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7月からは必須の暑熱馴化!!

たくや/ランナー医師、ランナー、ランニングコーチ

読んで頂いてありがとうございます!
たくや/ランナーです。都内で医師&ランニングコーチをしています。

今回はこれからの時期に必要な暑熱馴化についてまとめます。

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はじめに

毎年、熱中症は7-8月にピークを迎えます。
対策として日なたや日中の外出は避ける、運動を控えるといった方法もありますが、ランナーはそういう訳にもいきません。
水分・塩分を摂取する、掛水をする、といったことはよく知られているのですが、理由や重要性があまり知られていないのが暑熱馴化です。

暑熱馴化とは?

暑熱馴化とは、暑さに慣れることです。
具体的には暑熱に身体が慣れることで、心血管、血液、汗腺、脳が鍛えられるということです。結果、暑さのなかの運動で以下のような効果が得られます。
1.血管が拡がりやすくなる
2.循環血液量が増す
3.汗で塩分を失いにくくなる(汗の量は変らない)
4.暑さを不快に感じにくくなる

ひとつひとつ見てゆきます。

暑熱馴化すると①(血管が拡がりやすくなる、循環血液量が増す)

暑さに対して、体が速やかに反応するようになります。
暑くなった直後から全身の血管が開き、熱の放散を始めます。なので短時間の運動であれば、体温の上昇が軽度で済みます。

また循環血液量が増加すことで、汗をかいても脱水になりにくくなります。なので短時間の運動であれば、運動のパフォーマンスが維持できるわけです。

暑熱馴化すると②(汗で塩分を失いにくくなる、暑さの不快感が軽減する)

また汗腺が鍛えられ、汗中の塩分が減少します。塩分不足になると、倦怠感や嘔気・嘔吐が出現しますので、これを予防できるわけです。
ですが汗の総量は増加するとも言われています。水分はしっかり摂取するようにして下さい。

また暑さの不快感が減少します。なので暑さの中での運動でメンタルがやられにくくなります。

分かりやすく言いうと、
身体的には暑さに対する防御スイッチが速く入り、防御力が増す。
感覚的には暑さに対する苦痛が和らぐ。
ということです。

暑熱馴化をするには

暑熱馴化するには本番のときと同じような温度で、同じような強度の運動が必要になります。たとえ本番は1-2時間のレースでも、暑熱馴化では30分程度で構いません。1-2週間暑さに体を慣らしましょう。
夏は早朝や夜間の、比較的涼しい時間に練習することが多いと思います。ただレースの多くは日中の炎天下で行われます。普通に練習をしていては、レースのような過酷な環境・運動の暑熱馴化ができません。

そんな時は、練習後の入浴や、サウナなども有効です。練習後はしっかり水分を補給しつつ入浴・サウナを組み合わせてみてください。

暑熱馴化しても

ただし暑熱馴化しても、暑さの運動をやめてしまうと2-4週間で馴化は失われてしまいます。一般に短期間で得た暑熱馴化は短く、長時間かけて得た暑熱馴化は長く維持されます。
そしてまた暑さに触れることで、短期間で再度馴化すると言われています。

4日間で獲得した暑熱馴化は3週間でほぼ100%失われますが、9日間かけて獲得した暑熱馴化は3週間経っても30%程度しか失われません。
そして暑熱下で運動しなかった期間が2週間程度であれば、2日間で再馴化、4週間程度であれば4日間で再馴化できると言われています。(山崎文夫「暑熱馴化と運動」臨床スポーツ医学2018(35)より)

また馴化しても無理は禁物です。体温が上がりにくくなっても、長時間運動するとさすがに上昇してしまいます。
長時間運動するのは涼しい時間帯にして、暑さの中では短時間のメリハリの効いたトレーニングを心掛けましょう。

以上、最後まで読んで頂いてありがとうございました。

もっと詳しく書いているので、興味があれば自分のNOTEも参照下さい:
・暑熱馴化について
 Note~6月からが大事!暑熱馴化!!暑熱馴化の仕方と暑熱下の対応策
 Note~誤解していませんか!?暑熱馴化!!
・特に塩分喪失、汗について
 Note~【本には書いていないランニングの知識③】汗腺を鍛えるということ
・夏の耐久レースの走り方
 Note~夏の耐久レースの走り方

今後も「医師・コーチの立場で」役立つことを、分かりやすく発信します。
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<主な参考文献>
・熱中症の救急搬送状況
総務省:令和4年の熱中症による救急搬送状況 の報道資料より(総務省HPのPDF
・暑熱の中での身体の変化
環境庁:夏季イベントにおける熱中症対策ガイドライン2020より(環境庁HPよりPDF
・練習後のサウナは、赤血球量・血漿量の増加、持久性運動力の向上が得られる
Scoon GS et al.Effect of post-exercise sauna bathing on the endurance performance of competitive male runners.J Sci Med Sport.2007(PubMed
・練習後に40度の温水浴を6日行うと暑熱馴化が得られる
Zurawlew MJ et al.Post-exercise Hot Water Immersion Elicits Heat Acclimation Adaptations That Are Retained for at Least Two Weeks.Front Physiol.2019(PubMed
・暑熱馴化で汗の塩分濃度は低下するものの、汗量は増加する
Michael J. Buono et al.Sodium ion concentration vs. sweat rate relationship in humans.J Appl Physiol.2007(journals.physiologyのPDF

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たくや/ランナーについて
中学・高校・大学と陸上競技部で、そして卒業後もランニングを続けています。フルマラソンのベストは2時間50分。
今は都内の病院で勤務をしつつ、ランステでコーチをしています。
発信はおもにNOTEでしています(ビアランニングドクターのNOTE

医師、ランナー、ランニングコーチ

41歳まで某大学病院の消化器肝臓内科で勤務、現在は都内の一般病院で内科医をしています。また、中学でランニングを始めて走歴は約40年、その経験を活かしてランニングステーションでコーチもしています。総合内科専門医・消化器病専門医・肝臓専門医・抗加齢医学会専門医、JMJA公認ランニングドクター他、資格は多数。フルマラソンの完走は67回でベストタイムは2時間50分31秒(2019湘南)。ランナーからよく聞かれることやランナーに伝えたい事を、科学的なエビデンスと経験をもとに記事を書いています。

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