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心理学「返報性の法則」で人間関係を良くする

太田章代新人育成トレーナー

心理学でよく知られた法則に、「返報性の法則」があります。返報性の法則は、仕事でもプライベートでも、人間関係を築く上で知っておくと、すぐに活用できます。

これよりは、返報性の法則の4つの種類と、それぞれに活用法についてご紹介します。

返報性の法則とは

「返報性の法則」とは、誰かに何かをしてもらったら、自分もお返ししたくなる心理のことです。

たとえば、笑顔で挨拶をされたら、自然と笑顔で挨拶を返してしまう、などといったことが当てはまります。

私は前職の営業時代、自分が笑顔で大きな声で挨拶をすると、お客様も同じく挨拶を返してくれることに気づきました。当時はまだ「返報性の法則」という言葉は知らなかったものの、自分のしたことが、相手から返ってくる実感はしていました。

スタンフォード大学の『返報性の法則』コーラの実験

返報性の法則を研究した心理学者のデニス・リーガン氏は、スタンフォード大学の男子学生に対し、こんな実験を行いました。

まず、学生たちには「美術品を鑑賞して評価する」という偽の課題を与えます。

しかし、一緒に美術品を鑑賞している学生たちの中には、仕掛け人が混じっています。仕掛け人は、鑑賞中に一旦席を外して、コーラを買ってきます。その際、買ってくるコーラには2パターンがあります。

1:自分のコーラだけを買ってくる

2:自分の分と一緒に、被験者の分のコーラを買ってきて渡す

その後、仕掛け人は、「抽選で景品が当たるチケットを買わないか?」と被験者である学生に持ちかけます。さて、学生はチケットを買ったでしょうか。

結果は、以下の通りでした。

2:コーラをもらった学生は、1:コーラをもらわなかった学生に比べ、約2倍の枚数のチケットを購入しました。

結果は、仕掛け人の好感度に関係なく、「コーラをおごったかどうか」によって、借りを返そうとして、チケットの購入率が上昇したのです。返報性の法則は、人物の好き嫌いを超えて機能するのです。

「返報性の法則」4種類と具体例

返報性の法則を、ビジネスに利用している身近な例は多くあります。実は、あなた自身も気づかないうちに活用しているかもしれません。ここでは活用例をご紹介します。

好意の返報性

好意の返報性とは、相手から受けた好意を、好意で返したいと思う心理のことです。

たとえば、

「相手に褒められると、自分も相手の褒めるところを探す」

「同僚に旅行のお土産をもらうと、自分もお土産をあげたくなる」

「仕事で困っているときに助けられると、相手が困っているときは助けたくなる」

「スーパーでソーセージを試食させてもらったので、お返しに購入したいと思う」

「服を試着して、親切にされると、つい服を買ってしまう」

などなど、その例は枚挙にいとまがありません。

私が研修講師をする際には、「上司に好意を持ってほしいと思ったら、まずは自分から上司が喜ぶことをしよう」とお伝えしています。人から好かれるためには、自分が相手のことを好きになるという方法が効果的なのです。

営業も同様です。「買ってください」といくらお願いしても、それだけでは商品は売れません。お客様にとって役立つ情報を提供したり、お客様の話を親身になって聴くなど、親切をすることで、売上につながるのです。

敵意の返報性

「やられたらやり返す、倍返しだ!」とは、ドラマ半沢直樹の有名なセリフですね。半沢直樹は、受けた屈辱は倍にして返すことを流儀としていますが、これは「お返し」ならぬ「仕返し」です。

つまり、敵意の返報性とは、自分に向けられた敵意を、相手にも返したくなる心理です。

たとえば、

「自分のことを嫌いな態度が見せられると、自分も嫌いな気持ちが芽生える」

「相手から悪く評価されると、相手に嫌悪感を抱いてしまう」

「横柄な接客態度を取られると、こちらも同じような態度を取りたくなる」

などです。

管理職をしている男性が、部下の悪いところばかりを見ており、「この部下は何も良い点がない」と言っていました。おそらく部下も『敵意の返報性』で、同じように上司のことを思っていることでしょう。

