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NASA開発の新型巨大ロケット「SLS」苦難の開発から将来計画までを解説

新型巨大ロケット「SLS」©NASA

本記事では、NASAが開発した新型巨大ロケット「SLS」を紹介していきます。2022年の初打ち上げに成功するまでの軌跡、そして将来計画まで解説していきます。

NASAが主導する月開発計画「アルテミス」を一挙ご紹介!

■アルテミス計画の中核を担うSLSロケット

SLSロケットはNASAが主導する有人月面探査計画「アルテミス」のために開発された巨大ロケットです。SLSとは「スペースローンチシステム」の略語です。全長は111.3m、直径は8.4mで、22階建てのビルに相当します。アポロ計画で活躍したサターンVロケットに次ぐ、世界最大級のロケットです。打ち上げ形態によっては、130トンもの重量物を地球低軌道上に飛ばすことができます。

■スペースシャトルから進化したSLSロケット

VABの中で整備中のSLSロケット©NASA
VABの中で整備中のSLSロケット©NASA

SLSの機体やロケット・エンジンなどは、開発コストや期間の削減などを目的に、スペースシャトルの遺産を最大限に活用しています。まずエンジンは、スペースシャトルに搭載されていたものの改良版である「RS-25」エンジンが4基搭載されています。コア・ステージのタンクも、スペースシャトルの外部燃料タンクをほぼ流用しています。コアステージの側面には飛行の前半をサポートする2基の固体燃料ロケットブースターが取り付けられています。これも、スペースシャトルの固体ロケットブースターを継ぎ足して延長したものを使用します。

上段ステージには初期の運用で用いられる「ICPS」と呼ばれる極低温推進ステージを搭載します。また、ミッションに応じて有人ロケット型や物資運搬型などに機体構成を変えることができます。オプションとして開発中である、月に42トンのペイロードを運べる「EUS」と呼ばれるステージに換装することができます。

■SLSの使命であるゲートウェイ建設

月周回有人拠点「ゲートウェイ」©NASA
月周回有人拠点「ゲートウェイ」©NASA

前述のEUSを用いることによって、SLSは月周回有人拠点「ゲートウェイ」の建設でも大活躍することになります。ゲートウェイとは、月の周回軌道上に構築される宇宙ステーションのことで、有人月探査や将来の有人火星探査を目指して国際協力により開発されています。ゲートウェイは将来的には100日程度の長期滞在も可能になる予定です。最近、JAXAで新たに宇宙飛行士が2名選抜されましたが、この方々はSLSロケットに搭乗してゲートウェイへ向かうことになると考えられます。そして、将来的にはSLSロケットは2030年代に実施が検討されている有人火星探査にも使用される予定となっており、重要な使命も背負っているんです。

■前途多難な開発の歴史

SLSは2011年、オバマ政権下で開発が決定され、検討が行われたのち、2014年から本格的な開発段階に入りました。当初は2018年の打ち上げを目指していましたが、メインエンジンである「コア・ステージ」の不具合をはじめ、大統領の変更、ハリケーンによる開発拠点の損傷、コロナウィルス、NASAのブライデンスタイン長官の退任など、打ち上げは度々遅れていました。まさに踏んだり蹴ったりですね。一時は、ゲートウェイの建設はSpaceXのファルコンヘビーロケットでやれば良いんじゃない?SLSロケットって本当に完成するの?などの諦めムードが漂っていました。

しかし、トランプ政権下で「2024年までに有人月着陸を実施する」ことが決定。これを受けて、NASAとボーイングは死に物狂いで開発や試験を続けてきました。そして、2021年3月のコア・ステージの燃焼試験では、実際の飛行時間に匹敵する8分強の試験を実施しました。エンジンの出力を109%まで上げたり、スロットルを下げたり上げたりするなどの確認が行われ、遂に試験目標をクリアすることに成功しました。

■初打ち上げ直前までも苦難の連続

打ち上げ体制に入るSLSロケット©NASA
打ち上げ体制に入るSLSロケット©NASA

そして遂に2021年には組み立てが完了し、2022年8月に最初の打ち上げが予定されることとなります。しかし、メインエンジンの温度センサーの故障や、燃料である液体水素の漏洩など、数々の不具合が発生し、打ち上げは幾度となく延期となります。そして、SLSに更なる悲劇が訪れます。なんと、アメリカ フロリダ州にハリケーン「イアン」が接近したのです。これにより打ち上げ予定は白紙となり、打ち上げ中止を示す「スクラブ」という用語にかけ、SLSは「スクラブ・ローンチレス・ロケット」と揶揄される程でした。

■2022年11月16日に遂に打ち上げ!!

新型巨大ロケット「SLS」©NASA
新型巨大ロケット「SLS」©NASA

様々なトラブルに見舞われたSLSロケットですが、遂に2022年11月16日に打ち上げを迎えます。今回が最初のミッションとなる「アルテミス1」では、メインペイロードに無人の新型有人宇宙船であるオリオンと、10個の超小型衛星を搭載しています。

そして、全米が見守った打ち上げは無事に成功!オリオン宇宙船はロケットから分離され、太陽光パネルを広げて月へ向かいました。そして、月の周りを通り過ぎた後は、地球の大気圏へ再突入させる試験を実施。無事に全ての宇宙飛行試験に成功しています。

続く「アルテミス2」では、2025年9月に宇宙飛行士4名が月周回飛行を行い、地球へ帰還します。そして、2026年9月には「アルテミス3」でいよいよ半世紀ぶりに人類が月面へ降り立つことになります。これからのSLSロケットの活躍も楽しみですね。

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