滋賀県出身のデザイナー
お茶を飲む家庭が減り、300軒あった茶農家が100軒に減ってしまった土山。
その危機感から、平成30年、滋賀県茶業会議所に属する土山の茶農家と茶匠を中心に、土山ならではのお茶を開発するプロジェクトがスタート。
それに賛同した甲賀市のバックアップのもと、産地が一体となった取り組みへと発展しました。
プロジェクトが始まるときに滋賀県茶業会議所の岩永峯一さんが白羽の矢を立てたのは、「ブランディングデザインで日本を元気にする」をコンセプトに掲げる東京のデザイン会社「エイトブランディングデザイン(外部サイト)」の西澤明洋さんでした。
「産地、行政、クリエイター」三位一体のプロジェクトで生まれた土山一晩ほうじは、味はもちろん、そのデザインまでしっかりとプロの技とセンスが表れています。
私が土山一晩ほうじを知ったのは、過去記事「これが急須?全国チェーンのカフェで本格的な日本茶が飲める!「進化系の茶器」で楽しむ癒しの時間」で進化系急須のパッケージデザインを担当した西澤さんにお会いしたことから。
ちょっとこれ飲んでみて!と気軽な感じでいただき、家でいれてみてそのおいしさにびっくり!
そしてこれはたくさんの人に広めたい!と西澤さんからJAこうかの辻本さんをご紹介いただき、取材させていただきました。
一度飲んでみてほしい。
おいしいお茶との出会いをもっとたくさんの人に!という想いが繋ぐ、人と人とのご縁、お茶との縁、今後もその輪が広がっていくことに期待します。
【パッケージデザインが賞を受賞!】
土山一晩ほうじのパッケージはそのデザイン性から「2023 日本パッケージングコンテスト 」 パッケージデザイン賞と「第62回 ジャパンパッケージングコンペティション」地域産業商品部門賞を受賞しています。
茶産地でおすすめの土山一晩ほうじの楽しみ方
最後に、JAこうかの辻本さんに、土山一晩ほうじのおすすめの楽しみ方を伺いました。
私もマイボトルにはいつもほうじ茶を入れています。
冷たくしてもおいしく、温かくしてもおいしく、色や香りが変わりにくいほうじ茶はマイボトルに入れて出かけるのにぴったりです!
そして辻本さんのおすすめのお茶請けは、滋賀県の名物でもある「丁稚羊羹(でっちようかん)」だそう。
滋賀県の特産品のこの組み合わせ、ぜひ試してみたいですね!
参考:土山一晩ほうじホームページ(外部サイト)