相手に対するネガティブな感情は、自分に跳ね返ってくるのです。

譲歩の返報性

譲歩の返報性とは、相手が譲ってくれた場合、自分も譲りたくなってしまう心理です。

たとえば、

「友達から温泉旅行に誘われて断ったので、次に日帰り旅行に誘われると断りづらい」

「スーパーのレジに同時に並ぼうとした人が『どうぞ』と譲ってくれたら、『いえいえ、どうぞお先に』とこちらも譲りたくなる」

「あなただけにお安くしときますよ、と値段を割り引いてくれたので、買わないと悪いと思ってしまう」

などです。

相手が譲ってくれれば譲ってくれるほど、自分も譲歩しなければ、と思ってしまうのです。

自己開示の返報性

自己開示の返報性とは、相手がオープンに自分のことを話してくれると、自分も同じように話しやすくなる心理です。

たとえば、

「相手が自分のダメなところを見せてくれると、自分もダメなところをさらけ出せる」

「初対面の相手が、心を開いてフランクに話してくれると、自分も話しやすくなる」

「友達が自分の秘密を話してくれたので、自分も秘密をしゃべりやすくなる」

などです。

相手に嫌われるのは怖いものですが、いつまでも怖がって自分を出すことができないと、人間関係を円滑に進めることができません。自分の考えを伝えていかなければ、『何を考えているのかわからない人』という印象を与えてしまいます。自分の考えをオープンに伝えて、周囲との距離を縮めていきましょう。

返報性の法則が効かない原因

ここまでの記事を読めば、「自分がしたことが、返ってくる」ということを、ご理解いただけたと思います。しかし、だからといって、やみくもに実践しても上手くいくとは限りません。

返報性の法則を知っているだけで、仕事が成功するわけではないのです。その原因はどこにあるのでしょうか。

見返りを求めていることがミエミエの場合

「こんなに良くしてやったのに、突然辞めた社員がいる」とお怒りの社長がいました。社長は社員に好意を持って、さまざまな世話を焼いていたのですが、社員にとってみれば「おせっかい」や「恩着せがましい」と感じていたかもしれません。「見返りを期待している」とわかってしまうような行為は逆効果です。かえって関係を悪くしてしまいます。

かえって警戒心を抱かせてしまう場合

たとえば、最近知り合ったばかりのお客様から、高級バッグをもらったらどうでしょうか。とんでもない要求をされるのではないか、何か下心があるのかと、疑心暗鬼になってしまいます。関係性に見合わない好意は、相手に警戒されたり、負担に感じさせてしまいます。高価なものを突然贈るのは、警戒心を煽るだけです。

今すぐできる「好意の返報性」アクションプラン

上記では、4つの返報性の法則をお伝えしましたが、コミュニケーションを円滑にしたいなら、「好意の返報性」が一番です。好意の返報性には、モノをあげたり、褒めたりなど、さまざまな方法がありますが、最も簡単にできるのは「感謝を伝える」ことです。

「ありがとうございます」は、今すぐにでも始められる「好意の返報性」です。

「商談でフォローをしていただき、ありがとうございます」

「丁寧な資料づくりを、ありがとうございます」

「詳細に伝えてくださって、ありがとうございます」

など、仕事の中で感じた感謝を言葉にして、普段の2倍伝えてみましょう。

きっと、相手はあなたに好意を返してくれるようになりますよ。

まとめ

返報性の法則では、良いことだけではなく悪いことも、自分の行いがもれなく自分に跳ね返ってきます。「自分は周囲の人に恵まれていない」と思っているとしたら、実は自分自身が周囲に敵意を向けていて、そのことが周りの人達の敵意を招いているのかもしれません。

人間関係を円滑にしたいなら、自分から相手に好意を言動で示したり、自己開示をして相手との距離を縮めていきましょう。

アイキャリア株式会社

研修トレーナー太田 章代

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太田章代の『ビジネスコミュニケーション術』

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新人育成トレーナー

愛知県岡崎市出身。損害保険会社の事務員から広告代理店の営業職に転職。入社2年目から6年連続売上トップ。32歳で統括本部長に抜擢。50人の部下を指導する。35歳代表取締役に就任。その後、2006年人材育成事業で独立。現在まで研修&講演に2,000本以上登壇。離職率の低下や、職場のコミュニケーション改善などで成果を上げる。独自の体験型講演が好評をいただき、講師評価98.7%でリピート率も高い。研修&講演を通して【働くを楽しむ】社会創りに貢献するという使命のもと、日本全国で精力的に活動中。

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